入れ替わったっていいじゃない

Twitterやってた時に募集したリクで頂いた「IQ2ぐらいで読める超アホなギャグ兄弟」です。入れ替わりネタ。健全ギャグです。面白いかどうかはアレですけどギャグって言ったらギャグです。リクありがとうございました!

※「月陽エクリプス」の後日の話という設定ですが、まあ知らなくてもなんとかなります。
※捏造設定多め


 アポロニオは表面上は納得しつつも、その実、英雄庁の責任が100%だろうとはらわたが煮えくり返る思いであった。

「いやそもそもさ、不具合出す方がマズいでしょ。この前だって行方不明者出したり……このゲーム本当に大丈夫なわけ?稼働停止した方がいいんじゃない?」

そうだそうだ、もっと言ってやれ。怒りを孕んだアポロニオの声にアポロニオは大きく頷いた。アポロニオの声にアポロニオが頷いた。どういうことか。

「原因追及もやってもらわねば困るが、早く治してもらいたいのだが。これでは治安維持に支障がでる」

と、ヴァッカリオは至極真面目な顔と真面目な声で言った。あのヴァッカリオが。

英雄庁ご自慢のとあるオンラインゲームにて、新機能を実装したから試験としてテストプレイヤーを求めていて、経験者として白羽の矢が立ったのがアポロニオとヴァッカリオの兄弟だ。他にも何人か同時に参加したテストプレイにて、その事故は起きた。
何やら開発チームは小難しい説明をしてくれたが、パッと見てすぐわかる現象がテストプレイヤーの身に降りかかっている。そう、何人かの中身がログアウト時に入れ替わってしまったのだ。

ゲーム中に肉体データを再現するというのがウリのゲームで、実際に再現するまでは良かったが、新機能のバグで復元時に本来とは違う人物の肉体データを引っ張ってきてしまったらしい。そんなバカな話があるか?と目をむいた人は数知れず、だがそれが現実というのでアポロンVIの中身をした長身の男は腕組みをしてこうやって開発チームに圧をかけているわけだ。

とりあえず、対象の人物を検査した結果、問題ないことは確定している。問題があるとすれば、いつ元に戻れるか、だ。特に、アポロンVIの身に支障が出たということは大いなる問題である。英雄庁の人間がそっちの体で神器の起動できるか試してみましょう、と言ったところ、アポロンVIは頑なにこれを拒否。人造神器でも絶対に起動実験は行わない、と、もはや怒り狂うレベルで英雄庁の人間を罵倒し、拒絶したのだ。

一緒にいた弟と言う人物が何とか取り成しをしてくれて、ヘソは曲がりつつもどうにか会談ができるようになったのがつい先ほどのこと。開発チームも英雄庁の広報担当も、顔を青くしながらあれこれと説明してくれたわけだ。

「と、とにかく、フォースの方には連絡をこちらか入れておきますので、一度お戻り頂いて相談していただきたく……」
「しわ寄せは我がフォースが受けろと言うのか!」

だん、と叩かれたテーブルが酷い音を立てて凹んだ。その力に出席した開発チームのメンバーも、英雄庁の人間も、ひぃっと悲鳴を上げる。しかし、一番驚いたのはテーブルを叩いたアポロニオ本人だ。

「……力の加減が難しいなこれは……」
「え、おいらそんな馬鹿力じゃないよ……たぶん」

ぼそぼそ、と二人で言葉を交わす様子を見て、同じように開発チームも英雄庁の人間もこそこそと会話をする。

「アポロンフォースのスケジュール調整に関しましては、英雄庁側も全力でサポートいたしますので……!」

ぎっ、と切れ長の瞳で睨みつけるアポロニオ。元々、厳しく、怖い人物ではあったが顔立ちがいかんせん幼いが故に、怒ったとしてもそこまでの迫力はなかったのだ。それが、外見が変わるだけでここまで恐ろしさが倍増するとは……!

