テキストライブ配信で書いたやつ。ヴァッカリオ+アポロニオでドンパチやりながら遊んでるだけ。結局のところお兄ちゃんはお兄ちゃんなんだな、って。ヴァッカリオはやっぱり可愛くなってしまうごめんよいつか活躍させるから……//これ書くのに2時間。
「あ~~疲れた~~~」
「よく頑張ったな」
頭一つ小さい兄であるアポロニオに優しく言われて、ヴァッカリオは首を鳴らしながら何とも言えない気分になった。
ここは英雄庁の奥まった施設内、廊下。二人揃ってかっちりとスーツを着て歩いている。
先ほどまで何をやっていたかと言えば、ヴァッカリオの「ディオニソスXII就任調印式」だった。襲名自体はすでに行われており、今回の調印式は単なる儀式的なものと、機密保持やその他もろもろの最終締結みたいなものだ。
兄であるアポロニオはゴッドナンバーズの一人、アポロンVIでもあり、本日は兄ではなくゴッドナンバーズの立会人という立場で同席していた。
まあ、そういうわけでヴァッカリオとしてはごくごく立派なヒーローになったぞ、と胸を張りたいところだが、冒頭のとおり相変わらずアポロニオは自分を子ども扱いしてくる。まるで入学式を終えたばかりのあの時のようだ。
「それにしても、そのスーツ、よく似合っている」
「うん、これ、高かったんでしょ」
そうでもない、と笑うアポロニオだが、ヴァッカリオは知っている。今、自分が来ているスーツはアポロニオがオーダーメイドで英雄庁の協力を仰ぎながら作らせたものであることを。アポロニオがこれを渡しながら自信満々にやれ耐刃だの耐ショックだのなんだの、あれこれ難しくもないが全部聞くのもめんどくさい説明をつらつらしゃべってくれたことを思い出す。
「弟の晴れ舞台だからな。それぐらいはさせてほしい」
そして、アポロニオはヴァッカリオを見上げるとニヤリ、と笑った。
「ゴッドナンバーズともなれば、こういった服装で式典に出ることも多くなる。一着程度は持っていて損はないぞ」
「あー……それもそうだね……」
式典。出たくないなあ、とヴァッカリオは思った。最高にめんどくさい。胸を張ってヒーローだ!と言いたいところだが、それがあると思うとやっぱいいです、と遠慮したくなる。
そもそも、今だってネクタイをきっちりしめ、ベルトもしっかり……となるとぴったりフィットのスーツがまるで拘束具か何かのようだ。さっさと脱いで、ぱーっと運動したい。
ふう、と気怠いため息をつく弟を見ていたアポロニオは、少しばかり苦笑すると時間はあるか、とヴァッカリオに聞いてきた。特に用もないし、後は帰るだけ……いや待て、ディオニソスフォースによって仕事をしなければならない、と思い直したヴァッカリオは、兄の問いに「もちろん!この後とても暇だよ」と朗らかに答えた。
では、とアポロニオがヴァッカリオを連れてきたのは、英雄庁内に用意された特殊なトレーニングルーム。ルーム内の端末をいくつかアポロニオが操作すると、ルーム内の景色がパッと変更され、まるでパーティ会場のようになった。
「えっ、なにこれすごい、どういう仕組み?……テーブルとかも本物じゃん!」
「ヘパイストスフォースが作ったらしい。詳しい原理はよくわからんが、様々なシーンを再現できるトレーニングルームだ。まあ、使用にエネルギーを相当消費するから、限られたメンバーしか使えないようになっている」
物珍しそうにパーティ会場となったトレーニングルームの中を見渡し、テーブルの上のワイングラスを手にとっては指ではじいてみる。グラスは本物さながらに澄んだ音を奏でてくれた。うーん、英雄庁の技術力って不思議だ、とヴァッカリオは感嘆する。
「で、ここで何をするの?トレーニングルームなんでしょ?」
まさか、テーブルマナーでもトレーニングさせられるのか、とヴァッカリオはふと気づいて顔をしかめた。それだったらフォースに戻って、片っ端から仕事を部下に押し付けることをしていた方がよかったかもしれない。それに、フォースにいれば向こうで部下の育成だ!と言ってトレーニングもできるし。と、こんなことを言えば教育係のクリュメノスがまた頭を抱えそうだ。
