プロメテウス・ザ・リベンジャー - 6/8

すっかり太陽も沈み、星が瞬く夜の八時。アポロンフォース前に整列した作戦の主要メンバーはアポロンVIの訓示に敬礼を返して、全員持ち場へと走り去った。
結局、相談の上で夜間戦闘を行うことになったのだ。やはり、長時間の拘束は市民に影響が出るだろうという懸念が一番の理由を占めた。わざわざ、日を跨いで敵に時間を当てる必要もない。

『総員、現時刻より人造神器および神器の無制限使用を許可する。……好きに暴れろ』

アポロンVIの言葉に次々に了解の声が響く。そして、アポロンフォースが構築したオリジナルのネットワークを通じて、次々と人造神器の起動が記録されていった。そのログを眺めながら、アイスキュロスはひっそりと息をついた。

「やれやれ……いきなりこんなデカブツを動かそうだなんて、無理があるよぉ」

結局、ネットワーク構築はギリギリまで粘ったものの、最終的にはデメテルフォースのヒーロー一人と、デメテルの神話還りである少女の能力を必要とすることになった。アイスキュロスとしては、マンパワーを介在させるのは避けたかったが、資材も時間も足りず、妥協することになったのだ。

「お嬢さん、調子はどうだい?」
「……大丈夫よ、これぐらい、どうってことないわ」

つん、と勝気な発言をする少女に、アイスキュロスは少しだけネルヴァのことを重ねて目尻にしわを寄せた。

「無理になったらすぐに言ってよねえ?早め早めの対応が必要だからね、キミが倒れられるとネットワークは一気に崩壊しちゃうんだから」
「わかってるわ」

端末に神力を注いで、流れる情報量を操作してネットワークがオーバーヒートしないように調整する。それだけの仕事だが、その肩には作戦に参加する多くのヒーローの命がかかっていた。その中には、彼女の双子の妹も含まれている。お姉ちゃんが参加するなら、と言って本人も前線への配属を希望したのだ。最近、使えるようになったばかりの人造神器を持って、今はどこかの片隅で弓矢を準備しているのだろう。

「……私だって、負けていられないもの。まさか、こんな形で一緒にヒーローになるとは思わなかったけど」

その少女の呟きはアイスキュロスの耳にだけ届いていた。ただ、その負けん気の強さと責任感を好ましく思いながら、アイスキュロスはネットワークの状態モニタへと視線を戻した。

「VTOL、発進します!」
『おう、気を付けて行ってこい!』

ゾエルの声を耳にしながら、エウブレナはVTOLを離陸させた。技術者たちは夜間飛行をする、と聞いた途端にVTOLに迷彩を施し、なるべく見えないようにしてくれていた。その心遣いをありがたく思いつつ、目標目掛けてエウブレナは操縦桿を操る。
狭いコクピットにアレイシアとネーレイスもぎゅうぎゅうに詰まりながら一緒に乗ってくれた。そして、そのさらに後ろには大量の爆薬。一応、紙面と簡単なCGモデルでの説明は受けたが、リハーサルなしの出たとこ勝負だ。

「うわっ、何か飛んできた!」
「エウブレナ!攻撃来ましたわよ!」

アレイシアとネーレイスの声に、エウブレナはコックピットモニタ上に表示された敵からの攻撃を回避するようにVTOLを操る。いく筋もの光の跡が、VTOLのそばを掠めていった。そして、黒い夜空を切り裂く光の糸は敵の攻撃だけではない。

「うっひゃあ!これがアポロンフォースの力!」

VTOLの背後からは、敵の攻撃を阻止するためにアポロンフォースから大量の光の矢がばらまかれている。その指揮を執っているのはゾエルだ。
時にVTOLスレスレを通りながら、いくつもの光の矢が敵の攻撃(向こうも同じような神力を凝縮した何か、だった!)を弾き、ぶつかり合って光を散らして夜空に消えていく。まるで季節外れの花火大会の様だった。VTOLの中までは音が僅かにしか聞こえてこないが、今頃、オリュンポリス全体に酷い爆音が響き渡っている事だろう。
アレイシアがぽつり、綺麗だ、と呟いた。

