事故の後処理もある程度、片付き。副官の強い勧めで有休をとったエウブレナは一人、クリュメノスの墓を訪れていた。持ってきた花を供えて、墓の前でしゃがみこんだ。膝の上で組んだ腕に、顔を乗せる。
「パパ、知ってると思うけどね、私、ハデスIVになったの」
そこから、エウブレナはアレイシアやネーレイスのこと、いつも騒がしいヴァンガードのこと、厳しいけど頼りになる副官や訓練に付き合ってくれるハデスフォースのメンバーのこと、ゴッドナンバーズの先輩として口うるさい時もあるけれども面倒見の良いアポロンVIやアフロディテIXのこと。様々な事を、クリュメノスの墓に向かって話しかけた。
「それでね、この前ちょっと大変なことがあって……死者は出なくても、怪我人とかたくさん出ちゃって。あ、怪我人はね、もうほとんどみんな治ってるの。意識不明だった人も、今は元気に新しい門の……設備の、図面を引いてたりしてね。あの時、本当に大変だったなあ……。でも、あの時から、ちょっと周りの人との接し方、って言うのかな、そういうのも変わってきて」
エウブレナはふわりと柔らかい笑みを浮かべた。
「だんだん、ハデスIVとして認められてきたのかなーって気がする。うふふ、まだまだ、って自分では思ってるけど……パパの前だから、ちょっと自慢しちゃった」
しばらく、エウブレナは言葉を発しなかった。穏やかな風が、エウブレナの持ってきた綺麗な花を揺らす。それをぼんやりと見ていたエウブレナだったが、すくり、と立ち上がった。
「パパと一緒にいられないのは寂しい。だけど、私にはやることがある。パパが、ディオニソスXIIやアポロンVIと一緒に活躍してきたように……私も、アレス零と、ポセイドンIIと頑張っていくわ」
その後に、ぽつりと「ネーレイスはまだ正式に決まったわけじゃないけど」と恥ずかしそうに付け加える。
「パパ。今まで見守ってくれてありがとう。……また、お休みが取れたら遊びにくるわ」
エウブレナが立ち去ろうとした瞬間――
「これからも見守っているよ、頑張れ、エウブレナ」
――声が、エウブレナの耳に届いた。
え、と思い、振り返る。墓の前に一瞬だけ、クリュメノスが見えた気がして……強い風が吹き、思わず目を瞑ったエウブレナがもう一度開いた時、そこにはやはり墓があるだけだった。
込み上げてくる涙を、鼻をすすって押しとどめたエウブレナは、墓を後にする。午後からは、アレイシアとパトロールの任務があるのだ。
これから、やることは、まだまだたくさんある。