「……お前も、さっきの堅苦しい会議のせいで体が凝っているのではないか?せっかくスーツを着ているからな、少し、手合わせを願おうと思って」
「手合わせ??」
「ああ。ゴッドナンバーズともなると、時には要人警護に駆り出されることもある」
「お飾りなんでしょ、政治的意味合いの強い」
唇を尖らせてヴァッカリオは言った。要人警護と言えば聞こえは良いが、要は「私はゴッドナンバーズとパイプを持っています」という虎の威を借るキツネ、の虎として扱われてしまう任務だ。一般ヒーローとしても実績を重ねていたヴァッカリオは、他のメンバーとSPとして護衛任務についたことが何回かある。それこそ、アポロニオはアポロンVIとして様々な要人警護の任務をこなしてきたはずだ。
なるほど、そういった点のコツでも教えてくれるのか、とヴァッカリオはつまらない気分から一気にウキウキした気分になって、アポロニオが何やら端末を操作しているのを眺めた。狭苦しい会議室で堅苦しく背筋を伸ばしてお堅くありがたい話を大人しく猫の皮を被って聞いていたので、ぱーっと暴れたいモヤモヤ感を抱えていたのだ。さすがお兄ちゃん、それを見抜いて誘ってくれるとは!
「……お前は、足が長くてよく蹴りを使うから……ウェストタイプより、こちらのショルダ―タイプの方が使いやすいと思う」
「???なにそれ??」
床に現れた様々な装備品を見下ろしたヴァッカリオは素直にはてなマークを頭の上に大量に浮かべた。てっきり神器を使って暴れさせてくれるのだと思ったのだが。
「要人護衛で密室となると、そう迂闊に神器を使えるわけでもないし、お前も多少は生身での戦闘訓練も受けているだろう?」
「毎日、ちゃんとやってるよ」
偉いな、とアポロニオは笑った。ディオニソスフォースはアポロンフォースに比べると近接戦闘を得意とするヒーローが多く、徒手の訓練はもはや日課となっている。ヴァッカリオもそこに混ざっては、やりたい放題、運動させてもらっていた。
「まだ英雄庁内でも正式決定したわけではないが、そのうち、実弾の銃火器を想定した制圧訓練や射撃訓練をカリキュラムに組み込む予定なのだ」
へえ、とヴァッカリオは驚いた。人造神器がある以上、それを使っての勤務になるのは当然なのだが、英雄庁はさらに手を広げるつもりらしい。政治的にも、相当難しい話なのだろうな、とは思う。警察庁あたりと縄張り争いでもしそうだ。
「やるんだ、そういうことも」
「一部の人間だけだがな。末端は今までどおり人造神器を使ってもらうことになっている……まあ、そういう込み入った話はあとにしよう」
アポロニオは頭を振るとヴァッカリオを面白そうに見て、人によっては傲慢とも感じられる態度で言い放った。
「ヘパイストスXIほど得意ではないが……銃の取り回しというものを教えてやろう」
かくして、ヴァッカリオは言われるがままにショルダーホルスターなるものを着せてもらい、初心者にはこれがお勧め、と渡されたハンドガンを手にしていた。一応、こういったものの取り扱いも一通りは学習しているが、これまで使ったことはほとんどない。
適当に撃ってみろ、と言われて、昔教えてもらったように操作しながら壁に向けて一発。発砲音こそ本物そのものだったが、壁にできたのは弾痕ではなく、蛍光ピンクの派手な染みだった。
「ペイント弾!」
「さすがに、トレーニングで実弾は使わないさ……あと、汚れたとしてもルームから出るときには消える素材でできているから、安心しても良い」
「あ~スーツでトレーニングしても大丈夫、ってことね。便利だけどお金かかってるんだろうなあ……」
「そういうことだ」
ハンドガン以外に必要なものがあればとっていいぞ、と言われたものの、ヴァッカリオは全くもってこの辺に詳しくなかったので結局ハンドガンと替えの弾倉を一つ手にしただけだった。
