その良き夏に祝福を

夏祭りに行くてんちょとシアちゃんと特別ゲストの話、ほのぼの。夏のてんちょ祭りにめちゃくちゃ遅刻した。てんちょ幸せになって……と思った超ご都合主義捏造設定だらけです。
 

※てんちょとシアちゃんについては「ラグナロク後になんやかんやあって全部バレて全部理解済み」のフラット?な関係です(きっとその辺GAでやるだろうと思ってる)
※シアちゃんの日常モードが相変わらずキャラ掴めてないのでよくわかんないです
 
 
エリュマでの過酷な勤務も終わり。やれやれ、と制服から私服に着替えたパンテレイモンの下に、小さな影が駆け寄って来た。その姿を視界に入れた瞬間、これまでの接客ストレスも長時間労働の疲労もあっという間に消えていく。
 
「てんちょ~!!」
「アレイシアさん!」
 
いつものヒーローコスチュームではなく、私服姿のアレイシアは元気よく走って来てパンテレイモンの目の前で急ブレーキをかけて止まった。人外のスピードに見えたが、ハデス区の走行速度上限ギリギリのようだ。夕方になっても蒸し暑く、不快指数がメーターの針をぶっちぎること間違いなし!な酷暑でも元気いっぱいなアレイシア。そんな彼女に、パンテレイモンは爽やかな笑顔を向けた。
 
「どうかしましたか?」
「うん、店長、この後って用事ある? 暇? ハデス区の夏祭り、一緒にどうかなって」
「わ、わ、わ、わ、私と!?!?!?」
 
アレイシアの唐突な申し出に、パンテレイモンは半ば腰を抜かして目を回しながら答えた。まさか、アレイシアの方から自分を誘ってくるだなんて!
まさに晴天の霹靂。どちらかと言えばパンテレイモンの一方的な片思いとストーカーと全力応援ばかりだというのに……。
 
二人の間の確執……とも呼びがたい複雑な関係は、先日それなりに解決されて今は一人の青年と一人の少女となったはずだ。それでもパンテレイモンは一人の人間の男として、アレイシアを好いている事には変わりはなく。相変わらずグッズを集め、丁寧な接客(ヘルメス曰く、えこひいきだとか!)を心掛け、何かイベントがあれば最前列で声援を送る応援団長パンテレイモン。
 
そんな彼に対して、アレイシアも以前と変わらぬ態度で接してくれていた。昼食や夕食、時の夜食にはエリュマを訪れてエリュマバーガーにピザに……パンテレイモン個人の差し入れは丁重にお断りしつつ。帰り道が一緒になれば、声をかけて一緒に帰ったり、一生懸命応援している姿を見つければ、満開の笑顔と共に手を振ってくれたり。
 
そういう、相も変わらない穏やかな関係であった。パンテレイモンはそれですっかり満足していて、そこからアレイシアの手を取ろうとは考えていなかったのだ。
 
そんな折に、唐突に夏祭りの誘い。これはまさかのデートの誘い……!?とパンテレイモンが目を白黒させていたところで、アレイシアがにっこり笑顔と共に「出店も多いから夕食も取れるよ!」と返事を催促してきた。
 
「アッハイ! 時間ありますので行けます大丈夫です!!」
「そっか、良かった! じゃあヴァンガードベースいこっ!」
「えっ」
 
えっ。
二人きりで夏祭りでは、とパンテレイモンが聞き返すより早くアレイシアが手を取って半ば引きずる様に走り始めた。手加減してくれているとはいえ、アレイシアの速度についていくにはそれなりに全力を出さなければならない。過酷な勤務明けの体を愛の力だけで奮い立たせて、パンテレイモンは必死に手がもぎ取られないように体を動かした。
 
「店長早く早く! 会わせたい人がいるんだよ!」
「だっ、だれですかっ、ひぃ……うっぷ……」
「着いてからのお楽しみ!」
 
すっかりテンションが上がってしまっているアレイシアはパンテレイモンの顔色が赤色を通り越して青くなり始めている事に気づいていないらしい。
 
ヴァンガードベースに到着したときにはパンテレイモンは膝から崩れ落ちて死にそうな呼吸をしていた。もう半分ぐらい棺桶に片足を突っ込んでるレベルだ。そんな半死半生のパンテレイモンの下に、ヴァッカリオがやってきて手を差し出してきた。
 
