店シア。大けがをして入院中の店長とお見舞いにきたアレイシアちゃんが中庭デートするほのぼのです。短いのでご安心ください(?)
※「巡り回る今日の果てに」の後日のお話です。読んでなくても話はわかるはず……。
日課の散歩のために車椅子に乗り換えて。カーディガンとニットの帽子を被ったら準備完了だ。
「いつもすみませんね、手伝ってもらって」
「いえいえ、それが私達の仕事ですから」
「こんにちは! ……あ、お邪魔でしたか?」
病室にひょいと顔を出したのはもうすっかり看護師の間でも顔見知りで有名になったアレイシアだ。誰にでも礼儀正しく明るくハキハキと。それで、何か緊急事態があれば「お行儀悪くてごめんなさい!」と断ってから、病室の窓から飛び出していく。
ゴッドナンバーズのアレス零ともなればその姿は誰もが気にするところで、パンテレイモンが入院している病院では「アレス零の窓飛び出し出動」は名物になりつつあった。
最初こそ英雄庁からヴァンガードのゾエルからヴァッカリオに至るまで、病院側に菓子折り持って謝罪に赴いたのだが、院長からはにっこり笑顔と共に――
「患者さん達も楽しんでいるし、元気を頂いていますから大丈夫ですよ」
――と、公認許可を出されてしまい、今日にいたる。
「あらアレイシアさん、今日は早いんですね」
「今日、おやすみなんです!」
どこかのワーカーホリックゴッドナンバーズと違って、アレス零はカレンダーどおりにきっちり休みを取っている。これだけはヴァッカリオ隊長の指導の賜物という話だ。
「店長、元気になった!?」
「ええ、昨日よりはちょっと元気になりましたよ」
毎日同じことを聞いてくるアレイシアに、少しだけ苦笑しながらパンテレイモンは穏やかに返した。
「これ、お見舞いのモンブラン! エリュマで新商品って言ってたから、買っちゃった!」
「モ、モンブラン……ありがとうございます。あとで頂きますね……」
そろそろ一生分のモンブランを食べたかもしれない。先日も、エリュシオンホールディングスの取締役が秘書を伴ってモンブランを手土産にお見舞いに来てくれたばかりだ。
「そうだ、アレイシアさんならパンテレイモンさんの散歩、頼んでもいいかしら?」
「ボクなら大丈夫だよ」
ちら、とアレイシアがパンテレイモンの顔を伺う。その視線に気づいたパンテレイモンはにこりと微笑み返した。
「アレイシアさんが良ければ、ぜひ」
看護師は二人の朗らかな雰囲気に目を細めつつ、これは今日進展があるかもしれない……!とひっそりとガッツポーズをしていた。
新人ゴッドナンバーズのアレス零と、イケメン青年の密やかな恋路(仮)はナースセンターの今一番ホットな話題なのだ。
病院の中庭をアレイシアがゆっくりとパンテレイモンの車椅子を押していく。他愛もない会話(ほとんどがアレイシアの話だが)をしながら穏やかな時間が過ぎていった。
「退院までまだまだかかりそう?」
「そうですね……腕も動くようになってきましたけど、まだまだですね」
悔しくもアポロン区の最先端医療のおかげで、パンテレイモンの、大変なことになっていた腕や内臓も完治の目処は立っており、後遺症も残らないとのことだった。
「そっかあ……やっぱ店長がいないと、エリュマ行っても寂しいからさ〜」
「ははは、それはすみません。退院した後も勤務できるかはわかりませんけど」
「え〜……」
アレイシアは足を止めると、ひょい、と車椅子の前に回り込んでパンテレイモンの顔を見た。アレイシアの特徴的な髪の毛が頭上で跳ねる。
「ね、店長も英雄庁の職員とかにならない? ヴァンガードの事務とかさ」
それは大変魅力的なお誘いだった。もはやアレイシアのそばで活躍さえ見守ることができれば良いと思っていた人生。もし、見守るだけでなくサポートすることもできれば……。
しかし、パンテレイモンはゆっくりと首を振った。
「ありがたいお誘いですけど、私はエリュマの店長が身の丈に合っていますから……」
「なーんだ、残念!」
「ははは、その代わり、いつでも来てくれたらエリュマバーガーのソース、サービスしますよ」
それを聞いたアレイシアはやったあ!と明るい笑い声をあげてまたゆっくりと、優しく車椅子を押し始めた。
……もう戦いは懲り懲りだ。だが、必要があれば、もちろん戦火に身を投じることも厭わない。それだけの覚悟がプロメテウスにはある。
しかし、これほどまでに心穏やかに過ごせるのはアレスが共にあった時以来。
今はただ、何も考えず、アレイシアと平和なひとときを享受できる喜びを噛みしめるのみだ。