「二人とも、そろそろ準備を!」
「了解!」
「さすがに緊張してきましたわ……!」

爆発する瞬間に最も責任が大きくなるネーレイスが、ぶるりと身体を震わせた。それは緊張と恐怖によるものでもあり、武者振るいでもあった。まだ、ポセイドンIIの名を継ぐことはできないが、二人のゴッドナンバーズを支えるために、今、自分はここにいる。愛用の人造神器を握りしめ、ネーレイスはエウブレナの合図を待つ。

「見えた!あそこね……!」

VTOL上のモニタに表示されたターゲットに向けて機体を旋回させると、エウブレナは自動操縦モードに切り替えた。そして、後ろの二人にも合図をすると安全ベルトを外して神器を起動する。

「いくわよ、三、二、一……飛んで!」

エウブレナがコックピットの上窓を解放すると同時に空気圧で三人の体が自然と放り出された。その状態でもそれぞれが姿勢を制御してVTOLの行く末を視界に収める。
VTOLは目標のシールドに吸い込まれるように追突し、それから激しい光と熱を発した。エウブレナの目には、それが、スローモーションのように映った。光の中に消えていく、VTOLの機体。

「二人とも、わたくしの後ろに!」

ネーレイスが人造神器を操って水の壁を作る。アレイシアとエウブレナは寄り添うようにしてネーレイスの後ろに身を潜めた。すぐに、水の壁があったとしてもわかるほどの熱量、そして、轟音が体を震わせる。

「くっ……!」

予想以上の爆風に、ネーレイスは必死に水の壁を維持し続けた。空中で、しかも後ろに二人も抱えた状態で、これだけの爆発から身を守るのは容易ではない。しかし、神器にも選ばれた、そして、これまでたゆまぬ努力をしてきた、というプライドがネーレイスの心を支えた。

「……ッ!」
「ネーさん!」
「アレイシア!ネーレイスは私が!」

収まった爆風の向こうに、割れたシールドが見えた。エウブレナに言われて、アレイシアは力を失って体を投げ出したネーレイスを飛び越えて、英雄庁屋上へと飛び込む。間髪入れず、目の前にある光を放つ装置へと槍の一撃を叩きこんだ。

「っしゃあああああああ!!!!!」

アレイシアの掛け声と共に、VTOLの爆風で脆くも崩れかけていた英雄庁の屋上が本格的に崩壊を始める。
ネーレイスを抱えたエウブレナもシールド内部に降り立った。しかし。

「!?あの機械、自己修復を!?」
「もう一発ぅぅぅうううう!!!!」

足場の悪い中、アレイシアがもう一度、槍を構えて装置へと攻撃を仕掛けた。

「やらせませんッ!」

その攻撃は、何者かの手によって弾かれる。そして、そのまま無防備になったアレイシアに剣戟が迫った。

「危ない!」

咄嗟に、エウブレナが冥府の鎖を使ってアレイシアの体を無理に引っ張った。アレイシアがいた場所に、剣が打ち付けられる。

「助かったぞエウさん!」
「良かったわ……」

体勢を立て直したアレイシアとエウブレナの前、煙の中から一人の女性が姿を現した。右手に持ったすらりとした剣からは、黒いオーラが立ち昇っている。

「ボス、装置の破壊には失敗。ネーレイスは負傷、敵が一人、女性で、剣を持っている」
『!!チッ、応援を行かせる、それまで何とか持たせろ!』
「わかった!」

とは言え、エウブレナは頭上を見上げて歯噛みした。VTOLを犠牲にして割り砕いたシールドは、早くもその穴を狭めている。応援は、望めないだろう。

「あなたは、プロメテウスの神話還り……?」
「そうよ。ここの守護を任されている。よくもここまで来たと褒めるところだけれど……あなた達には、ここで死んでもらうわ」

ぴっ、と剣を振り、その切っ先をアレイシアに向ける。「特に、アレス零、あなたにはね」と憎しみの炎を目に燃やして女は言った。
アレイシアはその言葉を冷静に受け止めつつ、首をひねる。面識もないし、睨まれる覚えもない。確かに自分とプロメテウスはアレスと言う存在を通して、何かしら因縁はあるのだろうけど。

