風邪を引いた店長を三人娘とヴァカ隊長が看病するギャグ。
店長に楽しんでほしかったので(?)いわゆる店シア(でいいのか?)風味です。
一応、英雄大戦終了後ぐらいの世界線。
ヴァッカリオは店長(あだ名)の家へと急いでいた。事の発端は、ここ数日の悪天候による。気象予報士たちが首をひねるほどの謎の天候変動に、もしや、と思いエリュマへと向かってみれば、店長は風邪をひいてしばらく休みだという。英雄庁に慌てて連絡を取り、万が一の場合に備えて緊急配備の準備を陰でしてもらいながら、自身はヤツの様子を見に家へと。
「もしもーし、店長、生きてる?」
インターホンを押して玄関のドアを叩いてもでてこないので、仕方なく合鍵を使って部屋へと上がり込んだ。このアパートは英雄庁が斡旋したものであり、合鍵は監視員であるヴァッカリオと英雄庁の方で一本ずつ管理されている。使ったことはほとんどなかったが、持っていてよかったと思う日が来るとは思わなかった。少しばかり顔を強張らせて、明りのついていない廊下を進む。
「その声は……お前か、何しに来た」
「何しにって……ええ……風邪?」
こんもりと毛布の山ができたベッドから、ガラガラの声が聞こえてきた。ついでに、咳き込む音もする。
「神様も風邪ひくんだ……いやあ、最近、悪天候が続いてるからアンタがなんか噛んでるんじゃないかって」
「クッ……なんでもかんでも私のせいにするな……」
とは言いつつも、毛布から少しだけ目を出して店長(あだ名)は続けた。
「……まあ、システムの管理が疎かになっているのは認めるが」
「ほら~~~~もう!そんなこったろうと思ったよ」
呆れた声のヴァッカリオに、店長(あだ名)は盛大なくしゃみで答えた。どう見ても熱はあるだろうし、そもそも神に人間の薬は効くのだろうか?とヴァッカリオはため息をついた。とりあえず、英雄庁にかくかくしかじかと連絡を入れる。今、向こうはプロメトリック復活か!?と大騒ぎになっているはずだ。ふたを開ければただの風邪だったのだけれど。
「んで、システムの管理っておいらでもできんの?」
「神力がそれなりにあれば……」
店長(あだ名)がしんどそうにしつつもとある部屋に案内をしてくれた。意味のわからない装置となんだか不穏な色をした神器っぽい箱が転がっているが気のせいだと思う。ヴァッカリオはすっと目をそらした。今はそれより、むやみやたらに暑い気温を下げることの方が重要だ。こうも暑いと何もやる気が起きない。
こうしてああして、この辺に力をこれぐらい流して……と意外と丁寧に教えてくれる。伊達にコンビニの店長をやっているわけではない、ということだ。ただ、その説明を受けてヴァッカリオにわかったことが一つ。
「これおいら一人じゃ無理だ」
「……それはそうだろう、お前が神の域に足を突っ込むというなら話は別だが」
「やめろってその話題、笑えないから」
寝言は寝てから言ってくれ、とヴァッカリオは言うと店長(あだ名)をベッドへと押し戻した。さて、どう考えても人手が足りない。システムの管理をする方にも、看病をする方にも。特に他人の看病なんてヴァッカリオにはさっぱり経験がない。いつも看病される側だったので。
「あ~店長さあ、認識阻害、できる?ちょっと手伝い呼ぼうかと思って」
「ぐ……多少なら……」
そう言って店長(あだ名)が一度目を閉じてから、もう一度開いたときにはまるで違う顔になっていた。「どうだ」と出来を尋ねる声も、別人としか思えない。
「さっすが神様、やるじゃん。じゃあおいら手伝い呼んでくるからそれまで大人しくしててね」
「……お前、アポロンVIだけは呼ぶなよ」
「呼ばないよ、お兄ちゃんそんな暇じゃないし」
いちいちムカつくブラコンだな、と言う店長(あだ名)の呟きはまるっと無視した。だって事実だし。
「あ、起きましたか?」
店長(あだ名)が目を覚ますと、額の上に乗せられた冷たいタオルがぱさり、と顔の横に落ちた。覗き込んできたのは青い髪をした……ネーレイス、といったか、確か、アレイシアやエウブレナとつるんでいた娘だ、と店長(あだ名)はぼんやりと考えた。……待て、なぜ彼女がここに?
