Step by Step - 2/2

 

暗礁に乗り上げてしまった会議の中、アポロンVIの鶴の一声で休憩をとることになった面々はあちこちに散らばっていった。エウブレナも軽食を食べてカロリーを補充し、お手洗いを済ませてすっきりしてから化粧台で軽く髪の毛を整えていた。エウブレナの意思に反して犬の耳(断じて猫耳ではない!)のような形を作るクセっけを慎重にくしでとかす。

そこに、鏡越しに一人の女性が入ってきた。背筋をピンと伸ばし、エウブレナよりもよほど大人らしいメイクを施したアルテミスVIII……ディアーナだ。

目が合ってしまったエウブレナは振り返って会釈をする。ゴッドナンバーズの中でもディアーナとは年齢も離れており、関りも少ないことから、そこまで親しいとも言えない。……むしろ、アポロンVIと丁々発止でやりあう姿と武人のような厳しい立ち振る舞いを見ていると、苦手まではいかなくても多少の緊張感は持ってしまう。

「ハデスIVか……」

エウブレナに気づいたディアーナも足を止めて、エウブレナの顔をまじまじと見た。緊張感も相まって、どことなく居心地悪くなったエウブレナは「あの、私の顔に何か?」とおずおずと尋ねてみる。

「おお、すまない。ハデスIV、先ほどの会議での折衷役、見事であったぞ」

普段、厳しい顔をしているディアーナが顔を緩めてエウブレナを褒めた。そうくると予想していなかったエウブレナは驚いて背筋を伸ばし、どもりながらも礼を述べた。

先ほどの会議。アポロンフォースとアルテミスフォース、さらに一応かかわりがあるから、ということでハデスフォースも少人数呼ばれての「重要ヴィランの輸送における警備体制について」を討論しているところだ。監獄を統括するハデスフォースとしての受け入れ側の視点も聞きたい、との要望があっての参加であった。

そうして副官を一名伴って参加したアポロンフォースとアルテミスフォースの会議だったが……お互いに冷静なままに正論をぶつけ合って、理論整然とやり取りする会議はエウブレナにとっても良い経験になった。さらに、以前、ヴァッカリオに指摘されたことを踏まえて、エウブレナはアポロンフォースとアルテミスフォースが正面衝突しそうになったタイミングで、ハデスフォースとしての意見を出して「クッション」としての役割を果たしていたのだった。

「素晴らしいな、しっかりと会議の内容を理解し、把握するどころか流れや全体の様子までコントロールしようとするとは。ハデスIVも早くも立派なゴッドナンバーズであろう」
「あ、ありがとうございます……その、ちょうど、会議のやり方について指導して頂いたばかりでしたので……」
「ほう! アポロンVIか?」

ディアーナが目をきらりと光らせてアポロンVIのことを尋ねる。……もちろん、推しの活躍とか聞き逃すわけにはいかないよねえ!?!?!?!?!? などというディアーナの内心について、エウブレナは知る由もない。

「あ、いえ、ディオニソスXIIです」
「そうか……」

こほん、と一つ咳ばらいをしてすまし顔で「奴も立派に職務を果たしている様で何よりだ」とディアーナは努めて冷静に述べた。心の中ではアポロンVI様じゃなかったー!!!!けど掠ってるーーー!!!! という悔しいような嬉しいような微妙な気持ちでじったんばったどったんばったん大騒ぎしてるのだが……まあ、それはそれとして。

ディアーナの心中を全く知らないエウブレナは、照れながらも先日の指導の顛末を語って聞かせた。最後まで聞いてふむ、と厳かに頷いたディアーナは「アポロンVI様1mmもかかわってなかったけどところどころでアポロンVI様に言及するXIIは推せるのでセーフ!!!!」と思っていた。もうだめだこのアルテミスVIII。

「それは良い経験をさせてもらったな。私の目から見ても一皮むけたように見えるぞ」
「ありがとうございます!」

エウブレナの頭の上で、特徴的な犬耳ヘアがぴょこりと跳ねた。

「……では、ハデスIVに余計な心労をかけぬためにも言うておくか」
「?」
「私とアポロンVIは不仲なわけでもないし、敵対しているわけでもない。あくまでもライバルであるぞ。此度の会議でも主は我々の仲を仲裁しようと立ち回っていたようだが……心配には及ばぬ。一つ、成長したハデスIVであれば、我々の関係も理解できるであろう」

