お兄ちゃんの日だー!って言ってて大遅刻しましたが6月に間に合ったのでセーフです(え?)とんでもない化け物がアポロンフォースの新人研修合宿に乱入してきててんやわんやしながらモブ主人公達がアポロンVI様のカリスマにひれ伏して感動しながら青春しちゃう感じのストーリーです。※4万字あるので長いよ!
※アレヴァンからの登場キャラはアポロンVIのみです
※主人公はオリジナルモブキャラ、その他も全員オリモブなので90%オリジナルモブで構成されています
※ごめん実はお兄ちゃんの登場シーンめっちゃ少ない
6月6日、私はとある事件の取材の為にアポロン区にある喫茶店を訪れていた。初夏らしい暑さの中、喫茶店に足を踏み入れれば涼やかな空調にほっと息をつく。店内では軽快なジャズが控えめに流れていた。
店の奥、仕切りがある半個室をすでに予約してある。店員に声をかけ案内してもらった。取材相手はまだ到着していないようだ。
私は取材用のカバンからノートと筆記用具を取り出す。今回の取材では、音声レコーダーや動画撮影は禁止されていた。持ち込みは手書きのノート限定。再取材は不可、チャンスは今日の一回のみ。
思わず、緊張で手が震える。相手方の条件で『若い記者一人だけ』と言われて、私が編集長から指名された。初めての単独取材が、まさかこんなにも大きな案件になるとは……。
取材準備を終え、注文したアイスコーヒーで喉を潤しながら取材相手が来るのを待つ。約束の時間よりずいぶんと早くなってしまったが、遅刻して取材がポシャるよりはマシだ。先輩たちが聞き込みと張り込みを繰り返し、何とかこぎつけた取材の約束。失敗は許されない。
遠くで、来店を告げるベルが鳴る。そろそろか、と腕時計を確認すれば、約束の時刻ちょうどであった。緊張のままに、仕切りの向こうに目を向ける。
「お、どうも」
……軽く会釈をして席に着いたのは、私と同じぐらいかもう少し若い青年であった。成人したばかりだろうか? もしかしたら、アレス零達の同年代なのかもしれない。下手をすれば、少年にも見えるほど。
そして彼は、アポロンフォースのヒーローとは思えない、だらしのない格好をしている。ライトブルーの髪は寝癖そのままなのかあちこちに跳ねており、上下の服はとても人に会うためのものとは考えられない、ダボっとした灰色のスウェット。
だがしかし、彼が今回の取材相手であることは間違いないだろうし、ここで変にへそを曲げられても困る。こういった姿も、プライベートだからなのだろう、と私は思うことにした。もしかしたら、アポロンVIもプライベートではこういった格好をしているのではないか?
「本日はよろしくお願いします」
私は名刺を差し出し、所属出版社名と実名を名乗った。相手が相手であるから、特別身分を隠す必要もない。むしろ変に誤魔化せば、いらぬ腹を探られる、と嫌そうに言っていた編集長の顔を思い出した。とにかく、今日の相手には誠実であれ、と口をすっぱくして言われてきている。おかげさまで、取材費としてかなりの金額を支給してもらった。足りなければ後から請求して良い、とも。
目の前の青年は名刺を物珍しそうに眺めた後、メニュー表を手に取った。
「今日の取材は匿名、って約束だよな?」
「え、ええ……」
……名乗るつもりはないらしい。不審がっているのが顔に出ていたのか、青年は目を細めながらも名前の部分と所属、階級などを隠したヒーローカードを提示してきた。確かに、アポロンフォースのヒーローカードである。このカードの偽造は重罪であり、間違いなく『匿名ではあるがアポロンフォース所属のヒーローである』ということを証明していた。
「じゃ、そういうことで。店員さん! 注文!」
そうして、青年は勝手にコーヒーとホットドッグを注文した。私に断りもなく。取材費を多く貰ってきて良かったと、まさか最初から安堵する羽目になるとは思わなかった。
「で、何を話せばいいの?」
「……アポロンVIが大怪我をして入院している件について」
ん、と青年は頷いた。あちこちに跳ねている青色の髪も合わせて揺れる。
そう、私が今日、取材に来たのはアポロンVIが全治不明の重傷を負って入院しているという事件について、だ。普段であれば、アポロンVIが入院するほどの事件となれば目撃者がいないわけもなく、英雄庁とアポロンフォースから事件背景について説明がされる。だが、今回は入院したというニュースこそあれども、事件の目撃者はおらず、英雄庁も『詳細は確認中』として情報を出し渋っていた。