「……お兄ちゃん、もうこれ以上騒いでも仕方ないよ、もう行こう?」
「……そうだな……。フォースに戻って内部調整を行い次第、また別途連絡させてもらう」

半ば言い捨てるようにして、アポロニオはつかつかとブーツを響かせて退室した。ヴァッカリオも慌ててその後を追う。残されたメンバーと言えば、しばらく硬直した後に誰かが息を吐いたことでようやく緊張が解けた。

「怖かった……!」
「迫力がやばい……」
「ああしてみると本当に兄弟なんだな……」

最後に一言、余分な発言があって会議室は微妙な空気に満たされた。笑うわけにもいかないがとても笑いたい気分で、でも笑ったら明日の朝日は拝めなさそうな発言。とりあえず、英雄庁の偉い人は、余分な発言をした広報官の頭を叩いておいた。

執務室にて、副官を呼んだアポロニオはムスッとした態度を隠しもせずに、事の次第をかくかくしかじかと説明した。もちろんアポロニオの体に入ったヴァッカリオも同席している。

「なるほど、事情はわかりましたが……」
「……迷惑をかけるが、調整は英雄庁がやると言っていた。アポロンVIの顔を使う必要がある撮影や取材はすべて英雄庁に回して向こうで対応してもらえ」
「会食へのご招待は?」
「もちろん、キャンセルだ。おおそうだ、確か高名な政治家だったな、英雄庁の不手際でキャンセルになったと伝えて、残りの事情もアフターフォローも全部向こうにやらせろ」

ここぞとばかりに嫌味ったらしく、英雄庁の貴重なスポンサーである政治家の名前と連絡先を副官に渡すと、アポロニオは執務室のソファに踏ん反りかえった。そう、ヴァッカリオの体は非常に大きくて、普段のアポロニオの仕草をするといちいち威圧感があるのだ。副官がため息をつきつつ、端末を操作してスケジュールのピックアップを行う。

「中身はそのままでしたら、書類仕事はできますね?」
「戻るまでは内勤だな」
「それでよろしいかと。ところで、問題はこちらの方ですが……」

アポロニオの後ろでソファに腕をついてニヤニヤしているヴァッカリオを見た副官は、気味悪そうな顔をしていた。

「ん?おいらの顔になんかついてる?」

にっこり、と笑いかけると副官はすっと目をそらして「普段の営業用スマイルとも違って違和感があります」と小さく答えた。

「いやあ、我慢してよ、治るまではさ」
「……おい、ヴァッカリオ、その顔で変なことはするなよ、さすがに」
「気を付けるよお、大丈夫だって!」

親指を立ててウインクするヴァッカリオに、アポロニオは少しだけため息をついたし、副官は一歩後退りした。仕事の関係でウインクすることはあっても、執務室内でウインクされたことなんてなかったので。世にも珍しいと言えば良いが、まるで幽霊かモンスターでも見たような顔つきだ。

ヴァッカリオはこれからヴァンガードベースに戻って説明するのだという。アポロニオは自分もついていくか?と言ったが一人で十分だ、と言ってヴァッカリオはスキップでもしそうな勢いで去って行った。

「……不安だ」
「ですね……いえ、弟さんを悪く言うつもりはありませんが」
「ああ、あれはああ見えてもとても賢くて優しくて強さも兼ね合わせた二枚目だから、そうそう変なことはしないとは思うが」

そこまで言って、アポロニオは眉を寄せて続けた。

「かわいそうに、一人で心細くはないだろうか?やはり私も一緒に赴いた方が良いのではないだろうか?」
「そっちですか」

憂いを隠そうともしないイケメンの艶めいたため息を聞きながら、副官は天を仰いだ。いちいち仕草が色っぽいのだが、中身が残念ブラコン過ぎる。これは絶対に執務室から外に出せないな、と副官たちは黙って目配せをしあうのだった。

ヴァンガードベースに戻る……前にいつものエリュマにヴァッカリオは足を向けた。こんなに面白い事態になっているし、あの店長が大っ嫌いなアポロンVIの顔でからかってやろうと思ったのだ。

「いらっしゃいませー」

いつもの笑顔を向けた店長だったが、3秒ほど固まった後にすっと笑顔をひっこめて汚物でも見るような、気持ち悪いものを気持ち悪いと顔全体で表現した表情でヴァッカリオを見た。

「あれ、店長わかっちゃう?」
「わかりますよ、そりゃ。魂の色が違う」

なーんだ、とヴァッカリオは面白くなさそうにイートインスペースの椅子に腰かけ……ようとして、あれ、この椅子こんなに高かったっけ……と思いながら勢いをつけて飛び乗った。