それでいいのか、と聞かれたので頷けば、兄がヴァッカリオに万歳!と声をかけてきた。つい、反射的にヴァッカリオも両手を挙げてしまう……昔の、着替えを手伝ってもらった幼少の頃を思い出した。アポロニオは万歳をしたヴァッカリオの脇に手を伸ばしてホルスターの封を解く。
「お前は右利きだから、銃を入れるのは左脇の方だ。右脇の方は弾倉でもいいし……そうだな、場合によってはナイフとかでも良いかもしれない。今回はホルスターが二つあるタイプにしたが、動きの邪魔になるなら一つだけの片掛けでも良いと思う」
「ふーん……お兄ちゃん、意外と詳しいんだね」
「詳しいというか、必要に迫られていろいろ学んだだけだよ」
少しばかり苦笑しながら、アポロニオはヴァッカリオのホルスターに銃をおさめ、パチリと留め金を留めた。動いてみろ、と言われて上半身を動かしたり、腕を振り回したりしてみるが、意外と邪魔にならない。
「留め金を外すにもコツがある。銃を勢いよく抜けば自然とはずれるが……まあ、練習してみるといい」
ヴァッカリオは右手で左脇のホルスターに手を伸ばし、ハンドガンのグリップを握って引っ張り出してみる。なるほど、留め金は簡単に外れて銃を手にすることができた。これでいて、激しい動作をしても普段は留め金が外れないようになっているのだという。便利なものだ。
何回か、銃を入れたり出したりして遊んでいたヴァッカリオは、ふとアポロニオを見た。いつもの、黒手袋を取り出して両手にはめると、アポロニオもヴァッカリオを見る。
「お兄ちゃん準備終わったの?」
「ああ。では、手合わせ願おうか。そうだな……まあ、護衛任務で窮屈で面白くなさそうだから、普通にテロリストの制圧にきたと思えば良い。私がテロリスト役だ」
そう言ってアポロニオは手をひらひらと振ると、パーティー会場の奥にあるステージに上がった。そうして、腕組みをするとニヤリと笑う。
「どこからでもかかってこい。相手をしてやろう」
「……ずいぶんと、強気なテロリストだね」
そう言うと同時に、ヴァッカリオはテーブルの上のナイフを持ち、アポロニオに向かって投擲した。別に、銃を使ったトレーニングだからと言って、それ以外を使ってはいけない、なんて兄は一言も言っていない。
アポロニオも特別驚くこともなく、そのナイフを躱すと、左手で腰のホルスターから拳銃を抜いてヴァッカリオに向けて発砲してきた。
「うわっ」
反撃が来るのは当然だと思っていたが、まさかいきなり発砲してくるとは!ヴァッカリオは慌てて転がり、代わりに後ろのテーブルにあったワイングラスが派手な音を立てて砕け散った。ペイント弾とは言え、当たればそれなりに痛そうだ。
バッと顔を上げてステージを見る、兄はいない。攻防中に敵から視線を外す、などという初歩的なミスを犯したヴァッカリオは舌打ちした。
こういう時はとにかく走って、相手に的を絞らせないに限る。ヴァッカリオはテーブルの間を縫って走り出せば、さきほどまでいた場所にペイント弾が着弾する音を聞いた。
ペイントの染みが広がる方向と発砲音の方角、それから一瞬見えたアポロニオの銃から犯人の場所を推測し、視線を飛ばしてみる。スッ、とテーブルのかげに隠れようとする金髪の頭を見つけ、思わずヴァッカリオは舌なめずりした。
「ふっ!」
目の前にあった豪華な椅子を片手で掴んで、兄が隠れたと思われるテーブルに投げつける。何を壊しても怒られないというのは気楽なものだ。テーブルの上に落ちた椅子が様々なものをなぎ倒し、床へと滑り落ちていく。
ヴァッカリオはハンドガンをホルスターから抜くと、兄が逃げたと思われる方向へ向かって一発。特に目視をせずに撃ったが、あたりだったようで撃った後に向けた視線の先で、アポロニオが地面を転がっているのが見えた。こういう、野生の勘は非常にするどいヴァッカリオだ。もちろんこれまでの実戦経験に裏打ちされた「勘」である。