アポロンVI入院のニュースから3日が経過し、それでも口を噤む英雄庁とアポロンフォースに業を煮やしたマスコミがいろいろと嗅ぎまわっているのが現在の状況。そして、私の所属する出版社でも同業他社と同じように情報をかき集め――この、当事者である青年との取材の約束を取り付けたのだ。
「で、お姉さんはどこまで知ってるの?」
お姉さん、と言われて私は少しだけ面食らった。おばさんという歳ではないが、こうも気軽に言われると照れが出ないこともない。……こほん、まあとにかく。
先輩たちが集めてきた情報をまとめたページを開いて、読み上げる。
「アポロン区にあるキントス山にて新人ヒーローの訓練中に人造神器が暴走。対処にあたったアポロンVI含め、複数のヒーローが重傷を負った、と……」
「へえ、そんな噂になってるんだ」
「英雄庁としては、人造神器で起きた事故を報道したくないから、事件の詳細を伏せている」
青年はそこまで聞いて、プッと露骨に噴き出した。そのまま笑い声をあげる。笑われて、私はムッとしてしまった。これだけの情報を集めるのに、寝る間も惜しんで走り回ってきたのだ、それを笑われて良い気はしない。
「はー、ごめんごめん、事件の詳細はさあ、そんなんじゃないんだよ」
そう言って青年は店員が持ってきたコーヒーとホットドッグのセットを受け取り、もったいぶるようにコーヒーを口に運んだ。
「それ、たぶん英雄庁かアポロンフォースが流したカバーストーリーだね」
カバーストーリー。それは真実を覆い隠すために作られた偽りの物語。様々な事情からそれらを英雄庁が用いてきたのは、マスコミ業界では公然の秘密だ。つまり。
つまり、真実は、別にある。
私は思わずペンを握る手に力が入った。相変わらず、青年はどこかにやついた雰囲気のまま私を見ている。
「……では、その真実について本日は語って頂けると」
「まあそうなるね。とりあえず……最初から?」
こてり、と首を傾げる青年はより幼く見えた。やはり未成年なのだろうか?
何はともあれ、私がそれでお願いします、と頷けば、青年もゆるく頷いて語り始めた。
◆◆◆
最初から、って言われても結構難しいけどなー、とりあえず俺の自己紹介でいい?
まず、俺はアポロン神の神話還り。と言っても、アポロンVIみたいに戦闘能力に秀でてる方じゃなくて、医療系の力が強く出てるんだよね。例えば薬なしで患者を麻酔投与時と同じ状態にできたり、専用カメラがなくても患部がよーく見えて縫合が簡単にできたり。
あ、あくまでも例えばって話な? ヒーローの能力詳細は機密だからさぁ。まあ、俺が医療部隊の方に所属してるって思ってもらえれば。
(実際、神話還りへの差別を防ぐため、そして、ヒーローの能力を公開して弱点を広めないため。よほどのことがない限り、能力は秘匿されている。私は補足としてノートにメモをしておいた)
うわあ真面目にメモするなあ……まあいいや、その認識であってるよ。だから俺がこの後の話で口を滑らせても、あんまり詳細を書かないでよね。その辺、記者の匙加減なんでしょ? 任せるわ~。
俺はねー、力に目覚めたのは学生の頃。成績は平均よりちょい下ぐらいで、飛び抜けて運動ができるわけでもないし、頭もどっちかっつったら悪い方だし。で、将来どうしようかなーって思ってた時に、ちょうど神話還りってことがわかってさ。しかも医療系が強いなら、後方支援だけでいいって言うじゃん? 運動神経悪いのに前線とか絶対行きたくないし。なんか直々にアポロンVIから稽古つけられるとか怖いもん。
学校の先生もどうせ行く当てがないなら受けてみたらどうだって勧めてくれたし、じゃ、行ってみるかーって。そしたら医療部隊の方がちょっと人手不足って言うから、素行調査と面接でするっと合格しちゃった。
(……これでヒーローになるとは。人それぞれ、とは思えども、私は思わず顔をしかめてしまった。いや、これは私個人の思想であるから、記事に反映はしない。今回の件にも関係はないものだから)
んで、同期は3人。俺と同じ医療部隊配属な。他の戦闘部隊の方はもっと多かったかな? まあ、そんな感じ。
え? 同期について? ああ、どうせこの後にもちょこちょこ話に出てくるだろうし。
えーっとな、女が一人、どっかの金持ちの家のお嬢様ですんげー高飛車。自分のことお姫様だと思い込んでそうな脳みそ空っぽなバカ姫。あと、男が二人で正義感に溢れるルールにうるさいクソマジメといつもぼそぼそ喋ってて何言ってるかわかんねー陰キャのヒョロガリ。
はーこんなのが同期なんてほんとついてねえよなあ、そう思わねえ?
