フォロワーとかっこいいよねーーーー!!と握手したので書きました。最初から最後までアポロンVIは出ません。
英雄庁との通信も届かない、援軍も望めない。海上の孤島、と呼ぶにも狭すぎる岩山の上で、ディオニソスXIIは無表情を貫いていた。目の前にいるヴィランは完全に『出し抜いてやった』と言わんばかりに、勝利の愉悦に顔を歪めて立ちすくんでいる。
「ぶ、ぶ、武器も、捨てろ」
言われたとおりに持っていた武器――まあつまり、神器なわけだ――をその辺に放り出した。ディオニソスXIIは呆れた様に嘆息する。たったこれだけで、ゴッドナンバーズを抑え込めると思っている男の脳内お花畑具合に、呆れしか出てこない。
その態度が気に障ったのかヴィランは唾を吐く勢いで「両手は頭の後ろ! 膝を付け!」と叫ぶ。はいはい、そう怒鳴らなくたって聞こえてるよ、と心の中でだけめんどくさそうに応えておいた。
ヴィランの手の内にあるのは、とあるエレメンタリースクールに仕掛けられた爆弾の起爆装置だ。避難さえ終われば、と思ったところで大変用意周到にもヴィランは子供たちがそう簡単に逃げ出せないように多くの地雷と空中機雷をばら撒いてきたのであった。
そうして呼び出されたのは最強と名高いディオニソスXII。ヴィランの目的はゴッドナンバーズの各個撃破らしい。そう思うなら、もっと戦闘能力の低い奴から片付けるのが筋ってモンだろう、とディオニソスXIIが呆れ声と共に言い放ったのは数時間前のことだった。あれからヴィランに指定されたここに来るまでに呆れっぱなしである。
ヴィランは勝利を確信したままに、酔いしれたように気持ちの悪い笑みを浮かべている。早くどうにかならんかな、とディオニソスXIIはあくびを噛み殺しながらぼんやりと思った。本当に、あくびが出るほど間抜けな事件だ。
「そ、そ、その余裕も、い、い、いつまで、もつ、かな?」
「そっくりそのまま返してやるよ」
さすがに黙っているのも飽きて口答えをしてしまう。ヴィランの精神を逆撫でしたところで、件の爆弾さえ爆破されなければどうでも良い。むしろ、多少は相手してやった方がこういう手合いは喜ぶというものだ。
ディオニソスXIIの想定どおり、ヴィランは鼻を大きく膨らませてふんと息を吐く。今のディオニソスXIIの言葉をただの強がりだと認識しているのだろう。
「な、仲間もいねえ、武器もねえ、そ、そ、そんな状況で、お前、どうする気だよ、ケヒッ」
「はあ……別になんもしねえけど」
気持ちの悪い笑い方をするヴィランに、ディオニソスXIIは嫌そうに眉を寄せた。それは純粋に不快感を示すものであり、断じて、怯えたからではない。いやまあ、生理的嫌悪感からの怯えと言われればそうかもしれない。ゴキブリに出会った時のような。
ヴィランはその表情を怯えと取ったらしく、意気揚々と腰に差していたナイフを出した。
「ヒ、ヒ……超合金で作った、ナイフだ……いっくらテメェの体が硬かろうが、ど、ど、どうにでもしてやるよ」
ナイフを持ったヴィランの腕が突然、大きく盛り上がる。筋肉を人並以上に膨張させた姿、それは神話に出てくる怪物のようであった。何の神話還りかと頭を巡らせるが、純粋にパワーだけで押し切ろうというなら別にそこまで予想する必要はないだろうとディオニソスXIIは結論付けた。面倒なのはもっと特殊な力を使う神話還りの方だ。たかが怪力程度なら騒ぐ必要もない。
「い、い、命乞いぐらい、したら、どうだよ、へ、へへへ……惨めったらしくよぉ」
「命乞いするのはお前の方だろ?」
「ハッ、馬鹿にしやがって……!」
おっといけない、煽りすぎたか、とディオニソスXIIは心の中でぺろりと舌を出した。顔を真っ赤にしたヴィランが子供の様に地団駄を踏んでから、ナイフを振りかざす。両者の距離を一瞬で詰め、座ったままの無防備なディオニソスXIIに肉薄した。
ディオニソスXIIはそれでも動かない。なぜなら――必要がないから。
音もなく、ヴィランの手に光の棒が生える。ヴィランが目を見開いた瞬間には、棒が生えた手は地面に縫い留められていた。
「は」
息とも声ともつかぬ音がヴィランの口から漏れ、その直後、同じように光の棒が手足に次々と生えた。そして……少し遅れてから、キィィンと甲高い音がする。
「光は音より早い、ってしみじみ感じるよなあ」
ふざけたような口調と共にディオニソスXIIはゆっくりと立ち上がった。続けて、遅れてきた「音」が次々に空気を震わせる。
ヴィランはまだ理解していなかった、なぜ自分が地面に磔のようになっているのか。なぜ自分は長身の男に見下ろされているのか。――なぜ、完璧な作戦が、破られようとしているのか。
「良かったな、アポロンVIが丸くなった後で。そうでなかったら」
いつの間にか、ディオニソスXIIの片手には神剣ザグレウスが握られていた。見るからに重そうな大剣を軽々と操り、その切っ先が地面に這いつくばるヴィランの胸に当てられる。
「最初に光の矢が生えていたのはここだった。音が聞こえたころには、お前はもう死んでるだろうよ」
ヒィ、と情けない悲鳴がヴィランの口から漏れる。ほんのわずかな時間で、立場は完全に逆転した。……いや、最初から立場は変わっていなかったのかもしれない。
ディオニソスXIIは狩る側の人間で、ヴィランは狩られる側の人間であった。それをヴィランが認識できなかっただけ。
神器を操ってワインの蔦を編み出し、ヴィランを拘束したディオニソスXIIはふと空を見上げた。どういう具合でこちらを見ているのかわからないが、まだ狙撃用のモニターなりスコープなりを覗いているだろうアポロンVIに手を振ってみる。
「お……」
「あ?」
「お、おかしいだろ!? どんだけ、距離があると思って……ッ!」
芋虫の様に醜く体を動かして喚くヴィランをディオニソスXIIは嘲笑った。その無知さを。
「遠矢射るアポロンVI、その射程は世界の果てまでも。……知らなかったか? ガキでも知ってる話だぜ?」
そんなの、ただの謳い文句だろうが、とヴィランは吐き捨てたかった。吐き捨てたかったが、できなかった。ただ、それが真実であることを身をもって知り、踏んではならない獅子の尾を踏んだことだけを理解したのだった。