アポロニオが姿勢を崩しているいまのうちに、と距離を詰めるように走り出したものの、すぐに立ち直ったアポロニオがまたヴァッカリオ目掛けて射撃をしてくる。銃口の位置を目視し、すぐに射線を判断してテーブルの陰に隠れる。じりじりとした攻防は、ヴァッカリオにとっては苦手なものだ。恐らく兄はそれをわかっていて「教えてやる」と言い放ったのだろう。
「ヴァッカリオ、隠れてばかりでは制圧は出来んぞ」
「わかってるって!!」
煽るような言葉が響き、イラッとした気持ちが湧き上がるが、ただの挑発。これに乗っているようでは、到底兄には敵わない。
「お兄ちゃんこそ、身長が小さくて隠れやすくて楽でいいね!」
「ああ、室内戦だとお前のその無駄に長い手足は苦労しそうだな!」
と、同時にアポロニオが動く。お互い持っている銃はハンドガンだからある程度近づかなければ意味がない。足音を聞いたヴァッカリオは、テーブルから頭を出すとアポロニオに向けて二発、撃った。一発目と二発目はずらして、回避行動を予測しながらの連射。だが、アポロニオはその場で跳躍し、テーブルに乗るとテーブルからテーブルへ飛び移ってヴァッカリオに追い縋った。
上を取られた、と苦い顔をしたヴァッカリオは隣にあったテーブルのクロスを引き取り、身を隠すように広げる。
「!」
目前に広がった白い布のかたまりに、アポロニオはヴァッカリオの姿を一瞬見失ってしまう。テーブルから飛び降りて着地する間もなく横へ転がれば、着地点にはペイント弾の染みができ、さらに目の前に銀のテーブルナイフが迫っている。咄嗟に左手の銃でナイフを弾いた。視線を動かし飛んできた方向を見れば、ヴァッカリオが仁王立ちしてハンドガンを構えている。
「チッ」
お互いにハンドガンの引き金を引く、ペイント弾が飛び交う。ヴァッカリオは照準を定めるために両手で、アポロニオは利き手の左手のみで。が、二人とも顔を横に反らすだけで弾を避けた。
アポロニオはニヤリ、と不敵な笑みを浮かべ、膝をついた姿勢のまま右手で腰のホルスターから二丁目の拳銃を取り出してヴァッカリオ目掛けて連射をした。
「うえええ!?」
まさかの反撃に素っ頓狂な声を上げたヴァッカリオが、慌てて横へと跳躍し弾を避ける。ヴァッカリオの俊敏さがなければ、確実に打ち抜かれていただろう。
「誰も一丁とは言っていない」
「ずるくない!?」
「私は始める前に、ちゃんと『それでいいのか?』とお前に聞いたぞ」
「ケッ!」
少しばかりヒーローらしからぬ悪態を続けて、ヴァッカリオはもう一度アポロニオの面を拝んでやろうと顔をだした、瞬間。
二丁拳銃の連射による弾の嵐に、慌てて顔をひっこめた。床に広がるペイント弾の海に冗談ではない、と顔を青くする。アポロニオのリズミカルな射撃音を聞いていると、どう考えても隙が無い。
「防戦一方だな、ヴァッカリオ」
「うるさいなあ、もう!」
連射音が止まったかと思えば、揶揄すような言葉をかけられる。本当にこのテロリストはいい性格をしていらっしゃるようだ、全く。
ちら、と視線を上げると、ちょうどテーブルの上にあったワイングラスに薄っすらとではあるが兄が反射して映っているのが見えた。ラッキー、とヴァッカリオはアポロニオに背を向けて移動しつつも、各テーブルにある数少ない生き残りのワイングラスの反射から兄の位置と、構えられた拳銃の向きを確認する。
ヴァッカリオはアポロニオの動きを確認すると、右手で何発か連射をした。パン、パン、と乾いた音を立てて、パーティー会場に蛍光ピンクの花が咲いていく。
一瞬だけちらりと見えた兄の顔が驚いたようだったから、恐らく予想以上に正確に場所を当てられてびっくりしたのだろう。少しだけ、溜飲がさがる。
ふう、とヴァッカリオがテーブルの陰で息をすれば、ちょうど兄も一呼吸いれるタイミングの様だった。室内に、一時の静寂が訪れる。じっとりと汗が滲む手を開き、グリップをもう一度握りなおした。さてはて、性格の悪い正義のテロリスト様はどこにいらっしゃるのやら?
