テキストライブで配信したので(アーカイブはありません)そのまとめ。
てんちょとヴァカアポ兄弟の甘酒にまつわるコメディ
★★★
年末年始の過密シフトが終わり、ハデス区にある某エリュマの店長(あだ名)は大きくため息をついていた。1月の半ばといえば、特にイベントごともなく、比較的平穏に過ごせる時期だ。
ようやく過重労働から解き放たれたにしては、ついたため息はあまりにも重い。そんな陰りを見せる好青年、店長(あだ名)の視線の先には店内飲食スペースで平日の昼間からパワフルワンを片手に机に伏せてだらだらしている男の姿があった。
「……あなた、仕事はどうしたんですか」
「ん~~?? ほら、監視の仕事がさあ……」
「もうその任は解かれたって言ってたでしょうが。だいたい、ディオニソスXIIとして復帰したと聞いていますよ」
「復帰したことと今日もパワフルワンがうまい! って話は別だよ別」
気持ちの悪い笑みを浮かべながら長身男、ディオニソスXIIもといヴァッカリオは新しくパワフルワンの缶を手に取った。
そんな男の姿をじ、と見た店長(あだ名)はおもむろに業務用の連絡端末をヴァッカリオの目の前で取り出す。ぽちぽち、と操作して耳元にあてた。
「もしもし、アポロンフォースですか? 緊急通報です、エリュシオンマートの店内に不審な人物が――」
「うおおおおおおおい!!!!!!!!!」
それまでテーブルとお友達になっていたはずのヴァッカリオが飛び起き、さすが最強のディオニソスXIIと言われる俊敏さで店長(あだ名)の端末に飛びついて取り上げた。
「何してんだよ!!!」
「何って通報ですよ!!! 営業妨害です!!!」
「なんでだよ! ちゃんとパワフルワン買った客だぞ!!!!」
「あなたみたいなのは客と認められません汚物でしかありません!!」
「まだ今日は汚物じゃねえし!」
「そうだぞヴァッカリオは汚物ではないぞ」
「そうだそうだ……ああああああああ!!!!!」
突如、二人の口喧嘩に挟まった冷静な声にヴァッカリオは一度同意してからすぐに悲鳴をあげた。声の主は天井からぶら下がってこちらを見下ろしている。ホラーだ。圧倒的ホラーだ。
「チッ、これだからアホ兄弟は……どいつもこいつも営業妨害してくれて……」
「お兄ちゃん! なんでそんなとこにいるの! あとアンタもちょっと素が出てるから抑えて抑えて!」
「私は仕事の合間にお前がここにいると聞いて顔を見に来ただけだ!」
「はぁーもう正体バレてるし素が出ても問題なかろうが」
「ツッコミが足りなくなるから二人とも素を出すのはやめてって! もっとまじめモードに戻ってって!」
慌てふためくヴァッカリオと対照的に、アポロニオはひらりと天井から地上に降りてきた。軽やかに着地する姿はアポロンVIの身のこなしそのもの。不法侵入する姿はヴィランそのもの。いいのかアポロンVI……!
「しかしヴァッカリオ、そうも酒ばかりだと胃に悪いのではないか?」
「いやそんなことは……」
ヴァッカリオの手元に視線を移したアポロニオが、厳しい声で指摘する。むしろ勤務中に酒を飲んでいることを指摘しろよ、と店長(あだ名)は一瞬思ったが、面倒くさいからツッコまずにおいておいた。アポロンVIとは生理的に合わないのでいちいちツッコミすらしたくない。
「仕方あるまい、せっかく来たのだし、お兄ちゃんが何かごちそうしてやろう」
「え……ええと……ワ、ワーウレシイナー……」
「ははは、そうだろう、遠慮なく受け取るといい!」
「じゃあ、このビーフジャーキーとか……」
そうっと酒のツマミを選ぼうとするヴァッカリオの前に一人の男が立ちはだかった。そう、今までこの営業妨害兄弟の会話を黙って見守っていた店長(あだ名)だ。
「胃に優しいと言えばこちらの甘酒はいかがでしょうか! 東のポリスでは冬にこれらを飲んで体を温めるそうですよ! 酒、という名前でもありますし、こちらのお客様も気に入っていただけると思うのですが」
「ほう、アマザケ、か……」
にっこり、営業スマイルと摩擦熱でほこほこしてそうなもみ手で店長(あだ名)はアポロニオに声をかけた。店長(あだ名)がさした先には、甘酒の山が。
この甘酒の山。オーナーが「寒い今年の年末年始に売れるぞ!」と言い張って大量に入荷してきたのだ……!