「アレイシア、あの人の相手は私がやるわ。もう一度、装置に攻撃をできるかしら?」
「うん、やってみる」

二人の会話を聞いていた敵の女が、激昂してアレイシアに襲い掛かる

「そう簡単に、やらせるわけがないでしょう!」
「それはこっちのセリフよ!」

エウブレナが鎖を使って女の剣を絡めとる、が、一振りでその鎖を消し飛ばした。

「強い……!」

プロメトリックが言っていた、「未調整の神の破片を摂取した」というこが頭をよぎる。調整済みの神話還りとは格が違う、ということだろうか。しかし、エウブレナは怯むことなく神器を持ち直して、相手の前で仁王立ちする。
アレイシアはまだ力を溜めている。すでに二発、大技を繰り出しているアレイシアは自分の中の神力を引き摺り出すことに集中してもらわなければならない。
じり、と敵の女とエウブレナは瓦礫の中で相対した。片方が僅かでも動けば、もう片方も。にらみ合いが続く中、先に動いたのは敵の女だった。

「ッ!」
「エウさん!」

目を離さなかったはずなのに、気がついたら目の前にいた。かろうじて神器で剣を受け止めることに成功したものの、エウブレナは力で押し負けて床に転がった。すぐに体勢を立て直す、が、エウブレナを守るためにアレイシアが敵の相手をしていた。

「くっ、これでは装置が破壊できない……ッ!」
「こんのぉ!大人しくしてくれんかい!」

アレイシアの攻撃を回避しながら、敵の女は横たわるネーレイスにも時折、攻撃を仕掛ける。相手の弱みに付け込む、実にいやらしい攻撃だった。
エウブレナの妨害も軽くいなし、ついにアレイシアの腹部に女の蹴りが直撃した。重い衝撃に、アレイシアがたまらず吹き飛ばされ、瓦礫の山に突っ込んだ。

「アレイシア!」

ネーレイスを守りつつ、アレイシアに声をかけた。すぐにアレイシアからは返事があり、唾を吐き捨てながらも槍を支えに立ち上がる姿を視界の端に収め、エウブレナは少しだけ安堵した。しかし、危機的状況なのは変わらない。予想以上に、敵が強すぎる。

『苦戦しているようだね』
「……プロメトリック!?」

ノイズ交じりの機械音声が、アレイシア達の通信機に届く。その名前を聞いた敵の女は、驚いたように動きを止めた。

「プロメトリック、ですって……!?」
「すきありぃ!!」

もちろん、そのようなチャンスをアレイシアが見逃すはずもなく、横っ腹に槍の柄を叩きこまれて女は吹き飛ばされた。

「プロメトリックさん!どこにいるんじゃ!」
『私は戦う力は持っていない……アレイシア、いや、アレス零、今から送るのが、私ができる、最後の応援だ……』

何を、とエウブレナが問うより早く、屋上にいる四人の目の前に輝かしい程の白い光が満ち溢れた。

「なんだこれは!?」
「うおおお何も見えんんんん!」

敵の女も、アレイシアも、腕で目を覆って眩しさから目を守る。エウブレナもネーレイスに覆いかぶさりながら、背中越しに光が収まるのを待った。プロメトリックが言うのだから、これは自分たちにとって良いものなのだろう、とわずかに期待を乗せて。そして、その期待は見事に昇華される。

「……にゃ?」
「ウィズ先輩!!魔法使いさん!!!」

光が収まった時、そこに立っていたのは黒猫を連れた、ローブ姿の魔法使いだった。目をぱちぱち、瞬かせているその姿は、まだ状況を把握できていないようだ。

「新手か!」
「っ!させないっ!」

魔法使いに襲い掛かる敵の女を、エウブレナが冥府より呼び出した三審官を向かわせて足止めする。
魔法使いはよくわからないけど、と呟いて、懐からいつものカードを取り出し、魔力を込めた。