そっとテーブルから様子を伺ってみる。と、偶然にも同じようにテーブルから顔を出してきょろきょろしている兄と――目がばっちりあった。
「ふひ」
「おい、笑うな」
お互い、こらえきれずに微妙な笑いを零してしまう。とは言え、手合わせ終了の合図ではないから、その笑顔に向けてお互い容赦なく弾の嵐を浴びせかける。
と、その時。ヴァッカリオのハンドガンが無情にも、ガチり、と乾いた音を立て沈黙した。弾切れ。
「ゲッ!」
慌てて、アポロニオの弾の嵐から逃げながら、ヴァッカリオは左手でホルスターから弾倉を取り出し、空になった弾倉を投げ捨てて換装、スライドを引いて再装填。
「……ヴァッカリオ、残弾を把握しておくのは必須だし、そのようにもたもたリロードしていては実戦の時にハチの巣にされて終わりだぞ」
「ちょっと、今の見てたの!?見ないでよ!!」
弾の嵐が止んだと思えば、アポロニオからは呆れたような声が降ってくる。そういわれてみれば、自分より大量に連射しているはずのアポロニオなのに、連射音が途切れることがない。恐らく、二丁拳銃を上手い具合に使い分けながら弾倉を交換しているのだろう。そのことに思い至ってヴァッカリオは舌を巻いた。ああ、やはりこんな銃は専門外だ、さっさと近接戦闘に持ち込みたい。
そういわれてみれば、クリュメノスにも新人の頃の上官にも、自分のフィールドに相手を引き込むのが大切だ、と言われていた。そうだな、とヴァッカリオは改めて思う。わざわざ、兄の得意なフィールドで相手をする必要はない。
よし、と一念発起したヴァッカリオが再度浴びせられるアポロニオからの弾の雨を、躱すだけではなくやや強引に突っ切ってアポロニオへと距離を詰める。二丁拳銃の射線をかいくぐるのは容易ではないが、今日は実弾ではなくペイント弾。だとすれば、椅子やテーブルを上手い具合に盾とすれば、避けなくても意外と何とかなってしまう。まあ、実戦を想定していた兄には怒られるかもしれないが。
「やるなヴァッカリオ!」
「やっぱおいら、こっちの方が得意だから!」
面前に迫ったヴァッカリオから逃げずに、アポロニオは振り下ろされたテーブルナイフを右手の銃で止めた。お互い、相手の空いた胴体にハンドガンを押し付けようとして、バシッと叩き落とす。力の差は、ヴァッカリオが勝ちだ。アポロニオの左手からハンドガンが零れ落ち、ヴァッカリオはそれを足で遠くへと蹴り飛ばした。
じりじりとテーブルナイフと銃の鍔迫り合いが続く。ヴァッカリオはパッとテーブルナイフを手放し、力を入れすぎて腕を振り下ろしてしまったアポロニオの二の腕を掴んだ。
「クッ!」
逃れようとするアポロニオの襟首を掴み、渾身の力を込めて兄の小柄な体を背負い投げの要領で投げ飛ばす。床に叩きつけられたアポロニオだったが、その程度で動じることもなく、すぐに転がってヴァッカリオの足を避けた。が、ヴァッカリオもすぐに追撃、アポロニオが持っていた右手を手の甲ごと蹴りぬいてハンドガンを奪い取る。
アポロニオは床を滑るハンドガンに一瞬だけ意識を飛ばしたが、すぐに腕と腹筋の力で跳ね上がると、ヴァッカリオの胸目掛けて前蹴りを繰り出した。ヴァッカリオがその靴底を、持っていたハンドガンを盾にして弾き落とす。
両者、距離を取る。ヴァッカリオは目の前に立つアポロニオに照準を定めた。
「終わりだよ、ちゃんと弾もあるし。さあ、両手を挙げて降参して?」
「ふむ……テロリストへの降伏勧告としては優しいものだが……まあ、確かに、この状況ではお前の勝ちといって差し支えないな」