「で、どうしてそんなに面白いことに?」
「いやあ、英雄庁の不手際でさ……」

かくかくしかじか、何が起きたかを説明するヴァッカリオ。機密と言う言葉は彼の頭にないのか、それとも、この胡散臭い店長も英雄庁の人間だしいいか、と適当な判定をしているのか。英雄庁の創設には関わったし、上層部には食い込んでいるが別に英雄庁の人間ではない、と店長本人が否定しない限り、店長のカテゴリーは変わりそうにない。

「ふむ……知らないうちに魂や精神の分離まで技術を発展させていたとは……人間は本当に面白い生き物だな……」
「おいらは全然面白くないんだけど」
「ざまあみろ以外にかける言葉はございませんね」
「え~そんなこと言わないで、お見舞いだと思ってパワフルワン奢ってよ、ね?」
「その顔で言うな気持ちが悪い死ね」

アポロンVIの顔でいつものヴァッカリオのようなねだり方をされて、店長は精神的にも物理的にも全身に鳥肌が立った。これ、今日の夢に出るヤツだ。仕事帰りにアレイシアの顔でも見に行って浄化してもらわなければならない。……ちなみに、もちろん、盗撮である。盗撮はアポロンVIもやっていたので平気だろうという理論だ。ストーカーが二人ものさばっているこのシティは法律を変えた方がいいんじゃないんだろうか。

ええ~奢ってよ~などとぶりっ子をするヴァッカリオを気持ち悪そうにドン引きしながら見ていた店長だったが、ふと何かを思いつくとニヤニヤと笑いながらパワフルワンを一本、レジに通した。あれ、とヴァッカリオが少しばかり不思議そうな顔をする。

「それ飲んだらさっさと帰ってくださいねクソ汚物様」
「なに~手切れ金ってこと?店長つれないな~」

ヴァッカリオはそう言いながらも、パワフルワンを受け取ると嬉しそうにプルタブを引き、いつもどおりに一気に呷って……全部噴き出した。

「ぶーっ!!!」
「きったな!!!!!」
「なにこれまっず!!!!」

ヴァッカリオは袖口で垂れたパワフルワンと噴き出したよだれを拭うと、缶をまじまじと見た。いつものパワフルワンだ、別に店長が何か細工をしたわけでもない。

「……当たり前でしょうが、あなたの体は今、アポロンVIになっているのですよ。あんなスイーツキチガイがそんな辛い酒飲めるわけないでしょう」
「げっ……」

うえー、といまだに舌を出して口の中の苦みを取ろうとするヴァッカリオを見て店長は思わず高笑いをした。こんなに面白いことがあるだろうか!?あのいちいちウザいヴァッカリオに一泡吹かせ、しかもついでにアポロンVIまで苦しめることに成功した!店長大勝利!!

「はーっはっはっは!!!戻るまでは酒も飲めず、ただひたすらに甘いだけのミルクセーキでも飲むがいい!!」
「うえええ!体がミルクセーキを求めている!!!やめろ!!」
「エッグタルトも一緒に口に突っ込んでやろう!!」

ぐわー!などと叫び声を半分ぐらい本気で上げながら、ヴァッカリオはほうほうの体でエリュマを後にした。しばらくはエリュマに近づかない方が良さそうだ。あの店長が嬉々としてスイーツを押し付けてくるに違いない。体は甘いものを欲しているが、メンタルがその前にやられそうだった。目に悪すぎる、あのスイーツの山は。

仕方なく、押し付けられたミルクセーキとエッグタルトを持ってヴァッカリオはとぼとぼとヴァンガードベースに向かうこととなった。なぜだろう、この二つを持っていると異様に安心感を得られる。いや、おいらが持つべきはパワフルワンだ、パワフルワン、パワフルワン……。ぶつぶつ呟いていないと気でも狂ってミルクセーキのパワフルワン割りなどという頭のおかしい飲み物を生み出しそうになる。意外とイケるかもしれない、と思ってしまったのは秘密だ。

「ただいま~」
「あれ、アポロンVI様じゃないですか、どうしたんですか?ヴァカ隊長ならどっか行ってますけど……」
「あ、いや、そうじゃなくて……」
「おおおおお!アポのお兄さんだ!!!お手合わせ願います!!!!!」
「まあ!アポロンVI様がいらっしゃってるの!?今すぐ部屋の掃除したほうが良いんではなくって!?」

