走るディオニソスXII、その時、地面の下から大きな揺れが伝わってきた。
「っと、ついに爆発したのか……!」
その揺れは一度で収まらず、何回も少しずつ場所を変えながら発生していた。それはそうだろう、あれだけの広大な敷地をすべて吹き飛ばす、となれば、爆薬はあちこちに仕掛けてあったに違いない。
振動でビルのガラスが割れ、時に壁面に取り付けられていた機械やパイプが外れて頭上に降り注ぐ。
「うぐっ!」
男の呻き声が聞こえ、ディオニソスXIIは咄嗟に角を曲がって声のする方と走り出した。逃げ遅れた人間がいるのかもしれない。
「大丈夫か!?」
一人の大男が屈み込む向こう、見覚えのある女性の姿に一瞬顔を引き攣らせた。が、女性と大男に降り注ぐ壁面のブロックを咄嗟に顕現させた神剣ザグレウスで薙ぎ払い、怯える女性の肩に手を添える。
「……お怪我はありませんか、マダム」
「あっ、アンタ、あの時の……!」
「マダムのおかげで、無事に彼女を救えました。ありがとうございます」
屈んでいた護衛の男の額には血が滲んでいた。落ちてきたブロックで切ったのだろう。走れるか?と問えば、護衛の男は重々しく頷いた。ここまで妙齢の女性を守って来たその腕前は本物だ。
「ではマダム、失礼いたします」
ひょい、と軽々しくマダムをいわゆる「お姫様抱っこ」の形で抱え上げると、マダムの頬が赤く染まった。ディオニソスXIIとしては全く平気な顔だが、中の人、ヴァッカリオとしてはだいぶ微妙な気分だ。
「アンタ、本当にイイオトコだね……磨く必要もなかったじゃあないか」
「それはどうも……マダム、今日出会ったことはどうぞご内密に」
「フフフ、いいねえ、女のロマンだよォ」
少しばかり、背筋を震わせつつ、ディオニソスXIIはもうすぐ表通り、というところで運良くエウブレナを見つけ、呼び寄せた。
「た、隊長!?」
「細かいことは聞くな!……このご婦人を、安全な場所まで頼む」
「わ、わかりました!!」
マダムのまとわりつくような視線を振り切って、ディオニソスXIIはもう一度路地裏へ走った。何とか、表から見えないところに隠れると、変身を解除する。時間ギリギリだった。
「つ、疲れた……余計に疲れた……」
ゆっくりと歩いて表通りに戻ると、そこにあった建物の壁に背中を預け、ずるずると滑り込んだ。限界まで神器を使った体は軋んだように痛むし、なんだか様々な人間と対峙して想定以上にメンタルを使った気がする。
「そういうわけで、特別手当欲しいんだけど?」
「ふん、神器を使えるようにするだけでも人間には過ぎた施しなのだが。ほれ、これをやろう」
声と共にヴァッカリオの手の中にキンキンに冷えたパワフルワンが一缶、落ちてきた。
「ええ~これだけ~?店長、ちょっとケチ臭くない?」
「仕方ないな、ツマミもつけてやる」
と、その言葉と共にもう片方の手にエリュマ特製のフライドチキンが落ちてきた。うーん、神様の特別手当としては雑すぎないか?とヴァッカリオは思ったが、キンキンに冷えたパワフルワンとフライドチキンの組み合わせが最強なのは間違いない。
その場でプルタブを引き、パワフルワンを一気に煽る。
「ぷっは~~!一仕事した後の酒はやっぱ最高だね!!」
「堕落した英雄らしいセリフだな、全く」
フライドチキンを頬張るヴァッカリオを見て、プロメトリックは呆れたようにため息をついた。
「あーーー!!!ヴァカ隊長!!もう!こんなところでお酒飲んでないで仕事手伝ってよ!」
「おっ!アレイシア元気じゃ~ん!」
さきほどまで囚われていたとは思えない元気の良さで、槍を持ったままのアレイシアが近づいてきた。ヒラヒラ、と手を振るとアレイシアがムスッとした顔をする。が、すぐに表情を変えて不思議そうな顔をした。
「今、ヴァカ隊長誰かと喋ってなかった?」
「さあね、気のせいじゃないかな……」
「そうかなあ……」
「ははは、幽霊だったりして!」
ヴァカ隊長からかわないでくれる!?と喚くアレイシアを置いて、ヴァッカリオは心の中で「ただの幽霊じゃなくて守護霊なんだけどな」と付け加えた。
夜の騒ぎは終わり、満月は沈む。夜が明けると共に、月の仕事も終わりだ。あとは、他のヤツらが片付けてくれるだろう。
さて、家に帰ってひと眠りするかな、とヴァッカリオは軋む節々を鳴らして、大きく伸びをしたのだった。