そう語るディアーナは……穏やかに微笑んでいた。武人として振る舞うアルテミスVIIIとしては珍しい、女性のような優しい笑みに、エウブレナはどきりと心臓を跳ねさせた。それはディアーナの新たな一面を見た驚きでもあったし、大人の女性の余裕、に触れた刺激でもあったし……自分が、どういう風に会議で役割を果たそうと背伸びをしていたか、を全て見透かされていた、という一種の恥ずかしさでもあった。

「そ、そうですか……」
「うむ。しかし、事情を知らぬ人間は恐ろしい光景にも映るであろう。ゴッドナンバーズ間の親交を深めるべし、とはアポロンVIも言うておるしな。だからハデスIVが間に入って、我々のやり取りを落ち着かせてくれるのは助かる。……どうしても、以前と同じ感覚で、アポロンVIの前に立ってしまうから。もう必要ないのにね」

ディアーナは最後に、寂しそうに小さく呟いた。その言葉はエウブレナには届かず、首を傾げる。その様子を見たディアーナは苦笑しながら首を振った。

口を噤んだディアーナに、エウブレナもあえて聞き返すことをせず、狼狽えたように視線を彷徨わせる。

「ええと……」
「すまない、独り言が漏れてしもうたな。気にすることはない……そうだ、良かったら礼も兼ねて会議後にカフェにでも行かぬか?」

仕事は残っているか? と立て続けに聞かれて、エウブレナは少しだけ考えを巡らせた。

「後で副官に確認しますが、一応直帰の予定で来ているので大丈夫です」
「大したものではないが、アルテミス区のスイーツを馳走しよう」
「! 本当ですか、楽しみです!」

アルテミス区は女性神を戴くだけあって、スイーツについてはハデス区よりも充実している。特に乳製品を使った濃厚な味わいのスイーツは、エウブレナも気になっていたものだ。

では休憩後の会議も共に頑張るとしようぞ、というディアーナの言葉を最後に、エウブレナはお手洗いを出た。厳しく、時に怖いとまで感じていたアルテミスVIIIが予想以上に気さくで話しやすかったことに驚きつつ。

何より、アルテミスVIIIにも褒められたことに、端的に言ってエウブレナは最高にご機嫌になっていた。それはそうだろう、厳しいと思っている人から認められたのだから。特にゴッドナンバーズとしてまだまだ未熟なところが多い、と連日反省一杯のエウブレナにとっては非常に嬉しい出来事だ。

よし、続きの会議も頑張るぞ、とエウブレナは再度自身に喝を入れる。……その後ろ姿に、ぶんぶんと勢いよく振られている犬の尻尾を幻視した人がいるとかいないとか。

「んー! おいしいです!」
「ふふふ、ここのプリンは私も監修に携わっていてな。あのアポロンVIの舌をも唸らせた至高の一品なのだ」
(すごい、プライベートでもライバル関係なのね……!)
「休みの日にはアポロンVIが朝早くから並んで買い求めているとも聞く。監修した人間としても鼻が高いものよ」
「そうなんですね! アポロンVI様、休日は隊長……いえ、ディオニソスXIIと公園によく出かけるという話を聞いていたので」
「なにそれくわしく」
「えっ……あの、アポロン区の公園に手作り弁当作って持っていくみたいです……?」
「……貴重な情報提供、感謝するぞ」
「は、はい……(どうしよう、余計なライバル心に火を着けてしまったかも……!)」
(はあ~~~~~~?????? 兄弟で????? 休みの日に????? 弁当持ってピクニック???????? しかも手作り???????? 無理 無理みが強い 死ぬ ねえちょっと何の前触れもなく突然の推し供給やめてくれる!?!?!?!?!?!?!?いいぞもっとやれ!!!!!!(怒))

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そしてGAお兄ちゃん編に続く……(?)

もともとは「カッコいいヴァッカリオ」が見てえなあと思って、1ページ目のウェスターを一言で黙らせるシーンだけを書きたいと思っていたのでした。長くなったなあ。