「あー、お疲れ」
「……ぉぇっ……ぐっ……」
「あのさ、この後、もっとヤバいことあるから今のうちに呼吸整えといた方がいいぜ?」
 
咳き込むパンテレイモンの背中をヴァッカリオがさすってやる。その不気味なほどの優しさに、パンテレイモンは背筋が寒くなった。あのヴァッカリオが、目を泳がせつつもパンテレイモンの体を気遣ってくれている、とは……。これ以上、いったい何があるというのだ、とパンテレイモンは心の中で毒づいた。口から言葉として出すには、まだ息が整っていない。
 
ヴァッカリオの肩を借りて、ヴァンガードベースの中に連れて行ってもらい、なんとかソファに身を沈めた。肩を上下させながら、パンテレイモンは膝を肘置き代わりにして頭を支える。くらくらするのは酸欠だろうか、貧血だろうか、過労だろうか。
 
「おー、プロメテウス、なんだ死にそうな顔してるじゃねぇか大丈夫か?」
「こ、こんな、ぜんりょくで、はしって、くれば………………………っはああぁぁぁああぁぁぁぁあああああああぁぁぁ!?!?!?!?!?!?!?!?!?!?!?」
 
パンテレイモンはそれはもう、それはもう、人間が出したとは思えない素っ頓狂な声を上げて顔を上げた。そのままソファからずり落ちて床に座り込む。遠巻きに見ていたゾエルが「座ったまま腰を抜かすとか器用な事やりやがる」とあきれた様な声で呟いた。
 
パンテレイモンの視線の先には。
 
「大丈夫か~?」
 
呑気に手を振るアレスの姿があった。そして、その後ろからひょこり、と笑顔のアレイシアが顔を出す。
 
「どう? 店長、びっくりした!?」
「おーいアレイシア、びっくりしすぎてそいつ死にかけてんぞ~」
 
ザ・サプライズ!感動の再会!(演出:アレイシア)を横で見ていた観客その一であるゴミ箱寝寝太郎からヤジが飛んだ。アレイシアとアレスは顔を見合わせて頭をかく。店長(プロメテウス)を驚かしてやろうぜ!と二人でノリノリで実行したのだが刺激が強すぎたらしい。
 
「なっ……へっ……へあぁっ!?」
「……お水です、どうぞ。すみませんうちのアレイシアが……」
 
まだ口を開いてアレスを指さしたまま生まれたての小鹿の様にぷるぷる震えるパンテレイモンに、エウブレナがそっと水を差しだした。ちなみに、エウブレナは一応止めようとはしたのだ、一応。たぶん、店長が失神するのではないかと懸念して。エウさんは心配性だなあ、とアレイシアには笑われたのだが、案の定、パンテレイモンは半分ほど魂が口から抜けていた。
 
エウブレナから水を貰い、抜けた腰のままヴァッカリオに支えられてソファにもう一度戻って。ソファの背もたれと肘置きに身を預けたパンテレイモンはぐったりとしたままアレスとアレイシアを見比べた。
 
「ど、どうしてアレスが……本物か……?」
「おう、本物よ本物! 正真正銘アレス様だぜ~」
「そうだよ! ええっとね、なんでかと言うと……」
 
アレイシアが説明してくれたところによれば。ゼウス事変の折りに「プロメテウスの中に残留していたアレスの思念」を受け取ったアレイシアの中で、「アレイシアと融合したアレスの残留思念」とか結びついて逆にアレス神としての力が強まったのだとか。そこにゼウス神が「詫び」として力を貸してくれ、こうして復活に至ったらしい。
 