「ヴァカ隊長~!お友達が起きたみたいですわよ」
「おっそうか!じゃあ食事と薬の準備してくれ~!」
遠くからヴァッカリオの声がする。どうやら、例のシステムがある部屋にこもっているようだ。何やら、わいわい声が聞こえてくることから察するに、何人か人を呼んでシステムを回しているらしい。まあ、普通の人間が見てもわからないような仕組みであるから、見られたところで困るようなこともないが。ただ、知らない人間が何人も人の家に上がり込んでアレソレやっているのは気に食わない。
「あ、お友達さん起きたんだ!じゃあボクがおかゆ作ってくるね!」
前言大撤回。店長(あだ名)は廊下からひょこりと顔をのぞかせたアレイシアを見て盛大に吹き出して、それからめちゃくちゃに咳き込んだ。
「わわわ、大丈夫?」
慌てたアレイシアが駆け寄ってきて、苦しそうに横に転がって体を丸めた店長(あだ名)の背中をさすってくれる。
「どうしよう、おかゆ食べれそうにないかな?やめとく?」
「いっいえ!食べます!食べさせてください!!」
「あっ、食べれそうなんだね!じゃあ作ってくるから待ってて!!」
反射的に食いついた店長(あだ名)の不審な様子に気にすることもなく、アレイシアは顔を輝かせると去っていった。部屋を出る前に「台所借ります!」と元気に挨拶してから。
「嘘だろ……はあ?」
アレイシアが去っていった後に、呆然と呟く。確かにあの汚物野郎は手伝いを呼ぶとは言っていたが……まあ、そうだ、冷静に考えてみれば、彼女達はヴァッカリオの部下であって、こういった場合に簡単に動かせる人員ではある。とは言え、まさか先の大戦で戦った相手の家に、それも独身男の家に年頃の娘を連れてくるのか!?嘘だろう、ともう一度だけ店長(あだ名)は呟いた。下がったような気がした熱が、また一気に上がっていく。
「アレイシア!おかゆ作るなら材料買ってきてあるから……あ、お邪魔しています」
「あ、はい」
廊下を歩いていくのは、あのハデスIVの娘で、次代ハデスIVになるのはほぼ確実のエウブレナだ。お行儀よくお辞儀をされて、思わずこちらも丁寧に返してしまう。いや、目の前にいるのは貴女の父親の仇ですよ、と思わず心の中でも丁寧語になってしまう店長(あだ名)だ。混乱の極みにあるところで、ヴァッカリオが廊下を通りかかり……こちらを見てニヤニヤした笑みを浮かべた。
「手伝い、みんな優秀で可愛いでしょ?特にアレイシアとか」
「貴様!」
「いやあ、おかゆ作ってもらえるなんてうらやましいねえ。あ、お礼はパワフルワンでいいから」
「誰も頼んでないだろう!?」
はいはい、とヴァッカリオはひらひらと手を振ってまた部屋を出て行った。今度はエウブレナを連れてまだ例の部屋へと戻る。今、この家にいる4人はそれぞれが神器に認められるほどの逸材であり、確かにあのシステムを動かすには十分な力を持っているメンバーばかりだ。実に合理的で正しい判断であると頷かざるを得ないのが非常に癪である。
「はい、おまたせ!おばあちゃん直伝の梅がゆだよ!……梅、嫌いだったりするかな?」
「だっだいじょうぶです!!」
「そっか!風邪をひいたらこれっておばあちゃんが言ってたからね。これ食べて、早く元気になってね!」
そう言って、アレイシアはスプーンで一口分をよそうとふーふー、息を吹きかけてから店長(あだ名)の口元へとスプーンを差し出した。
「はい、あーん」
「!?!?!?」
「……?あれ、さっき『食べさせてください』って言ってなかったっけ?ボクの勘違い?」
「言いました!さっき言いました!!」
しょぼん、とアレイシアの頭の上の特徴的な髪の毛がへたれたので、店長(あだ名)は慌てて首を振ってから、口を開けた。アレイシアがゆっくりとスプーンを運んでくれる。
「どうかな?味薄い?」
「……おいしいです……」
「良かった!あとでお薬もあるから、ちゃんと食べてね!」
有無を言わせず、次のスプーンを口元に運ばれる。正直、あまり食欲はないのだがアレイシアがあまりにもニコニコしながら看病してくれるので、店長(あだ名)としてはもはやすべてがどうでもよくなっていた。むしろ、食欲がないのも今の状況が飲み込めなさ過ぎて胃腸と脳が働きを拒否しているのかもしれない。
それでもアレイシアは手を止めないし口のふーふーも止めないので、店長(あだ名)は差し出されるがままに梅がゆを口に運ぶ。よく見たら、明らかにアレイシアが抱えている器の内容量は2人前ぐらいありそうだが、途中でストップするのも申し訳ない……というより、もったいない気がして店長(あだ名)はとにかく、梅がゆを食べて食べて食べまくった。恐らく、かなり長い数万年の神生の中でも、こんなに梅がゆをたくさん腹に収めたのは初めてだと思う。
