閃光を穿て - 1/7

アポロンVIを主役としたオールキャラシリアス風味エセSF/エセミリタリなスペクタクルパエトン的ストーリー。捏造設定モリモリ。キャラの詳細設定はアレヴァン見返せてないので、かなりガバいです。コンセプトは「とにかくカッコいいアポロンVI」でした。4万字オーバーしてるので、長いです。

2020年に私が書いた小説の中で一番人気だと思う。物理本(同人誌)になりましたが、完売しました。ありがとうございました。


夢。夢を見た。夢を見た。

それはとても恐ろしい夢で、悪夢であった。
夢を見た人間は飛び起き、あるいは魘され、涙を流した。

――そして、日が昇る。

 アポロンVIことアポロニオは出勤を急いでいた。原因は、夜に見た夢だ。予言の神であるアポロンの神話還りである彼には、僅かながらも予知夢を見る能力が備わっている。だから、すぐにわかった、これが『予知夢』の一種であることを。
 アポロニオはそちらよりも矢を射る、戦う神としての能力が多く発現していたが、彼の出勤先であるアポロンフォースにはもっと予知能力を強く発現させたメンバーがいる。部門を設立するほどではなかったが。
 
「おはようございます!」
「ああ、おはよう。部門長をAルームに集めてくれ。それから各部門に第三級警戒態勢を取る様に通達を」
「了解しました。……夢の件ですね?」
「ここで待っていたということは、君も見たのだろう?」
「おっしゃるとおりです。私は予知夢を見ない体質でしたが……いえ、すぐに準備いたします」

入り口で待っていた副官にすぐ指示を飛ばすと、自身もAルームへと急ぐ。
 副官が手元の端末から全館放送を行い、途端アポロンフォース全体に緊迫した空気が流れた。第三級警戒態勢と聞き、各々が慌てて自部署に戻っていく。頭一つ小さいものの、行きかう人波の中で一人異なる雰囲気で歩き急ぐアポロニオを副官も小走りに追った。

 ミーティング用の会議室Aルーム。ここは椅子のない、短時間で話をまとめたいときに使われる会議室だ。各個人の手元の端末と、円卓中央の3Dホログラムのみのシンプルな部屋。
 スーツ姿の各部門長が揃ったところで、一人カジュアルな服装のアポロニオが口を開いた。

「諸君らに集まってもらったのは他でもない昨晩の『夢』の話だ。この中で夢を見ていない者はいるか?」

その言葉に、誰も手を挙げなかった。これほどまでに全員が同じ『夢』を見ることは明らかに異常であった。皆、厳しい面持ちでアポロニオを見る。それを見渡すと、アポロニオは重々しく頷いた。

「私が見た夢は、『隕石がオリュンポリスに落下し世界が破滅する』夢だ」
「同じですね」
「私は『大岩が雨の様に降り注ぐ』夢ですが、大筋は同じでしょう」
「『岩に潰され家族や市民が死ぬ』夢でした……嫌なものです」

それぞれ、口々に自分が見た夢の内容を語る。
 まさに悪夢と呼ぶにふさわしい内容。細かい部分は違えども、いずれも『死』『破滅』を予感させる内容ばかりであった。

「アポロンフォースはあの『夢』を予知夢と考え、それへの対応を第一とする。恐らく、我々以外の一般市民にも夢を見た者は多いはずだ」
「私の妻が同じアポロンの神話還りですが、夢を見たと言っていました」
「うむ。となれば、まずは市民を落ち着けることが大切だ。広報部は直ちにニュースリリースの準備を。総務部は英雄庁と他フォースへの連絡およびホットラインの構築を頼む。警務部はパトロールを強化してほしい、市民がパニックになるかもしれんからな。防犯部は……」

と言葉を切ったあとにアポロニオは思案気な顔で防犯部の部門長を見た。

「確か、防犯部には予知能力について研究をしていたグループがあったか?」
「は。具体的な成果は得られていませんが……ただ、アポロン神の神話還りについては、予知能力の有無、強弱などを全てまとめてあります。こちらの部門で夢の内容の聞き取りとまとめを行いましょう」
「ああ、それで頼む。夢の内容はまとまり次第、早めに展開をしてくれ」
「はっ!」