「そんな事が可能なのか……?」
「まあ、現実、俺がここにいるんだから可能なんだろうよ。まーたプロメテウスは小難しく考えやがって」
 
こまけえこたあいいんだよ、とどこかで聞いたようなフレーズでアレスは自分の復活秘話を打ち切りにした。そんな終わった事よりも、重要な事が未来に待っているのだ。
 
ちょうどそこにタイミングよく、ネーレイスとアポロニオがやって来た。ソファにぐったりとしたパンテレイモンを見てから、二人は揃って苦笑いをする。
 
「お疲れのところ悪いが、早速こちらに来てもらおうか」
「なんだまだなにかあるのか……」
「夏祭り、って言うからにはやっぱアレだろ、アレ! 俺も着替えるからよ!」
 
言葉少なく、反応の鈍いパンテレイモンにアレスが手を差し伸べた。パンテレイモンは何も考えずにその手を取って――そこから伝わる体温に、気づいた。
 
ただの残留思念でも、幻でも、妄想でも、夢でもない。目の前に、アレスが生きている。
 
そう実感した瞬間、パンテレイモンの目からは涙が突然溢れ出した。それに驚いたアレスが目を見開く。
 
「ちょ、おま……大の男が泣くなって!」
「アレス……アレスぅ……生きて……アレスが生きてるぅ……」
 
濁流の様に涙を流すパンテレイモンを半ばアレスが抱えるようにしてホールの隣にある更衣室へと消えていく。そこからひょい、と顔を出したアポロニオが「ヴァッカリオ、お前も手伝え」と今のところ野次を飛ばすしか仕事をしていない弟を呼んだ。
 
へいへい、と気だるげに更衣室に消えていくヴァッカリオを見送った後、ホールに残されたのは女性陣のみ。
 
「さ、アレイシア。あなたも着替えましょう!」
「えっボクも!?」
「当然ですわ! ちゃんと男性用二着、女性用一着慌てて取り揃えてきましたのよ?」
 
ネーレイスがツン、と胸を張ってごそごそとアレイシア用の「アレ」を広げる。エウブレナはメイク道具を広げた。ゾエルは相変わらず面白そうに見ているし、コリーヌは男性陣が間違って入ってこないように更衣室の扉の前で見張り番だ。ハルディスは……アレイシアの事を、不憫そうな顔で見ながら、こそこそと部屋の隅で機械弄りを続行している。
 
「いや、ボクは……」
「もう! パンテレイモンさんへのサプライズはここまで含めて、ですのよ!」
「ネーレイスの言うとおりね。やるからには最後までやりきらないと!」
「わ、わかったから……二人ともちょっと目が怖い……うわーっ!」
 
アレイシアの悲鳴に何事か、とパンテレイモンが更衣室から飛び出してきそうになったが、扉を開く前にコリーヌがちゃんと抑えてくれて事なきを得た。危うく、夏祭りに行く前に警察に行く羽目になるところだった……。
 
 
 
「うむ、二人ともよく似合っているぞ!」
「お兄ちゃん、おいらの時も着付け上手かったからね~」
「あの時に比べれば浴衣程度、容易いものだ」
 
そう、「夏祭りのアレ」と言えばアレ。東のポリスの文化である浴衣だ。正月の着物もヴァッカリオがどこからともなく入手してきたが、それと同じようなもの。実は、あの時の映像が今更(アレス零と新ハデスIVの活躍により)脚光を浴びて、オリュンポリスでは現在、空前の和装ブームが起きているのだ。
 
アレスとパンテレイモンはそれぞれ紺色をベースにした厚手のメンズ浴衣に、それぞれのモチーフカラーである赤と青の帯を身に着けていた。少しばかり、アレスの方は足首から脛までがむき出しになってしまっている。東のポリスの既製品に、アレスサイズはなかなか難しかったようだ。
 
「おお、プロメテウス、似合ってるぜ!」
「アレス、君もよく似合っているよ。素晴らしいね、浴衣というものは……」
 
ぐす、とまだ涙交じりに鼻を鳴らしているパンテレイモンだったが、ふわりと穏やかな笑みを浮かべてアレスを褒める。アレスはそんなパンテレイモンの方を力強く叩いて、笑い返した。
 
「お、アレイシアの方も準備できたみたいだな~」
「ほう、では後は若い者に任せて……」
「お見合いの仲人みたいなこと言ってるけどこの中だとお兄ちゃんも若者扱いにはなるからね? ウン万歳の神様二人いるからね?」
 
漫才のようなやり取りをするアポロニオとヴァッカリオの兄弟を放置して、パンテレイモンはドキドキしながら更衣室の扉をくぐった。アレイシアも、この浴衣に着替えているらしい。
 
「あっ、店長! アレッさん! すごいね、浴衣似合ってる!」
 
パッと振り返ったアレイシアは二人の姿を見てすぐに顔を明るく綻ばせた。
 
「なんのなんの、アレイシアだって美人になっちまってよ~。よく似合ってるぜ」
「えへへ……なんだか恥ずかしいなあ……」
 
そう照れるアレイシアは、明るいオレンジ色をベースにした可愛らしい女性用の浴衣を着ていた。普段、無造作に下ろされたままの髪は綺麗にまとめあげられて、これまた非常に可愛らしくガーリーなシニヨンアレンジを施されている。ヘアスタイルと浴衣に合わせて、顔も薄化粧をまとって血色良く頬も唇も、ピンク色に染まった姿は年頃の少女そのものだ。
 