「魔法使いさん!アレイシアに力を!」
「うおおおおお!!!百人力じゃああああああ!!!!」

アレイシアが掲げた槍に、魔法使いが魔法をぶつける。

「くぅぅぅ!!」
「あなたの相手は私よ!」
「……いいえ、私たち、ですわ!」

アレイシアと魔法使いの邪魔をしようとする敵の女に、エウブレナとネーレイスの合体攻撃が押しかかる。エウブレナは、後ろを振り返らずともネーレイスの攻撃に自らの攻撃を重ね合わせて、威力を倍増させた。

「フルパワーのフルパワーじゃい!!吹き飛べぇぇぇぇえええええ!!!!」

赤熱を超え、白く光り輝く槍を構えたアレイシアがその体ごとシールド発生装置に突撃していく。エウブレナはその一撃に祈りをこめ、ネーレイスは眩しそうに目を細めた。

「やめろおおおおお!!!!」

女の叫びもむなしく。アレイシアの一撃は、今度こそ跡形もなく装置を吹き飛ばした。その瞬間、夜空を隠していた淡い光の壁が音もなくかき消えていく。

「やりましたわ!」

ネーレイスが喜びの声を上げ、エウブレナも良かった、と誰にも聞こえないほどの小さな声で呟いた。装置を吹き飛ばした余力のままに、瓦礫の山に突っ込んだアレイシアが倒れ込んだまま、槍を空に掲げる。

「……ボス、こちらハデスIV!作戦完了しました!」
『よくやった!こっちでもシールドの解除を確認した!!』

そんな、と力なく呟く敵の女は呆然と座り込んでいた。役目を果たせなかったことで、心が折れたのだろうか。もちろん、そのような姿でもエウブレナは容赦なく冥府の鎖を使って捕縛する。

「で、これはどういう状況なのかにゃ?なんだかとんでもないところに呼ばれたみたいにゃ」
「ナイスタイミング!カッコいいヒーローじゃな!」

アレイシアが槍を支えにしながら歩いてきて、魔法使いに握手を求める。魔法使いは全く状況がわからなかったが、空気を読むことには長けていたのでその手を取って握り返した。
そのうち、ゾエルが寄越した応援のメンバーがたどり着き、エウブレナは負傷したネーレイスと捕縛した敵の女を引き渡した。

「それにしても、異常な強さだったわ……」
「あっ……エウさん、これ、もしかして……」

女の手から離れて転がっていた剣を突いていたアレイシアが、何かに気づいてエウブレナを呼んだ。その剣の、柄の部分からむき出しになった中身を見てエウブレナは苦々しい顔をした。すぐに、ゾエルへと通信を繋ぐ。

「ボス、敵だけど、漆黒神器を使っているみたい……」
『なんだと!?……ただでさえ、ベースがその辺の神話還りよりも数段上っつーのに、さらに漆黒神器まで使ってやがるとは……』
「……屋上からの侵攻はどうしますか?これだと、その、一般ヒーローでは荷が重いかもしれません……」

他の人に聞こえないように、エウブレナは口元を手で覆って指示を仰ぐ。

『……ウィズと魔法使いもいるんだろ?』
「はい、突然現れました。プロメトリックが応援を呼んだ、と言ってましたが」
『そうか。……お前らと魔法使いで先導しろ、応援に向かわせたヒーロー達にはゴッドナンバーズのバックアップに専念するように指示を出す』
「了解」

エウブレナやアレイシアがそれぞれ、ハデスIV、アレス零としてバックアップを指示するより、作戦指揮官であるゾエルから言ってもらった方が角が立たなくて済む。
ゴッドナンバーズとしてまだまだね、と少しだけエウブレナは意気消沈したが、すぐにその考えを振り払って顔を上げた。これから、どんどん学んでどんどん力を吸収していけば良い、焦ることはない。深呼吸をして気持ちを落ち着けると、ゾエルから突入の指示を待った。