アポロニオから防犯部への指示を聞いていた総務部の部門長から声が上がった。

「必要であれば総務部から人を出せます。第三級警戒態勢で、通常業務が止まりますので」
「助かります。詳細は後程」

 部門間の調整は部門長の采配次第だ。よほど、変な事をしない限りアポロニオが口を挟むことは無い。ここ、アポロンフォースは各部門が自信をもって自部署を運営し、そして誇りをもって常に任務にあたっている。
 総務、警務、広報、防犯。まだ声がかかっていないのは、神器や通信機、その他アポロンフォースの装備についてを一手に担う調達部だけだ。
 
「調達部については……『夢』の内容が現実になった時に使える兵装がないか確認してほしい。私の記憶が正しければ、十四、五年前に超長距離射撃を目的とした兵装の開発があったと思うのだが……」
「すみません、私はまだその頃は調達部門配属ではありませんでしたので……」

申し訳なさそうに調達部門の部門長が回答した。若い、とも言えない年齢ではあるが、このメンバーの中では一番経歴が浅い。

「ああ、たしかありましたね。その時はコストに見合う活躍の場がない、ということで開発凍結になったと思いますが」

と、口を挟んだのは警務部の部門長だ。白髪が大分多くなってきた頭が示す様に、アポロニオに次いで古株である。

「開発凍結ですか……十五年以上前だと廃棄の可能性もあります」
「そうであれば仕方ないが、有効であるなら良いだろう。もちろん、それ以外の兵装でも使えそうなものがあれば念のため用意をして欲しい」

 すみません、と声を上げたのは書記に徹していたアポロニオの副官だ。部屋中の視線が彼に集まる。

「その、どうしてそのような兵装を使おうと思ったのですか?まだ夢の内容も精査されておりません。効用判断は尚早ではないかと」
「それについては私の一存なのだが……」

アポロニオはテーブルの上に手を置いて少し困った顔をした。彼にとってはやや高い位置にあるテーブルなのもあって、より少年の様に見える。まるで、数学の問題がわからない、とでもいうような。

「私の夢では、自分の最大火力で足りずに隕石を打ち落とせない、という結末だった。その時に『あの兵装があれば……』と悔やんだところで目が覚めた」

その言葉に、部門長たちからもどよめきが広がる。
 アポロンフォースのトップであるアポロンVIの金の矢は、どのような物でも貫く、ある種の象徴だ。以前のプロメトリック騒乱でもただの一撃で複数の巨神を葬った実績がある。その火力が通じない、となれば、今のアポロンフォースには何も手出しができないということに他ならない。
 
「なるほど……差し出がましい指摘をしました」
「いや、構わない。私の指示も唐突であったからな」

 他に何か質問は?とアポロニオが尋ね、特になし、との反応を各々が返した。すでにやるべき方針は示された。
 
「では、二時間後にもう一度進捗確認を行う。時間と場所のセッティングは任せた。私は執務室に戻って他のゴッドナンバーズと連絡を取ってみるが……各部門、何かあったらすぐに連絡をしてほしい」

了解しました、と副官が自分の端末にメモを行い、その場は解散となった。
 各部門長が厳しい顔をしながらルームを出ていく。その後ろに副官を伴いアポロニオが。

「時間との戦いになるな」
「そうですね。本日以降のスケジュールですが全てこちらで調整いたします」
「頼む」

 アポロニオは溜息をついた。この様な事態は長いヒーロー生活の中でも初めてかもしれない。悪夢の残滓に胸を重くしながら、執務室へと急いだ。
 

 
 アポロンフォース執務室。アポロニオの性格を表したかのように事務的で、余分なものが存在しない洗練された部屋だ。
 普段は一人だが、今は副官二人とアポロニオ直下の部下四名が執務机前の応接テーブルを占領し、各部門の状況の確認や擦り合わせ、スケジュール調整などを行っていた。関係各所からかかってくる通信の取次も彼らの仕事だ。とにかく、全部門が一斉に動き出した今、通信端末のアラームは鳴りっぱなしである。
 
