Dope Moon - 1/6

ヴァッカリオを主役としたヴァッカリオによるヴァッカリオのための(?)シリアス風味エセスパイアクションなダブルオートゥエルブ的ストーリー。捏造設定モリモリ。あと、殺人シーンや流血シーンがそこそこあります。2万7千字なのでちょっぴり長いです。(前作よりはマシ)※全編通してほぼヴァッカリオしか出てきません

拳銃の話とまとめて物理本(同人誌)になりました。すでに完売しております。ありがとうございました。


 深夜だというのに人であふれるゼウスシティの繁華街。着崩したスーツを身に纏った長身の美丈夫、ヴァッカリオもその波に乗ってぶらぶらと歩いていた。時にキスをするカップルを冷かし、誘うように腕を絡めてくる女性を躱し。
 そうして、人知れず一歩踏み込んだ裏通りからしばらくして何食わぬ顔で出てくると、隣のビルの玄関前で、壁に背を預けながら吸いもしないタバコを口に当てた。足元にはその辺で拾った吸殻がばらまいてある。これで、ヴァッカリオは「ずっとここで人を待っていた」というアリバイを作った。
 人を待っているフリをしながら、ハルディスに用意してもらったずいぶんと高性能な腕時計で時間を計る。五、四、三、二、一……。
 ドンッと鈍い音とともに、ヴァッカリオが出てきた裏通りから黒煙がもうもうと立ち上がる。ついさきほどまで賑やかく騒めいていたストリートにいくつもの悲鳴が上がり、人波が一斉にヴァッカリオのいるビルから遠ざかろうとさざめいていく。
 
「何事だ!?」
「わかりません!」
「お前は様子を見てこい!」

はい!と走り出す若僧の後ろ姿を見送り、他の人間に指示をいくつも飛ばす強面の男の視界から隠れるようにして、ヴァッカリオは開いたドアの中へとするりと身を滑り込ませた。ホストクラブらしく薄暗い照明の中、行き交う人々に紛れて慌てることなく悠々と歩いてホールへと侵入を果たす。

「ボス~潜入完了したよ~」
『よくやった、次は情報収集だ!……ゼウスシティの爆発騒ぎ、お前か?』
「いやあ、ハルディスの小型カプセル爆弾、すごいねえ」
『ヴァッカ、お前な……後でもみ消すこっちの身にもなれxxxx!!』

 アリバイ作りもちゃんとやったよ~、とゾエルの小言を軽くいなすと、ヴァッカリオはぐるりとホールの中を見渡した。狙うは、組織の上層部に顔が利きそうな人間――。

 時はさかのぼり数時間前。ヴァンガードの勤務を終えて帰宅するアレイシアやエウブレナを見送り、それから遅れてヴァッカリオもベースを出た。帰り際に、エリュシオンマートによってパワフルワンを買おう、と思いながら。
 そこまでは、いつもの日常だった。
 
「おい、ゴミ箱寝太郎」
「なんだよいきなり、そんな怖い顔してさ~」

 出迎えたのは、エリュマの制服ではなくスーツを着た店長、だった。眉間にしわを寄せて、腕組みをして立つ姿は到底堅気には見えない。それはそうだろう、世界の裏側から人類を操ってここまで世界を作り上げた神であるプロメテウス、あるいはプロメトリックである彼が、その気配を滲ませて立っていればどんなに鈍い人間でも何かを察するには十分だ。
 
「で、何か厄介ごと?」
「アレイシアが攫われた」

プロメトリックは端的に言うと、少しだけ宙に目を泳がせてからもう一度ヴァッカリオを見た。

「攫ったのはゼウスシティの奴らだ。アレスを信奉する宗教団体。多少は目零してやっていたが、まさかこのような愚かな行為に走るとは……!」
「ちょ、ちょっと待って、アレイシアが?攫われた?」

一応、ヒーローだぞ、とヴァッカリオが続ければプロメトリックは面白くなさそうに「その好意に付け込まれた、実に不愉快だ」と返した。
 ヴァッカリオもそれで合点がいく。恐らく、事件や事故を装ってアレイシアを誘い出したか、人質を使って無力化させたのだろう。反吐が出る話だ。

「アレイシアには今、全力で加護を振っているから私は動けん。非常に癪だがお前が助けに行って来い」
「いやあ、言われなくても行くけど!加護って、職権乱用じゃないの?神様的な」
「神と言う存在はエゴの塊だぞ、知らなかったのか?」
「あーはいはい、知ってた知ってた。……わかってる情報、端末に送ってくれ」

 プロメトリックから得た情報はその場でそのままゾエルに転送する。ゾエルなら、泡を食ったとしてもすぐに立ち直って必要な装備とプランを用意してくれるはずだ。
 
「加護は二十四時間が限界だ。それ以内に片付けてこい」
「りょーかい。夜が明ける前に始末してくるわ」
「フン……お前には成功してもらわねばならんからな。餞別だ」

 手招きするプロメトリックのとおりに、頭を下げると突然、ヴァッカリオは頭を掴まれた。

「いででででで!!!」

握力、ではない、違う力の奔流が頭から体に入ってくるのがわかる。細い穴に無理矢理、水を押し流しこまれているようだ。パッと手を離されて頭を上げるが、正直、かなりクラクラする。