しかし、オリュンポリスには甘酒という文化は馴染みが薄く。さらに、東のポリスからの取り寄せ品ということでそこそこなお値段になり、こうして年明けの今も去年から変わらず在庫の山を作っていたのだった。
「お兄ちゃん、甘酒は別に酒じゃないしおいらそっちよりビーフジャーキー……」
何とかヴァッカリオは兄の意識を甘酒からビーフジャーキーに戻そうとする。頼むこっちを向いてくれ。こんなに兄の背中に取りすがったのは幼少期以来かもしれない。
「こちらの甘酒、なんと東のポリスでは飲む点滴とも言われており、非常に健康に良い飲み物でした」
「! よし、買いだ!」
「お買い上げありがとうございますー!」
「ああああああああああ!!!!!!」
ヴァッカリオは頭を抱えた。アポロニオの特定ワード「ヴァッカリオの健康に良い」を店長(あだ名)は見事に使いこなしてみせた。憎い敵のことは無駄によく知っている、そんな男である店長(プロメトリック)は……。
「じゃ、じゃあこっちの小さい缶を……」
「お客様は大変体格がよくていらっしゃる! そのような小さい缶では足りぬでしょう!」
「そうだな! ヴァッカリオは惚れ惚れするほどの長身に筋肉のついた体、その小さな缶では足りぬのも確か! ふむ、ではこちらの甘酒をすべて購入しよう」
「ありがとうございまーーーす!!!」
「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!!!!」
店長(あだ名)は非常に最高に新年あけましておめでとうございますハッピーニューイヤー!!!な笑顔を浮かべてレジに立った。ありがたいお客様の仰る通りに、店頭にあった甘酒在庫の山をすべてレジに打ち込む。
アポロンVI様様はカードを一枚出して、一括払いですべてお買い上げしてくれた。なんと素晴らしい客だろう。店長(あだ名)は手のひらをくるっと返して営業妨害兄弟もとい甘酒在庫お買い上げ兄弟を褒め称えた。
……何しろ、賞味期限が近かったその甘酒は、今週末まで売れ残っていたら自腹で購入しなければならないところだったのだ。
「さあヴァッカリオ、好きなだけ甘酒を飲むといい。パワフルワンよりこちらの酒の方が甘くて体にも良いぞ!」
「うっ……」
ヴァッカリオの頬にぐりぐりと甘酒の缶が突き付けられる。そんなアポロニオの目には一切悪意は浮かんでおらず……純粋に、弟を心配するキラキラとした瞳が潤んで浮かんでいた。
となると、期待に応えないと気が済まない男ヴァッカリオは断れるわけもなく。
「アーーー! 甘酒ウレシイナー!!!」
やけくそ気味に叫びながら、甘酒の缶を受け取り、プルタブをぷしゅっと開けて、ぐいっと一気飲み!
「あまっっっっ!!!!!!!!」
「甘酒だからな!!!」
「ハッハッハ! いい気味ですねこの甘酒ごみ箱寝太郎汚物野郎!!」
「なんで無理やり甘酒を名前に入れたかな!?」
年が変わっても、エリュシオンマートの光景は特に変わることはなかったのであった……。