「――そうか、助かる。では後程」

アポロニオが通信を切断する音に、副官が振り仰いだ。

「ゴッドナンバーズの招集は十四時からとなった。それでスケジュール調整を頼みたいができるか?」
「は。問題ありません。部門進捗を十一時より、十二時より昼食、十三時より英雄庁と記者会見の打ち合わせ、十四時からゴッドナンバーズの会議とします。昼食につきましては、軽食を用意しますので場合によっては部門進捗のミーティング中に食べていただくことになるかもしれません」

一度、言葉を切った副官は手元の端末をスクロールしてスケジュールの続きを滔々と述べた。

「ゴッドナンバーズの方々との会議の終了時間次第ではありますが、アポロンフォースに帰還後再び部門進捗を。その後、十七時より市民向けの記者会見を行います。所要時間は二時間を予定しています。会見終了後、夕食、続いて調達部門での兵装視察となります。完了予定時刻は二十一時となります。問題ありませんか?」
「ああ、それで良い。……君たちはうまくシフトを組んで交代で休むようにしろ」
「すでに考慮済みです、お気遣いありがとうございます」

 副官は苦笑しながら言った。その言葉を受けて、アポロニオもふっと笑みを零す。
 
「今回はXデーがわからないとは言え、事前に準備ができるだけマシだな。やることがはっきりしている分まだ気が楽だ」
「以前のプロメトリック騒乱やティタノマキアは全く予兆がありませんでしたから……」

 アポロニオと副官の会話を聞いていた部下の四名は思わず顔を見合わせた。一人がポツリと「余裕だ……」と呟いた。
 その呟きを拾ったアポロニオが口を開く。
 
「時間との勝負であることは変わりないが、何も悲観すべきことは無い。各々が与えられた力を持って全力を尽くせば、このような困難も跳ね除けられるはずだ。今は不安が大きいだろうが……市民の前ではそのような態度を見せぬようにな。いつでも堂々としていろ、我々は選ばれしアポロンフォースの一員なのだから」

 それはトップの余裕ではなく、プライド。市民を守る、ゴッドナンバーズとしての力強い言葉。
 ぽろりと不満のような呟きをこぼしてしまった部下の一人は慌てて立ち上がって敬礼した。羞恥で顔が真っ赤に染まる。

「も、申し訳ありませんでした!」
「ははは、気にすることはない。君はまだヒーロー歴も浅いからな。それにこういう騒動に慣れるのも良し悪しだぞ」

少し茶目っ気を混ぜて部下の謝罪を笑って済ませた。
 一見すれば、子供が大人を諭す不思議な光景にしか見えないが、実際は全くの逆。この部下が生まれる前から、ヒーローとして活動を行ってきたアポロニオの言葉は重みがある。

「はい、こちら執務室」

掛かって来た通信は英雄庁からの問い合わせだった。記者会見の打ち合わせの前に、一度顔を合わせて状況の擦り合わせをしたいとの要望。

「ふむ。部門進捗の前にそちらを片付けるか。何なら、そのまま進捗会議に同席してもらっても構わない」
「了解しました。会議室の変更とその旨を部門長に通達します。……英雄庁からは何人来ると言っている?」

 副官と部下のやり取りを眺めながら、アポロニオは持っていた紙媒体の資料をファイルケースに放り込み、立ち上がった。空いている会議室のチェックを行い、場所を決定したら慌ただしくアポロニオは副官一人を伴って執務室を去って行く。先に会議室で英雄庁の来訪を待ちつつ、各報告書の確認をするようだ。
 
「……アポロニオさん、スケジュールキツそうですけど大丈夫なんですか?」
「あー……あの人はあれぐらいならどうってことはないさ。むしろ俺たちがついていけなくなる」

 一番若い部下が心配そうに言うが、それを受けた副官の一人は遠い目をして言った。見た目は成長期の少年の様だが、アポロニオの中身は自分たちより余程歳を重ねている。それに、連勤807日は伊達ではない。
 
「いいか、俺たちは裏方だ。だけど、やれることがある。あの人を支えることが俺たちの役目だ。自分たちの体調管理はしっかりやれよ」

で、ゴッドナンバーズの会議の前に資料まとめられるか?と副官は部下たちに尋ねた。より一層引き締めた顔をして、各自が現在の状況を報告する。
 ヒーローとしての力が足りず、前線に出られずとも。一人で市民の期待を背負って戦う男の背を守るのは自分たちである、という誇りが彼らの心に火を灯す。