プロメテウス・ザ・リベンジャー - 5/8

VTOL格納庫にて、ハルディスは難しい顔をしながらもらった数値と今のVTOLの性能を比較していた。

「おハルさん、これ、差し入れ」
「ん~」

生返事をしてアレイシアから差し入れのお菓子を受け取ると、無意識に口に運んだ。
焼いたマシュマロとチョコレートをクラッカーで挟んだスモアだ。ネーレイスが甘いものが良いでしょう、と言ってエウブレナと一緒に作って、ハルディス同様に頭をひねる作業員たちに配り歩いている。アレイシアも一緒になって配りつつ、自分用に確保しておいたスモアを口に入れた。広がる甘さに、思わず頬っぺたを抑える。

「うーん、うーーーん、ううううううんんんんん」
「おハルさん、大丈夫?なんか人間とは思えない声だよ」
「え?キモい?キモいか?……ふひ……」

アレイシアに指摘されても、ハルディスはいつもの挙動不審な受け答えではなく、力なく頭を垂れるだけだった。余程煮詰まっているようだ。せっかく口に入れたスモアの味もわかってなさそう。
同じように、呻き声をあげているゾンビ集団のようなアポロンフォースの技術者たちと、ハルディスはぼそぼそごにょごにょと相談を繰り返している。

「あのハルディスですら頭を悩ませるだなんて、相当難しい問題なのですね」
「そうみたい。計算上、今のVTOLだけでは質量が足りなくて、爆薬を積み込むようにするのだとか……そうなると、今度は運転する私たちの安全性が問題になるし、どこに爆薬を乗せれば一番効率が良いか、そういった点が難しいみたいよ」

スモアを配り終えたエウブレナが説明してくれた。アレイシアはそうか!とすっ……と聞き流して格納庫の隅で筋トレを始めた。適材適所が重要、ディオニソスXIIもそう言っていた、たぶん。難しい話はエウさんに任せて、自分は来るべきに備えて神力を練って練って、練りまくるのだ。
その様子をエウブレナは何とも言えない気持ちで見ていたが、ネーレイスに向き直って真剣な顔をした。

「ねえ、ネーレイス、貴女は人造神器しか使わないのでしょう?私たちに付き合う必要はないのよ、危険だわ」

VTOLを使った特攻作戦。運転は慣れているエウブレナが担当し、アレイシアは例のフィールド発生装置の破壊に専念する。そこに、ネーレーイスも補助要員として参加したい、と申し出たのだ。
VTOLをぶつけるだけならとにかく、爆薬を積み込むと言った話になってくると危険性も段違いになる。ただ乗り捨てれば良いだけではなく、爆発に巻き込まれないようにしなければならないのだ。

「まあ、エウブレナったら。私とて、ポセイドンIIの候補ですのよ?それに、爆風から身を守るには私のアケローンが最適ではなくって?」

論破できまして?とネーレイスはいつもの様に続けて、そして胸を張った。
実際、ネーレイスの言うことは正しい。ガードという点からすると、攻撃一辺倒のアレイシアより、それから拘束や妨害が得意なエウブレナより、誰よりもネーレイスの能力は優れている。ネーレイスがついてきてくれれば、心強いことに間違いはない。

「でも……」
「エウさん、ネーさんのこともっと信頼してあげてもいいんじゃない?」
「アレイシア……」

いつの間にか、二人のそばに寄ってきていたアレイシアが口を挟んだ。

「ネーさんだって神器に選ばれたヒーローなんだし、ずっと一緒に訓練してきたじゃないか!ネーさんの実力は十分だと思うな!」
「フフフ、私の実力を見抜くとはさすがアレス零ね!」

アレイシアとネーレイスがいえーい、とハイタッチをする。その緊張感のなさにエウブレナは少しだけ眉を顰めたが……すぐに顔を緩めた。

「そうね。ネーレイス、ごめんなさい。貴女の実力を信じられなくて」
「そそそそ、そこまで言わなくても良いのですよ!?エウブレニャがわたくしのことを心配してくれているだけというのはわかっておりますもにょ!」
「噛み噛みだあ」

せっかく、いい話に収まりそうになったところでアレイシアが気の抜けるツッコミをした。それにつられて、エウブレナはくすりと笑いを零し、ネーレイスは顔を真っ赤にしてぷい、と横を向いた。