「三分」
「は?」
「三分だけなら神器を使っても問題ないようにしておいた。……使いどころを間違えるなよ」
「えっなにそれ、ちょっ!待てって!」

 言い放ったプロメトリックは頭を抑えるヴァッカリオを置いて、すたすたと歩き去り、まるで幽霊か何かだったかのようにゆらりと姿を消した。
 
「ったく、もうちょっと説明してくれりゃいいのに……」

 とにもかくにも、ヴァッカリオはヴァンガードベースへととんぼ返りした。エウブレナやネーレイスはすでに帰宅した後で、残っていたのは総司令のゾエルと、マイペースに機械いじりを楽しんでいたハルディスだけだ。
 
「おう、ヴァッカ、戻ったか。情報から場所は洗い出した、組織の方は英雄庁に照合かけてる」
「ああ。プロメトリックがアレイシアには加護をかけてるから直ちに何かある、ってことはなさそうだ」

 加護、という言葉にゾエルは片眉を上げると、何かを言いかけてやめた。プロメトリックが自由気ままな存在であることは遥か昔から明らかであるし、そもそも今はそれよりもやるべきことがある。
 
「英雄庁は?」
「動きが鈍い。……勘だが、あっちの組織に英雄庁の上層部が噛んでるんだろ、最高にxxxxだ」
「じゃ、勝手にやらせてもらうとしますかね」
「そういうこった、ヴァンガードスクランブルだ!」

とは言うものの、とゾエルはベースのモニターに該当の場所と状況を表示し、ヴァッカリオに説明してくれた。
 ゾエルがさっくりと洗ったところによれば、そのビルはゼウスシティの歓楽街にあり、表向きは高級ホストクラブを装っているようだ。実際のところは、その裏で人身売買や薬物の流通を取り仕切っているらしい。ゾエルの言ったとおり、派手に動いている割には摘発件数が少ないことから、間違いなく何件かは揉み消しが入っているだろう。
 
「宗教団体ってのは?」
「それも一つの顔だな。よくある話だが、戦神アレスを掲げて『神話還りしていないのはアナタがアレスの神話還りだからです!英雄庁が見落としているだけなのです!』みてぇな胡散臭い活動しているらしい。ついでに、これが神話還りの薬だ、って高値で栄養剤売りつけたり、シャブ漬けにしたり随分とやりたい放題なxxxx組織だよ、あのクソッタレ共は」

店長、多少のお目零しの範囲が広すぎないか、とヴァッカリオは天を仰いだが、まあ、神と人間ではその辺のさじ加減が違うのだろうとあきらめた。

「アレイシアを攫って巫女にでもしようってんだろ」
「そこまでやったら英雄庁が黙って……ああ、それで上層部が噛んでいるって話になるのか」
「そういうこった。っとにロクでもねえ話だぜ。英雄庁からの応援は望めねぇからな、お前がとっとと一人で潜入してアレイシアを連れ戻してくるのが一番早い」

ゾエルがニヤリ、と獰猛な笑みを浮かべてヴァッカリオを見た。ヴァッカリオもそれを受けてへらり、と笑う。

「組織ごとぶっ潰しても?」
「できるもんならな」
「じゃあ遠慮なく」

 頼もしいことだね、とゾエルは快活に笑うと、テーブルの上に潜入用の道具をばらまいた。護身用のナイフとテーザー銃、それらを収めるショルダーホルスター。さらに、ハルディスが「ロマンだよ!フヒヒ」などと気持ちの悪い笑みを浮かべながら作っていたという、謎の高性能腕時計と小型カプセル爆弾を二個。そして、ピアス型の小型通信機。
 
「ホストクラブだっつーんだから、お前、スーツな……持ってるのか?」
「一応あるよ、それぐらい。ヒーロー成り立ての時にお兄ちゃんにオーダーメイドで作ってもらったヤツ……入るかな、アレ……」
「十年以上前のシロモノなんだろ、大丈夫か?」
「うーん、確か『ヒーローとして有事の際にも動けるようにしておいた』とか言ってたから、それなりに耐久性もあると思うけど……」

もう、それでいいから取りに行ってこい、とゾエルはあきれたように手でヴァッカリオを追い払った。

「てめえが戻ってくるまでにはもうちっと組織とビルの間取りでも洗っとくわ……ハルディス!悪ィが今日は残業だ!」
「フヒ、何、いいけどさ……」

ハルディスがいつも居座っている技術室から返事が返ってくる。

「エウブレナとネーレイスには?」
「まだ言わねえ。どっかの神様の加護があるからアレイシアは無事なんだろ?今、教えたところで余計な心配をさせるだけだ」
「ま、その辺の判断はボスに任せるよ。おいらは実働部隊、ってね」

 年頃の女子を、あんないかがわしい店ばかりの歓楽街に向かわせるわけにもいかないのだろう。あの二人をそんな場所へ赴かせたと聞いたらポセイドンIIも、墓の下の先代ハデスIVも怒りそうだ。