ヴァッカリオが口を挟む間もなく二人に畳みかけられた挙句、エウブレナが気を利かせてトレーニングルームに案内してくれてしまったので、目をキラキラと輝かせたアレイシアと対面する羽目になった。これはまずい、本当にまずい。

「ちょ、落ち着けってアレイシア、おいらお兄ちゃんじゃなくて……」
「よろしくお願いしまああああす!!!!!!!」
「あああああああああああ!!!!!!」

ヴァッカリオとて、たまにはアレイシアの相手もするし、いまだ負けるつもりはない。が、体が入れ替わっていてリーチの間隔も、筋肉の付き方も全く違う。というか、ぶっちゃけ目線が下すぎてまともに戦える気がしない。しかもアレイシアはいつもアポロニオと手合わせする際、「全力でいかせてください!」と神器を起動して襲って……違った、トレーニングしているのだ。

とんでもない破壊力とアレイシアならではの柔軟性、それから機敏さにヴァッカリオはどうにか攻撃をかわして転げまわるのが精いっぱいだった。

「ったく、お前ら、ちゃんと話を聞けってんだよ!!」

結局、アレイシアがいつもと違うアポロンVIの動きに首を傾げることでヴァッカリオはなんとかトレーニングルームから脱出できたし、ちょうど帰ってきたゾエルに助けてもらえた。ゾエルは出先で英雄庁から先に連絡を受けていたらしい。

「すみません……」
「面目ありませんわ……言われてみればアポロンVI様がこのようにへらへらした顔などするわけありませんし」
「たしかに」
「ちょっと待っておいら被害者なんですけど?」

なぜかヴァッカリオが槍玉にあげられている。なぜだ。と言っても、三人娘もゾエルも冷たい視線をくれるだけだった。

「日頃の行いだろ、xxxx野郎」
「隊長、アポロンVI様の名を落とすわけにはいきませんから大人しくしていてください」
「体が変わったのなら脳みそも変わっているのでしょう?今日なら書類仕事もはかどるのではないのかしら?」
「ボクから言うことは何もないぞ!!」

なぜだろう、何も言うことがないというアレイシアの無言の憐れむような視線が余計に辛い。ヴァッカリオはため息をつくと、テーブルに置いてあったミルクセーキに手を伸ばした。そう、無意識の行動だ。体がミルクセーキを求めている……!

「……あれ、意外とうまい」
「うえ、よくそんな甘ったるいモン飲めるな……」

ゾエルが嫌そうな顔をして、虫でも払うかのように手を振ると自席に戻っていった。
ヴァッカリオはエッグタルトにも手を伸ばす、これも美味しい。信じられないがミルクセーキとエッグタルトという見てるだけで胸焼けしそうな組み合わせが死ぬほど美味しい。体中に染み渡るようだ。生き返る。

「そうだ、それでしたら仕事終わった後にスイーツバイキング行きませんか?」
「それは名案ですわね!」

エウブレナとネーレイスの話すところによると、お目当てのスイーツバイキングをやっている店は4人以上の集団のみ受け付けているのだという。それで、エウブレナ、ネーレイス、あまりわかってなさそうなアレイシア、というところであと一人が欲しかったようだ。ゾエルは論外だし、ハルディスは人の多いところは嫌、コリーヌはあんまり甘いモン好きじゃないんで……ということで。

「それで選ばれるのがアポロンVI。……贅沢過ぎない?」
「中身は隊長ですから大丈夫です」
「なんでだよ」

まあまあ、と言われたヴァッカリオだが、部下にこういう誘いをかけられて断るのも微妙だ。苦笑いしながらもありがたく誘いを受けることにする。

のちに、「三人の女子高生に手を出すアポロンVI!!」という週刊誌の記事が大問題になるとは、この時誰も予想しなかったのであった……。

時は戻り、ヴァッカリオを見送ったアポロニオ。やれやれ、と執務室のいつもの執務机に着席しようとして……体を止めた。

「ぐ……」
「?どうされました?」
「……足が長すぎて机の下に入らん」

なんと贅沢なセリフだろうか!アポロニオはもちろん、副官も全員揃って一斉に息を詰めた。アポロンフォースはアポロン神の神話還りの特徴なのか、それともトップの影響なのか、意外と小柄な人間が多い。足が長すぎる、なんて、人生で一度も思ったこともなければ夢にも見たこともない。