やった、と思うより、その言葉と裏腹に余裕たっぷりの態度を崩さないアポロニオに、ヴァッカリオは危機感を覚える。野生の勘が、まだ終わってない、と警鐘を鳴らしている。
「気をつけろよヴァッカリオ、テロリストと言う者は、時にとんでもない無茶をすることもある」
「……自爆とかナシだよ」
「まさか、さすがにそれはないさ」
言って笑うアポロニオ。いつでも、撃てるように引き金に力を込める。
ふ、と真顔に戻ったアポロニオが、首元にさりげなく手を当てる。それはいたって普通の仕草であったが、ヴァッカリオはここだ、と判断した。戸惑わず引き金を引く。
「良い判断だ、ヴァッカリオ」
そう言ったアポロニオは上体を、胸が床とほぼ百八十度になるまで反らして、ヴァッカリオの弾を避ける。アポロニオの瞬発力を舐めていたわけではないが、この近距離で避けられるとは思わなかった。
そして、ヴァッカリオはスロー再生のように目の前で起きた出来事を、見ていた。上体を反らしたアポロニオが左手を後ろに回すと、スーツのジャケットの下から、するすると長身の銃が現れる。そして、体を起こすと同時にアポロニオはその銃を左手でぐるりと回し、ヴァッカリオの面前に突き付けた。
「私は、拳銃は二丁だけとも言っていないし……ハンドガンだけとも言っていない」
両手で構えられたそれは、ショットガン。この距離で発砲されたら、避け切れないものだ。
「うそでしょ……」
「参りました、は?」
ショットガンの向こうでニヤリ、と笑うアポロニオに、ヴァッカリオは苦笑しながら両手を挙げて参りました、と告げた。
「ええええ、そんなのどこにしまってたの!?」
「背中にずっと背負ってたぞ。装填数は少なくしてあるが、小型化と薄型化に成功したシロモノだ」
「そんなの背負って動く!?」
「まあ……床を転がる時などは、ちょっと背中が痛いな」
だよねえ、とヴァッカリオは呆れて乾いた笑い声をあげた。とんでもなかった、やっぱり相手の得意分野で勝負したのがそもそもの間違いだった。
ちなみに、とアポロニオは装備の全容を見せてくれた。腰に二丁拳銃、背中にショットガン。腰回りの弾倉はすべてハンドガンのもので、ショットガンは二発だけの撃ち切りらしい。
「それから、ここにも」
スーツの袖をまくれば、手首の少し内側にハンドガンの弾倉が左右一つずつ。これを使って連射中に弾倉を交換していたらしい。ヴァッカリオは眩暈を覚えた、ヘパイストスXI以上に手強いのでは……?
「まあ、ヘパイストスXIは神器の力を使っているから、私たちとはまた違う戦い方なのだろう」
「うえー……お兄ちゃんちょっと信じられない」
「お前はハンドガンしか選ばなかったが、ちゃんとナイフを持っておくのも大切だぞ」
そういう兄は、スーツの裾をめくると、足首に括りつけられたナイフを示した。なんだこの歩く武器庫。
「あのさ……それ、最初の身体検査とかで引っ掛からない?」
「フフフ、身体検査が終わった後に準備するから問題ない」
「……無茶苦茶だよお……」
アポロニオが端末を操作して、二人が暴れた痕跡は一瞬で消えた。さきほどまで割と本気でやり合ってた後とは思えない静けさだ。
二人で連れだってトレーニングルームを出る。時間を確認したアポロニオは一つ頷いた。
「そこそこ時間を使ってしまったな。私はフォースへ戻るとしよう。……お前も、必要であればいつでもここでトレーニングすると良い」
「はーい。あんまり、おいらはこの手のやり方向いてない気がするけどなあ……」
「習得しておいて損はないぞ」
かくして、十年後にアポロニオの言った通りに習得していて損がなかったなあ、とヴァッカリオは心底思うことになるのだが、それはまた別の話。