「あらら、店長、アレイシアが可愛すぎて完全に固まってら」
「ハッハッハ、確かにあの姿を見たら言葉も出なくなるだろう」
 
部屋の入り口で固まったパンテレイモンの後ろから顔出した兄弟がニヤニヤと笑う。そのまま、パンテレイモンを促すかのように背を二人でドスッと押した。
 
「うわっ!」
 
慣れない浴衣と下駄に、たたらを踏んだパンテレイモンが体勢を崩す。そこに、慌ててアレスとアレイシアが寄ってきて両側から支えた。
 
「おっと、大丈夫かプロメテウス?」
「店長! 大丈夫?」
 
アポロニオとヴァッカリオだけでなく部屋中の人間たちがパンテレイモンの反応を生暖かく見守る中――パンテレイモンは無事に気絶した。
 
完全にキャパオーバーだった。無理。無理がすぎる。全人生(神時代含む)を掛けて愛している存在が両側から耳にささやいてきてパンテレイモンの脳みそは処理しきれずに死んだ。
 
「あーやっぱりな……。とはいえ、そろそろヴァンガードだって終業時刻だ、閉店のお時間だ」
 
ゾエルが若干の棒読み具合を滲ませながらそう言い放った。そして、懐から一枚の紙を取り出してアレイシアに渡す。
 
「花火が見える桟敷席の場所だ。一等地だぜ。……ちょいと重いが、アンタならソイツを背負っていけるだろう?」
 
後半はアレスに向けて。アレスは快活に笑って「昔もよく酒で倒れたプロメテウスを運んでやったもんだぜ、任せな」と力強く自分の胸を叩くのであった。
 
 
 
頭上で、誰かが話している声がする。パンテレイモンはそれをうるさく思いながら、寝返りを打とうとして、自分の体の下にある変な感触に気が付いて飛び起きた。
 
「ハッ! ここは……!」
「あ、店長起きた!」
「遅いぞプロメテウス~! もうさきに一杯やってるからな~」
 
……耳に入って来た声に、ここまでの経緯を一瞬で把握したパンテレイモンは再び気絶しそうになったが、かろうじて耐えた。と言うよりも、自分の足がアレスの膝に乗っていて、まさか、と振り返れば自分の頭が乗っていただろう場所にはアレイシアの膝がある。
 
本日何度目かのキャパオーバーを迎えそうになったが、ここまで運んできてくれてさらに膝枕と膝布団をしていてくれた二人に礼を言わなければならない。
 
「う、ふ、二人とも、ありがとう……」
「いいっていいって、気にしないで! ほら店長、夕飯まだでしょ? 適当に買っておいたから食べようよ」
「ビールもあるぜ!」
 
アレイシアが「ビールなら焼き鳥、かな?」と首を傾げながら串を差し出してくれる。アレスからはビールを受け取り、アレイシアが差し出してくれた串を受け取り。それぞれ、ぬるくなっていたし少し冷めてはいたけれど、パンテレイモンは焼き鳥とビールでようやく、夏祭りの始めることができた。
 
アレイシアとアレスはすでに出店でいろいろ買い込んでくれていたらしく、敷物の上には大量に料理が並べられている。アレイシアもアレスも大食いの部類であり、パンテレイモンがもそもそと食事をする目の前で、見る間に料理が二人の胃袋に消えていった。
 
「ねえ、せっかくアレッさんがいるんだし、二人の神様時代の面白い話とか聞かせてよ」
「ん~? 俺らの面白い話? なんかあるかぁプロメテウス~」
「面白い話と言われても……アレイシアさんが面白いと思うようなエピソードは特には……」
「え、なんでもいいよ! 二人の事、もっと知りたいし!」
 
だったら、とアレスがちょっとしたエピソードを披露する。人間の真似をしてプロメテウスと初めてダンスをしたが、お互いリズム感も何もなくて足を踏みまくった、などと面白おかしく。それを聞きながらアレイシアはケタケタと笑い声をあげたし、時にパンテレイモンも補足を入れて、懐かしそうに昔を語って聞かせた。
 