「あら?」
「あれ、ボスと……どっかで見たことあるオジサン達だ」
「ヘパイストスフォースの技術チームじゃないかしら?ほら、この前の作戦の時にいろいろ整備してくれた……」

エウブレナに言われて、ネーレイスとアレイシアは自分の記憶をひっくり返し、ああ!と手を打った。しばらく前に、何とも大掛かりな作戦に駆り出されたことがあって、その時に何回か見た顔だった。

「ハルディス!頼もしい援軍を連れて来たぞ!」
「うえ……あっ!あの時の!」
「よう、久しぶりだなお嬢ちゃん。また何か困ってんだって?」

ハルディスの頭を無遠慮にガシガシと撫でて、それからすぐにアポロンフォースの作業員とハルディスの輪の中に溶け込んでいった。それを見届けてから、ゾエルがアレイシア達のところにやってくる。

「ヘパイストスフォースとアテナフォースと連絡がついたんだとさ。おかげで、こっちもヴァッカもてんやわんやだ」
「それは良かったですね!」
「留守番中のコリーヌさんは大丈夫ですの?」
「そっちはまだ連絡ついてねェ。ま、あいつのことだからそんなに心配するこたぁねェだろ。なんだかんだ言っても立派な神話還りなんだからよ」

ゾエルはそう言って快活に笑った。
アポロンシティに閉じ込められた時、真っ先にコリーヌのことを心配したのはゾエルだ。一人でヴァンガードベースに残してきた彼女のことを悔いているようだったが、それから状況も変わり、今はとりあえずコリーヌのことを信じて置いておくことにしたらしい。
見捨てたわけではなく、そこまで差し迫った危険がないのであれば、彼女なら一人で何とかできるだろう、との信頼の証だ。ああ見えて、コリーヌは要領がいいのだ、エウブレナやネーレイスよりもよっぽど。

「テロさんなら大丈夫だと思うな!いざとなったら、ハデスフォースもいるんだし!」
「そのとおりだぜ、アレイシア。こっちはこっちでやるべきことをやろうじゃねェか。ちょっと詳細を詰めるぞ!」

ゾエルに呼ばれた三人は、はい!と元気よく返事をして後を追った。
それとは裏腹に、VTOLの改造に頭を悩ませるメンバーは相変わらず難しい顔をしていた。シールドを割るには質量が足りず、かといって爆薬を積み込めばスピードも出ないし操縦者達にも危険が及ぶ。

「爆薬の量を減らして、その分をアレス零の力で割ってもらえば良いんじゃねぇの?」
「しかし、そうすると例の発生装置を壊せなくなるかもしれなくて……」
「なるほどな、VTOL単体でシールドを割る前提の作戦ってことか」

頭をガリガリとかき、天を仰いでしばらく考え事をしていたヘパイストスフォースの技術リーダーは、ついて来た部下の顔を見て何かを思い出したようだ。

「おい、そういやアレ、試作終わって結合試験までは終わってるんだったか?」
「アレって……ああ、アレですか、結合の第三フェーズまで終わってますよ、一応」

アレ。アレって何だろう、と不思議そうにハルディスが男たちを見上げると、にやり、と笑って返した。

「ちょうど良さそうな秘密兵器がウチにある。……小型のバリア発生装置だ。スペックと実物は今から用意する、おい、ちょっとひとっ走り行ってこい!」

はい!と元気よく、一番若い部下が走り出した。意外と、ヘパイストスシティまでの距離はあるのだが、若さで走り切ってくれるのだろう。

「バリア発生装置で爆発する瞬間に、操縦席側にバリアを張って爆風を防ぐ……ま、うまく組みつけられるかはわからんが」
「やってみる価値はありそうですね」

アポロンフォースの技術員が面白そうに頷いた。ハルディスもその話を聞いて、ギークとしての心が一気に沸き立つのを感じる。

「そ、操縦席側からは、こんな感じで三人が飛び出す、と思うから……」

ハルディスが足元の床にしゃがみこんで、持っていたVTOLの図面用紙に書き加える。それにつられて大の大人たちもしゃがみ込むと、その場であーだこーだと議論を始めた。この向きなら爆風はこう出るだろう、ここに装着すると電源が困る、ここだと邪魔になるのでは……などなど。