(それに関して、私は何も言わず小さくため息だけをついた。こんな同期像を語られても、記事に書けるわけもない!)
◆◆◆
話が一つ区切りをつけたからか、目の前の青年はホットドッグをパクついている。その間に私はメモをまとめたが……ため息が止まらない。出会った時から嫌な予感はしていたが、この取材はかなりの困難を極めそうだ。
ちら、とホットドッグを頬張る青年を見る。アポロンフォースのヒーローが取材に対応してくれるというのだから、もっと理路整然とした話し方で、誠実に対応してくれるのかと思っていた。……編集長は、今日の取材相手がこのいい加減で口の悪い青年だと知っていたのだろうか? まさか取材相手がしっかりした人間だろうから経験の少ない私でも大丈夫だろうと楽観視して送り出したのではないだろうか?
「なあホットドッグおかわりしてもいい? 取材費で出してくれるんでしょ、今日の飲食代」
「……どうぞ」
「さんきゅー。あ、大丈夫、賄賂にならない程度の金額に抑えておくからさあ」
編集長が役に立ったのは取材費の上限を撤廃したことだけではないか、と私は思い始めた。あの人は日中でも自分のデスクで居眠りをするかパソコンで動画を見るかタバコを吸うかしかしてないというのに……。
そこまで考えて私は頭を振った。集中力が早くも切れている。青年がホットドッグを頼むと同時に、自分もコーヒーを注文した。青年が「コーヒーの飲みすぎは胃に悪いよ」と注意してくる。さすが医療系ヒーロー、なのだろうか。
「こほん。それで、同期がこの後も出てくる、とは?」
私の問いかけに、青年は残っていたコーヒーを口に運び、焦らすようにゆっくりと飲んだ。それから、わざとらしく声を潜めてにんまりと笑う。
「だってそりゃ、この事件はキントス山での新人研修合宿中に起きたからさ」
「それはカバーストーリーだったのでは……?」
「嘘の中に何割かの真実を含ませることで真実味を持たせる。出回っている噂の舞台も登場人物も正しい」
青年はすうっと目を細めた。さきほどまでの砕けた口調とは打って変わった深い声に、演劇でも見ているかのような気分になる。
「間違っているのは、その事件の内容だけだ」
私は、ほう、と思わず声を漏らした。
◆◆◆
まあまあ、そう急くなって。最初から順番に、って話だっただろ。
例の事件は新人研修の合宿中に起きた。場所はキントス山の中腹ぐらいにあるキャンプ場。あそこ、アポロンフォースの新人研修合宿に毎年使われてるんだよ。そう、そうそう、アポロンフォース以外も企業とか学校も合宿で使ってるよな、あそこ。遊びで行くにはちょっと山登りが必要だけど、そこまでガチらなくてもいい、みたいな。ちょうどいいんだろ、野外活動の経験積ませるのに。
新人ヒーローと、あとは一つ上の先輩たちと、引率役の中堅ヒーローで行くんだ。部門関係なく、全員参加で。まあただの訓練っつーより、ちょっとオリエンテーションっていうか、お遊びな面もあるよ。日々の辛い訓練を耐えた新人へのご褒美みたいな側面もあるんだってさ。三泊四日だけどキャンプファイヤーやったり、その辺の川で泳いだり釣りしたり。自由時間もそこそこ多いからさ~。
まあそんな感じで、みんなでウキウキワイワイしながらキャンプ場までテント背負って登山したわけ。
最初は、『そいつ』がいるなんて誰も知らなかった。
(『そいつ』という単語に私は引っ掛かった。青年はもったいぶったように笑みを深くする。どうやら本当に最初から最後まで順序だてて説明してくれるようで、ここで種明かしをするつもりはないようだ。理路整然と説明して欲しいとは思ったが、そういうことではない……。ここで『そいつ』について聞きたい私の葛藤を見透かしたかのように青年は私に話を遮られる前に、と口を開いてしまった。仕方ない、我慢しよう)
例年通りにトレーニングと言う名の軽いお遊びみたいなレクリエーションやって、若手同士で意見交換と言う名の愚痴大会やって。初日はそのまま晩飯だよな、もちろんカレーだよカレー。ぎゃあぎゃあ言いながら料理して石積んで煮込んで、持ってきたパンも焼いて。どうだよ、普通に楽しそうなキャンプだろ?