「な、な、なんと……そのようなことが……!」
「心中お察しします……!」

あわあわ、という効果音でも似合いそうな副官たちがアポロニオを慰めるように言う。何しろ、弟の体で執務机に座れない、ということは、どれだけ体格差があるのか体感してしまった、ということだ。しかし、実際のアポロニオは顔を上げると眩しいほどの笑顔を浮かべてさわやかに言い放った。

「素晴らしい!やはりヴァッカリオは長身で足が長くてモデルスタイルなのだな!世界中の男が羨ましがるだろう!」
「アッハイ」

キラキラと弟自慢をするアポロニオを見た副官はスン、とした表情を浮かべてから無言で端末の操作に戻った。スケジュールの調整は副官の仕事とはいえ、アポロンVIの仕事は分単位で決まっていると言っても過言ではない。このようなただの兄ヴァカ……兄バカに付き合っている暇はないのだ。

「仕方ない、ソファで仕事をすることにしよう」
「それが良いかと。あと、一応フォースの制服に着替えてもらえますか?その私服ではいろいろ問題がありますので」

何が悲しくてぼさぼさの髪の毛をして腹を丸出しにした不審者をフォース内で自由にさせねばならないのか。せめて、制服は着てもらわないと困る。

「そうは言うが……この身長の制服、あったか?」

アポロニオが立ち上がって腕組みをする。副官二人はその顔を見上げると、ぽかん、と口を開けた。背筋を伸ばして立っていると、思っていた以上に高い。

「一応、フリーサイズがあるのでそちらで……倉庫内にあるのですぐに持ってくるよう手配します」
「そうか、それなら構わん」

果たしてフリーサイズでも入るのか……?といったアポロニオと副官のドキドキハラハラは、案の定良くない方向で当たってしまった。入らない。袖が入らない。長い腕を折りたたんでどうにか袖にとおそうとするが、その前に制服の方が破れそうで……アポロニオはため息をついてジャケットを肩に羽織るだけに留めることに。
ぽつり、とこの身長にも対応できる制服サイズを作ろう、と呟いていたのを副官はしっかり拾ってこっそりやることリストに追加しておくのも忘れなかった。まあ、そんなサイズの制服が必要になることが将来訪れるかは考えないことにして。備えあれば患いなし、それがアポロンフォースの信条だ。

「失礼します!」
「入れ」

どうにか制服を着替えて、書類とにらめっこしているアポロニオの下に副官が一人やってきた。ちら、と視線をくれると、副官が少し後退りする。

「……なんだ、そんなに怯える必要はないぞ」
「いえ、やはり、その、見慣れないということもありますし……迫力が……」
「む……そうか……」

少しばかり自分の顔をさすったアポロニオは首を傾げた。ヴァッカリオは誰にでも優しいし、いつも柔らかい笑みを浮かべている。確かにヴィランと対峙するときは厳しい顔もするが、普段はもっと可愛い顔をしているはずだ……、と。

実際のところ、中身はアポロニオなわけで……書類と向かい合って眉を寄せていると、まるで「ヴィランと対峙するときの厳しい顔」になってしまっているのだがそれを知らぬは本人ばかり……ではなくて、初めてヴァッカリオの顔をまじまじと見ることになった副官たちも同様だ。アポロニオが常日頃から可愛い可愛いと褒めたたえる弟が、こんなにいかつくて悔しくもイケメンに分類される美男子だったとは。

「で、何の用だ?」
「あ、はい、本日午後から予定してたアポロンフォースの紹介パンフレット用写真の撮影なのですが、キャンセルの連絡が間に合わず撮影部隊が来てしまいまして……」
「ああ、あれか……そのまま帰らせるのももったいないな……」
「とりあえず、施設の撮影等は進めてもらおうと思います」

それがいいだろう、とアポロニオは鷹揚に頷いてから、ふと頭をひねった。プロのカメラマン達が来ている、とな。

「……ときに、私のスケジュールは調整が完了したのか?」
「はい、ほぼ完了しています」
「キャンセルが発生した分、空き時間はあるか?」
「空き時間、ですか……書類の残量次第ですが、そちらが片付けば時間ができますね。早退するのですか?」