「うっぷ……ごちそうさまでした……」
「完食してくれてありがとう!ボクも作った甲斐があったよ!」
えへへ、と照れ臭そうに笑うアレイシアに、店長(あだ名)はまた熱を上げた。完全にのぼせている。ヴァッカリオは看病のつもりで連れてきたようだが、むしろ英雄庁から抹殺指令でも出たのではないかと……プロメトリック高熱で死す。冗談ではない。
「ええっと、次はお薬だね……うーん、このカプセルを2つと、錠剤を1つ……あ、水持ってくるから待ってて!!」
何やら、処方箋なのか紙を見ながら確認していたアレイシアはいきなり立ち上がるとキッチンへと駆け出した。置いていった紙を盗み見たところ、ただの解熱剤や咳止めのようだった。まあ、神の力を失ったとは言え、人外である自分に効くかはわからない……が、水の入ったコップを持ったアレイシアが「頑張って飲もうね!」とニコニコ言うのでそりゃあもう店長(あだ名)は全力で薬を飲んだ。これがヴァッカリオだったら飲むかボケ!と水をぶっかけているところだ。
「ごはんも食べたし、お薬も飲んだし、じゃあ、後はまた眠るだけだね!」
「あ、ああ……」
「おばあちゃんが良く歌ってくれた子守唄、歌ってあげるよ!」
店長(あだ名)を寝かせて、布団を胸まで引っ張り上げると、そこをぽんぽんと優しく叩きながらアレイシアがうまいとも下手とも言えないけれど、とても優しさに満ちた声で、店長(あだ名)の知らない、人間の子守唄を歌ってくれる。もっぱら、人間に対して子守唄を奏でることはあっても、歌ってもらうことはこれまた神生の中で初めてのことだ。
人間たちに歌を捧げられたことはあるが。これはもっと、違う優しさを乗せた歌声であって、その子守唄は店長(あだ名)の体を暖かく包み込む。少しだけ目を開けてアレイシアを見上げると、にっこりと明るい笑顔を見せてくれた。それだけで、店長(あだ名)の中に心強さが生まれる。風邪を引いた程度で辛さを感じるような軟な精神ではないが、それでも、アレイシアの笑顔は十分に癒しの力を持っていた。
これが、みんなのヒーローなのか、と穏やかな眠りの中で店長(あだ名)はゆっくりと思った。
店長(あだ名)がシフトに復帰して数日。風邪で寝込んだあの日から、割とすぐに体調は元に戻り、無事にオリュンポリスの気温も平年並みに落ち着いている。
「やあ店長、パワフルワン奢ってもらいにきたよ」
「お帰りくださいゴミ箱寝太郎様、あなたのベッドはあちらにございますよ」
と、外のトラッシュボックスを指さしたが、ヴァッカリオは意に介さず勝手に飲食スペースに座った。
「体調もう良さそうだね?」
「……おかげさまで。言いたくはないが、助かった」
ムスッとした態度のまま、店長(あだ名)はヴァッカリオにそう声をかけた。
「アレイシアの献身的な看病のおかげでしょ~?おかゆ食べさせてもらった上に子守唄まで歌ってもらったんだって?」
「ぐっ、なぜそれを……!」
「ネーレイスから聞いた」
うぐぐぐぐ、と歯ぎしりをする店長(あだ名)を見てヴァッカリオはそれはもう、ニヤニヤとした顔を隠さずに言った。ネーレイスはちゃっかり、アレイシアと店長(あだ名)の様子を見ていたらしい。彼女曰く「年頃の男女を部屋に二人きりにするなんて危ないですわ!」とのこと。ヴァッカリオは部屋の様子を報告してもらってこれはいい弱みができた!と喜んだのであった。さすがに、英雄庁への報告書には記載しなかったけれども。
「これに味を占めてまた風邪ひこうとか思ったらだめだからね~?」
「うるさいぞ!お前が勝手に家に連れてきたんだろう!?」
「次はお兄ちゃん連れてくわ」
「それはやめろマジで」
ポチポチ、レジを操作してパワフルワンを一本、自腹購入の処理をしてからヴァッカリオに手渡した。へへへっと笑ってヴァッカリオはプルタブを引く。
まあ、このゴミ野郎のおかげで、数万年ぶりにひどく心地よい眠りにつけたのは確かだ。悔しいが、それは認めざるをえない。だからと言って、また風邪をひこうとは思わないが。
何しろ、神に見捨てられた世界で唯一、居残りをしている神だという自覚はそれなりにあるものだから。そう簡単に、風邪で伏せってか弱い人間たちを滅ぼしてしまうのも忍びない。あの時食べた梅がゆも、歌ってもらった子守唄も、人間たちが歴史の中で培ってきた優しさなのだ。その優しさに触れることができるのも、居残りした自分だけの特権だと、店長(プロメテウス)は思っている。