問題が発生したのは、二日目の昼だった。
飯は基本的に持ち込みだけど、ある程度はサバイバル訓練って名目で山の中で食べられる植物を採取したり、小動物を狩ったりもするんだ。俺は同期のやつら……例のバカ姫とクソマジメとヒョロガリの三人と、あとは医療部隊としての先輩ヒーローと引率役のもっと上のベテランの人と、そんなメンバーでグループ組んで食べられそうなキノコ狩りに出てた。
そしたらさ、引率役のヒーローの無線機が鳴って、なんか怖い顔してやり取りしてた。待てって言われたから俺たちはそこで止まって何があったんだろうって、ベテランの人の通信が終わるの待ってた。
そりゃあもう、俺はそこで感じたよ、なんか只事じゃねえ大事件が起きてるってな。それまでの医療現場あるあるネタを言ってた先輩も、口を閉ざして緊張した雰囲気だった。ちなみに同期のヒョロガリは完全にビビってたよ、あいつほんと肝っ玉ちっちぇのな。バカ姫の方がよっぽど堂々としてらぁ。
(必死に事件の時系列をメモしていたが、同期についての話はそっと私の心の中だけに閉まっておくことにした。記事に書くとすれば、その、同期のバ……こほん、お姫様が女性らしからぬ強靭なハートの持ち主であるということだけだ。ヒーローとしてきっと非常に頼りになるだろう)
んで、通信が終わったら引率の人が「すぐにベースキャンプに戻るぞ」って言って。これまでお喋りしながら歩いていたのと打って変わって、走って今来た道を戻り始めた。ついでに、先輩ヒーローには「後ろを警戒してくれ」ってわざわざ言って。俺たち、何の武器ももたない戦闘能力皆無の新人ヒーローは前後を頼りになる先輩ヒーローに挟まれて、ヒィヒィ言いながら走って帰った。
ベースキャンプに戻った時には、他の班もだいたい戻ってきてて。あと2,3班がまだ山の中にいる、って感じだったかな? 山っつーか雑木林っつーか、まあ、晩飯のために張り切って奥の方まで行ってたらしい。そりゃ戦闘系ヒーローの中でも結構優秀なメンバーが揃ってた班らしいからなあ。自信あったんだろ。俺たちはのんびり安全にキノコ狩りだったんだよ。
なんか引率のヒーロー達は頭寄せ集めて険しい顔して話してるし。先輩ヒーローもそわそわしながら先輩同士で集まってなんか話してた。先輩つっても1年しか違わないからな、俺が言えることじゃねえけど、やっぱどっか引率のベテラン組に比べると先輩たちは不安そうにしてたなあ。案外、事情をわかってなかった俺らの方がぽけーっとしてたかも。
とりあえず、その辺にいた他の班のやつに聞いてみたんだよ。何があったんだ? って。
そしたら何て言ったと思う?
そいつ、めっちゃ微妙な顔しながら「よくわかんないけど、化け物みたいな大蛇が出たらしいよ」って言ったんだよ。
そう、合宿が中止になるんじゃないか、ベテランヒーロー達が焦っちまうような、そんなクッソデッケエ大蛇がいた、ってわけ。