シールドが解除されると共に、待機していたメンバーが一斉に走り出して各シティへの状況確認に向かった。それらを見届けてから、アポロンVIは地下侵攻班へ突入の指示を出す。ヴァッカリオからはいつもと変わらぬ声音で「了解」と短く応答が返ってきた。

「よし、じゃあ行くとしますかね!」

ヴァッカリオの号令に従い、地下で息を潜めて待っていた突入チームが各々、動き出す。ヴァッカリオ自身は「元ヒーローだったが、ケガをしたため引退して後輩の育成に尽力している」とメンバーに説明してある。故に、最後尾で人造神器を使うヒーローたちの背中を眺めるだけだ。
先頭で露払いをするのは、ネルヴァ。渡された人造神器はもっとも威力が低い、新人ヒーローが扱うものだった。それでも、ネルヴァは先陣を切らせてほしい、とヴァッカリオに頼み込んだのだ。それは罪の贖いか?とヴァッカリオが問えば、ネルヴァは首を振って否定する。「最も強いヒーローが最前線に立つのが当然だろう」と、事も無げに言ったのだった。

「丸くなってんだかなってないんだか、わかんないねえ」
「?何の話ですか?」
「いや、こっちの話」

ヴァッカリオの護衛も兼ねて、そばを歩いていた参謀役のアポロンフォースのヒーローが不思議そうにその呟きを拾ったが、ヴァッカリオは手を振って何でもない、と話を打ち切った。
地下班の役目は、主に英雄庁内の捜索だ。あれだけ屋上で派手にやっていれば、犯人グループの戦力は向こうに大きく割かれるだろう、との考えだ。その間に、一階から順に内部を捜索して、職員が残っていれば保護する。

「貴様ら!どこから!?」

通路から一階玄関ホールに出たところで、玄関口を見張っていたと思わしき男が驚いたように振り返った。そして、ネルヴァの人造神器を認知すると、男も人造神器を起動する。

「気をつけろ!さっき報告にあったが、上の方で犯人が使っていたのは漆黒神器だったらしい!見た目以上の破壊力だ!」

ヴァッカリオの指示に、先頭グループが気を引き締める。
男が巨大な斧を振りかざすと同時に、ネルヴァが間合いに飛び込んで切り結んだ。アテナフォースが用意した人造神器を、ネルヴァは依然と変わらぬように優雅に扱う。

「……ここは、私が引き受ける。作戦の遂行を」
「!このアマ……っ!」

冷静沈着なネルヴァと反対に、男は馬鹿にされたと怒り狂って顔を真っ赤に染め上げた。単調になった攻撃では、ネルヴァを捉えることすらできない。
ヴァッカリオは何人かをその場に残して、残りのメンバーを連れて二階へと上がっていった。やすやすと侵入を許してしまった男は、斧を怒りに任せて床に叩きつける。その衝撃で、床面は砕け散り、いくつものひび割れがフロア中に走った。

「そのような、感情だけに押し流された攻撃で私が倒せるなどと思わないことだ」

ネルヴァの言葉に、犯人グループの男よりも早く、背後に控えていたアテナフォースのメンバーが息を飲んだ。裏切られた、という思いもあれど、それよりも、アテナVIIの抱える苦しみを誰も知らず、表面上でしか支えることができなかった後悔。

「アテナVII様、お変わりないようで」
「……私はもうアテナVIIではない……ただの、ネルヴァです」
「私たちの中では、戦いに赴く限り、あなたはアテナVIIであり我々の誇りです」

男の斧を、アテナフォースの戦闘員二人が盾で受け止める。その連携を懐かしく思いながら、ネルヴァは動きを止めた男に軽やかに近づくとその首に人造神器の剣筋をぴたり、と当てた。

「……投降を。降伏するなら、命までは取らない」

以前だったら迷うことなく切り裂いていたその刃は、男の首筋に薄く血の跡をつけるだけで、大人しくしていた。