N.A.T.T.O.

7月10日、納豆の日に「推しに納豆食べさせる」って話をフォロワさんがしてたので書いた。納豆が好きなヴァッカリオの小ネタ。ギャグです、短い。


 

突然だが、ヴァッカリオは納豆が好きだ。東のポリスの……料理?食材? まあ、なんでもいいけど。とにかく、あの納豆が好きだ。

独特の臭いとネバネバ糸を引く茶色のアレ。腐った豆もとい発酵食品のアレ。明らかに「最初に食べようと思った人間はヤバい」としか言えないアレ。

ヴァッカリオは納豆が好きだった。ちなみにアポロニオは納豆がお口に合わないらしくあまり好きではないらしい。

……好き嫌いを良しとしないアポロニオは、納豆について「好きではない」と言うに留めていた。断じて、嫌いだからヴァッカリオに2パック押し付けているわけではない、と。ヴァッカリオは納豆が好きなので、2パックもらえるなら、兄孝行も兼ねて喜んで食べる。

そんな納豆が、食卓から消えた。

「納豆が……ない……!」

ヴァッカリオは愕然と黄色一色、卵に支配されたテーブルの上を見つめていた。卵に対抗しうる、あの輝く白き鞘に包まれた、銀糸を引く茶褐色の弾丸達が。

「ん? 納豆か? もうお前も健康になったのだから、無理に食べる必要はないのだぞ!」
「!!!」

ひょい、とキッチンから顔を出してそう言ったアポロニオにヴァッカリオは目を剥いた。アポロニオはキッチンに戻って、さらなる黄色の援軍を召喚しようとしている。

ヴァッカリオは、納豆が好きだ。

ヴァッカリオにとって納豆は……戦友なのだ、この卵と砂糖に支配された世界で唯一の。

ヴァッカリオと納豆の出会いは約1年前、長きに渡る兄との冷戦時代を終えて、また一緒に食事をするようになったころだ。

公園で詫び、として渡された弁当の時点で卵砂糖連合軍はヴァッカリオの舌から胃腸までを蹂躙し尽くしていたのだ。そこから度重なる食事会と言う名の侵攻の頻発、健康的な食事かつヴァッカリオが好きなメニューだぞ!と言う軍師アポロニオの采配……物量を伴った卵砂糖連合軍による波状攻撃の前にヴァッカリオは既に虫の息であった……。

最早、ヴァッカリオの命は風前の灯火!味覚破壊!胃もたれ胸焼けお友達!ディオニソスXIIよ、ザグレウスを振るうより先に糖尿病で死すのか!?

……そんな絶対絶命のヴァッカリオの元に舞い降りたのが、東のポリスより伝わりし伝説の健康食品、納豆であったのだ!

納豆は突然、アポロニオ率いる卵砂糖連合軍が支配する食卓に現れた。

「お兄ちゃん、なにこれ……くっさ!!」
「それは納豆と言って、健康に良いものらしい。お前の体に良いかと……東のポリスから取り寄せてみたのだ」

混ぜて粘り気を出してから食べるらしいぞ、と説明するアポロニオ自身も臭さと見た目の気持ち悪さに眉を寄せていた。

アポロニオは一時期、ヴァッカリオに健康食品を食べさせることに非常にハマって……こほん、ヴァッカリオの健康を思って、熱心に様々なことを勉強していたらしい。この納豆もその一環、というわけだ。

付属品のタレと黄色のからしを垂らし。アポロニオとヴァッカリオは無言で納豆をこねこねまぜませねじねじした。作り方は混ぜるだけ、らしいが。何とも言えない臭いが食卓に広がり、無言が続く。

う、気持ち悪いな、とヴァッカリオはストレートに思いながら、納豆を口に運んだ。

「…………」
「…………」
「…………ヴァッカリオ、どうだ?」
「…………ど、独特な味だね」

気持ち悪いな、と思ったのは間違いではなく、思っていたとおりの奇っ怪な味と臭いが口に広がった。引き攣った笑いをするヴァッカリオに、アポロニオも表情をストンと無くして無言で納豆を口に運んでいる。

アポロニオは早々に納豆を片付けたあとに、激甘甘甘甘甘甘甘甘卵焼きを素早く助けを求めていた。その光景を見ていたヴァッカリオは、口の中に広がる何とも言えない東のポリスの味わいに、一つの閃きを得ていた。

(納豆、甘くないぞ……むしろしょっぱいぞ……!!)

ショーユベースのタレに、東洋マスタードなからし。それらを合わせて、ナットー本体が甘くないなら……しょっぱくなるのは自明の理!!

ヴァッカリオはカッ!と目を見開いた。きた、この絶望的な戦場でヴァッカリオを助けてくれるシルバーバレットもといブラウンバレットが!……この際、臭いと美味しいとは言い切れない味については目を瞑ろう。

「ねえ、お兄ちゃん」
「? なんだ?」
「おいら、この納豆ってやつ、結構好きかも……」
「なんだと……!? そ、そうか、お前がそう言うなら……ちなみにヴァッカリオ、味覚障害とかそのような診断は……」
「ないからね!? その辺は健康そのものだからね!?」

アポロニオが非常に憐れんだ眼差しでヴァッカリオを見てくるので、ヴァッカリオは慌てて否定した。が、それはそれで微妙に「味音痴」の誤解を生んだような気がしないこともない。

いやしかし、その程度の汚名などいくらでも被ってみせよう。今ですら汚名まみれなのだから、そこに味音痴が一つぐらい増えたところで大した問題ではない。この、激甘甘甘甘甘甘甘甘な世界で生き延びるための武器となる納豆を手に入れる為なら……!

ヴァッカリオは汚名を被り、プライドを捨て、「お兄ちゃん、次からも納豆用意してよぉ」と可愛らしく(!)おねだりして納豆を常備してもらうことに成功したのだった。

卵砂糖連合軍を迎え撃つ戦友として、納豆は目覚ましい働きを見せてくれた。トッピングにネギが合うらしいよ、と言えばアポロニオはネギを用意してくれたし。キムチや山芋、オクラといった酒のつまみのネバネバ軍団すら召喚してみせた納豆。それだけでなく、なんと、卵にも合うと言うことでアポロニオ軍師が繰り出す物量のごく一部を「甘くない状態」で消費するこにも成功した。

まさに、納豆様々である!納豆こそ救世主!ヒーローは遅れてやってくる!!

気づけばヴァッカリオは納豆の独特な臭いも味も気にならないどころかすっかり好きになってしまった。家でひとり晩酌をする時に、ついつい納豆を用意したことも一度や二度ではない。

ヴァッカリオと納豆には、戦場で培われた強い絆があったのだ……!!

納豆のない食卓に、ヴァッカリオは死ーんとした顔で座っていた。さすがに、慌てたアポロニオが声をかける。

「す、すまない、お前がそこまで納豆好きだったとは……」
「納豆……戦友だからさ……へっ、俺を残して先に戦場離脱するなんてよ……」
「ヴァッカリオ! しっかりしろ! 次からまた用意しておくから!」
「……お兄ちゃん、お願い、納豆準備しといて……本気で」

納豆の援護なく戦場に立つのは本当に久々だ。果たして生きて帰れるのか……!?
……目の前に広がる黄色の世界に、ヴァッカリオは覚悟を決めてダイブした。