何となく、アポロニオが何かを企んでいることを察した副官がおそるおそる尋ねる。顔が変わっても、長い付き合いのあるトップのこと、雰囲気でどことなく考えていることがわかってしまうのだ。そもそも、アポロニオは嘘や隠し事が苦手な人間であるので……。

「せっかく来てもらったのだから、撮影を頼もうかと思ってな。ああ、心配するな、私のポケットマネーで支払いは行う」
「……何の撮影ですか」
「それはもちろん、ヴァッカリオの写真だ!大人になってから、なかなか写真を撮らせてくれなくてな……私の手持ちも、隠し撮りしたものばかりで正面の写真がコレクションにないのだ」
「なにいってんだこいつ」

堂々と隠し撮りと言い放つトップに頭痛を覚えながら副官はため息をついた。まあ、普段から仕事漬けでまともに休息を取らないアポロンVIのことだ、多少の楽しみは必要だろう、と半ば諦めたように思い直して、再度スケジュール調整と撮影用の会議室を抑えるのであった。なんだかんだ言って、アポロンVIには甘いのがこの副官たちである。

かくして、アポロニオ主催のヴァッカリオ撮影大会が始まったのだが……アポロニオの注文がいちいちめんどくさい……と思いきや、モデル体形で非常に撮影しがいがある!とカメラマンもはしゃいでしまい、あれやこれやとやりたい放題の大騒ぎになってしまったのだ。

アポロニオがこういう角度の顔写真が欲しい、と言えば、カメラマンはでしたら某アイドルがやってたあのポーズと一緒にどうですか、などと提案し盛り上がること盛り上がること。
終わりを見せない撮影大会に頭を抱えた副官が、何回もスケジュール調整をやり直して、ついには「もう残業代はつきませんからね!」と声を張り上げるような時間になってようやく終わりを見せたのだった。

後日、アポロニオはウキウキで大量の写真を受け取り、さらにそれを持ってヴァンガードベースに突撃して自慢をした結果、ヴァッカリオが羞恥で死にそうになるのだがそれはまた別の話。

「戻った……ああ……パワフルワンが飲める……!」
「戻ってしまったか……ううむ、もう少しヴァッカリオの写真を撮っておくべきだったな」
「待ってお兄ちゃんなんか今不穏なこと言わなかった??」

事故発生の翌日。不眠不休で直しました、とヘロヘロになった開発チームを労いつつ、もう一度、例のゲームにログインしてログアウトしなおすと無事に二人の体は元に戻っていた。やれやれ、と肩を回すヴァッカリオと、面白そうに自分の手足を眺めるアポロニオ。

「とりあえず、再発防止のアイデアを報告してもらおうか」
「はい……」

椅子に座って居丈高に言い放ったアポロニオに、身を縮こませながらも英雄庁の人間はひっそりと安堵の息をついた。やはり、アポロンVIはこの小ささと童顔でなければ……怖い、怖すぎる。

「ちょっと、変なこと考えてない?」
「いえ、なんでも!」

アポロニオの傍らに立つ弟に鋭い指摘をされ、彼は小さく飛び上がった。そういう態度は表に出したつもりは一切なかったのだが。

「よせ、ヴァッカリオ。彼のような末端の人間を脅してもどうにでもならない……脅すなら開発チームの方がいいぞ」
「?なんで??」
「入れ替わりの不具合処理、調査して改修したのであろう?であれば、再現もできるはずだ」

アポロニオがニヤリ、と不敵な笑みを浮かべて開発チームの面々を見た。

「面白そうだから本機能として実装すれば良い。そうだな、まずは君たち自身でデバッグしたらどうだ??」
「お兄ちゃん結構キレてるね?」
「キレてないぞ??」

ヴァッカリオがため息をつくが、アポロニオはニコニコとうわべだけの笑みを張り付かせるだけだ。その笑顔を受けた開発チームのメンバーは全員震えあがったし……先ほど、「童顔の方がいい」などと一瞬でも思ってしまった人間も慌てて前言撤回をするのだった。

アポロニオの鶴の一声で、開発チームは一カ月ほどデバッグと称して入れ替わり地獄にあったが、その苦労むなしく入れ替わりの機能が本実装されることはなかった。

冷静に考えて、魂の入れ替えなんてあまりにも、危険すぎるので……。平然と日常を楽しむ(?)とある兄弟の方が異常なのである。