そうやって三人の時間は穏やかに過ぎていく。もう二度と見る事は無いだろう、とパンテレイモンが諦めるどころか夢ですら見たこともないような、幸せな光景がそこにはあった。
 
「あ、そろそろ花火の時間みたい」
「ん~、この花火で祭りも終わりか」
 
アレイシアがゾエルからもらった祭りのプログラムをのぞき込むのにあわせて、アレスも手元をのぞきこんだ。
 
終わり。その単語を聞いた瞬間、パンテレイモンの心臓が跳ねた。怖くて、聞けなかったことがある。目の前のアレスは、これからも、ずっと一緒に生きていてくれるのだろうか、と。急に喉が渇いて、パンテレイモンはすっかりぬるくなって泡も炭酸も無くなったビールを喉に流し込んだ。
 
「んじゃ、花火が上がる前に言っとくか」
「っ!」
 
アレスの言葉に、パンテレイモンはもう泣きそうな表情を浮かべて、うつむいてしまう。アレスの声を聴きたくない、顔を見たくないと思ったのは生まれて初めてかもしれない。
 
「あー……プロメテウス、そんな顔すんなって。いやあ、覚悟してるところ悪いんだけど、俺、普通にいつでも会えるから」
「……は?」
「毎日、好きな時に、ってわけにはいかないけどね! ボクが休みの時……アレス零としての力を使わない日なら、いつでも大丈夫だよ。店長、安心して」
 
アレイシアの小さな手が、膝の上で震えていたパンテレイモンの手に伸びて、労わるように上から包み込んだ。アレスの大きな手は、パンテレイモンの恐怖に震える肩を抱く。
 
「そういうこっちゃ。要はさ、俺ってアレス零の力の源、の、まあ、一部分なわけよ。だから俺がこうやって表に出てきちまうと――」
「ボクが、アレス零の力を失っちゃうんだ。だから、そう簡単にアレッさんを自由にはできないんだけど……」
 
今日はアポのお兄さんやヴァカ隊長が手を回してくれたんだ、とアレイシアは嬉しそうに言った。本来、このような大規模な祭りがあればゴッドナンバーズは有事に備えて待機するのが常だ。特に、ヴァンガードベースがあるハデス区……つまり、アレス零の管轄とも言える場所で祭りがあるなら、当の本人はなおさら。
 
しかし、そこはあの兄弟が気を利かせて、「自分たちが代理待機するからアレス零は祭りを楽しんで来い」と送り出してくれたのだ。アポロニオがヴァンガードに顔をだしていたのは、アレスとプロメテウスに浴衣を着せるためだけではなかった。
 
「は……は……じゃ、じゃあ、アレスはこれからも……」
「おお、いるぜ。ここに、な!」
 
アレスがニッと口角をあげて、頼もしくパンテレイモンに笑いかけた。
 
「オリュンポリスが平和になればなるほど、アレッさんの活動時間が増える、って事なんだよね。ボクもヒーロー活動ますます頑張らないと、って思ったよ!」
「おっいいねいいね、アレイシア、そのガッツ!」
「うおおおおぉぉぉ燃えてきたあああああって花火!!!!!」
 
アレイシアが勢いよく立ち上がると同時に、夜空に大輪の花が咲いた。赤色の輝きをまとった火花が広がって、空に消えていく。
 
「お~綺麗なもんだぜ! いいね、人類の文化はやっぱ愛でるもんよ。な、プロメテウス?」
「花火綺麗だね~! 無事に祭り開催できて本当に良かったなあ……。ね、てんちょ?」
 
二人に同時に話しかけられたパンテレイモンは、口を開くことすらできず。ただただ、熱くなる胸の衝動に突き動かされて、ぽろぽろと涙を流しながら二人に抱き着いた。密着した体から伝わるのは、間違いなく生きている証の体温と、胸の鼓動。二人分のそれらを腕いっぱいに、もう絶対に零さないとでもいうかのように、パンテレイモンはきつく何度も力をこめた。
 
抱き着かれたアレイシアとアレスは楽しそうに悲鳴を上げ、パンテレイモンの頭越しに顔を見合わせる。二人揃って歯が見えるほどにニカッと笑いあうと、抱き着いてきたパンテレイモンを抱きしめ返した。
 
団子のように丸くなった三人を、花火の明かりが色とりどりに何度も照らしてくれている。夏祭りのフィナーレは、祝福の色に満ちていた。