「……よくわかりませんが、非常に盛り上がっているようで」
「そうか……」

アポロニオを連れてやってきたアポロンフォースの調達部門長は、床に広がる大量の紙とまとまりがあるのかないのかわからない会話を好き勝手に広げて、大騒ぎしているエンジニア達をアポロニオに紹介した。その声に疲れが見え隠れするのはアポロニオの気のせいではなさそうだ。
アポロニオ達に気づいたヘパイストスフォースの技術リーダーが、ひょい、と帽子を上げて挨拶する。アポロニオはそれに軽く手を振って応えた。今回はヘルメットを被れとも怒られずに済んだようだ。
床に広がった紙の海を、特に気にする様子もなく普通に安全靴で踏みつけながら、技術リーダーがやってきた。

「久しぶりだな。また力を貸してもらうぞ」
「どうも。期待してくれて構わないぜ」
「で、状況はどうなんです?」

部門長に聞かれて、技術リーダーは一枚の紙を取り出した。何やら書き込みがなされてるそれを二人が見えるように手に持って広げる。

「端的に言っちまえば、何とかなる。操縦者の安全性も確保できし、シールドを割るパワーも十分だ」
「それは良いことだが……ではなぜ、まだあんなに議論をしているのだ?」
「あー……まあ、なんつうか、もっとVTOLが改造できそうってことに気づいちまってよぉ……」

それはそうだろう。そもそも、ヴァンガードがアポロンフォースから強奪していったVTOLは最新鋭のものであり、どちらかと言えば試作機に近いものだ。運用を重ねて、改良をしていく予定であったのだから、その気になればいくらでも機能向上を望めるだろう。

「……ほどほどにしておけよ。肝心の本番に間に合わないじゃ話にならない」
「わかってるって。な?」
「ちょっと、私まで巻き込まないでくださいよ」
「良く言うぜ、さっきまで倉庫に眠ってたロケットブースター使おうとか言ってたくせに」

アポロニオが調達部門の部門長を見ると、すっと視線を外された。倉庫にロケットブースターなるものが眠っていたことにも驚きだが、それをつけようとこの男が発言したのも驚きだ。もう少し真面目な人間だとは思っていたが……いや、意外と元からこういうタイプだったのだろう。

「……あまり改造しすぎてエウブレナが……操縦者が困るようでは本末転倒だぞ」
「うっ」

その反応を聞いて、アポロニオはため息をついた。いろいろな問題が解消したと思えば、すぐ新たな問題が発生する。
よくよく、二人に釘を刺してから格納庫の隅で頭を寄せ集めているゾエル達のところに顔を出した。

「首尾はどうだ?」
「ん、まあコイツらはいつも通りに連携するだけだからよ、そうそう問題なんてでねェよ」

なあ、とゾエルに言われて三人は頼もしく頷いた。後ろでまだ騒いでいるエンジニア達で荒んだ心が癒されるようだ。特にエウブレナとネーレイスはこんなにも立派になって……と成長を見守る父親の様な気分でアポロニオは微笑ましく二人を見た。

「一番、危険な作戦を担うことになるが君たちならやり遂げてくれるだろう。期待している」
「はい!任せてください!」

元気よく返事をするアレイシアにアポロニオは頷くと、ゾエルともう少しだけ人員の話を整理してから格納庫を後にした。

「いずれも順調そうだな」
「クリティカルパスを考慮して、早ければ夜の八時には作戦開始できそうですね」
「夜間戦闘か……」
「早期解決と奇襲を考えると、悪い時間帯ではないと思いますが」

副官の提案に、ふむ、とアポロニオは足を止めずに考える。確かに、一晩を明かす、明かさないでは時間の感覚が全く違う。無駄に夜を過ごして、犯人グループの苛立ちを誘うのも悪い話だろう。

「では、その方向で軽く要綱をまとめてくれるか?主だったメンバーを集めて相談しよう」
「了解しました。会議室を抑えて、部門長とヴァンガードのゾエル司令、ヴァッカリオ隊長のお二人と……」
「プロメトリックも、な。どこをほっつき歩いてるのか知らんが。……全く、ヴァッカリオめ、しっかり首輪を着けておけと言うのだ」

アイスキュロスとネルヴァを押し付けて、それ以来プロメトリックの姿は見ていない。また何か準備をしているのだろうが……目に見えないところで動き回られるのが非常に不愉快だった。
プロメトリックの名前を口にしただけで不機嫌になるトップの後を追いながら、副官はどうやってプロメトリックに連絡しようかな、と頭を悩ませた。