私は!成人!しているっ!!! - 1/4

東のポリスに赴いた兄弟が、様々な「見た目年齢」トラブルに見舞われるギャグ。短編まとめ。


1.クソガキとして人質にしたのはアポロンVIでした~今さら逃げようとしてももう遅い!~

クソタイトル。もう遅いテンプレを完全に勘違いしている。東のポリスに視察という名の旅行に来た兄弟が銀行強盗に巻き込まれるものの、当然のように犯人グループがボコられるだけでした、という話。ギャグです。


アポロニオが不機嫌オーラを全開にして大人しく「人質」になっている。ヴァッカリオは目の前で札束が犯人グループのカバンに積み込まれていくのを見ながら、違う意味で冷や汗をかいていた。

時を少し遡り、どうしてこうなった!かと言うと。アポロニオとヴァッカリオは英雄庁からの指令という名目で、東のポリスにある警察組織の視察に来ていた。まあ、その実態は兄弟水入らずでやってくれ、という篤い計らいとも、兄の方のワガママとも、弟がこっそり裏で手を回したとも言われている。ごく一部で。ごく一部のゴッドナンバーズやヴァンガードで。

そういうわけで二人は明日からの研修に参加するため、今日は前乗りしていたのだ。そこで、途中でお金を下ろすために立ち寄った銀行で――まさかの、銀行強盗に巻き込まれることになった。

「全員、動くなぁっ!」

その声に、ATMに並んでいた二人が振り返った時にはすでに犯人グループは店内に侵入を果たしており、かつ、手身近な男性客に銃を突きつけた状態だった。

「神器……は、ダメだな、申請を通すにも時間がかかる」
「こっちで神話還りの力を使って問題になるのも困るしね」

犯人たちに指図されるままに、床に膝をつき頭の後ろで手を組んだ兄弟は声を潜めて言葉を交わした。

オリュンポリスのルールはオリュンポリスでのみ通用する。東のポリスでは、ゴッドナンバーズであるアポロンVIことアポロニオと言えども、迂闊に強権を発動できなかった。もちろん、万が一にも人命に害が及びそうになったら、戸惑うことなくその力を振るう覚悟はできている。

そうこうしているうちに、犯行グループの半数は行員を脅して金庫へ。そして、もう半数は周囲の警戒と、大人しくしている客の監視、そして人質の物色を行い始めた。体格の良い男よりも弱い女子供を。いざという時に、連れて行くにも難儀しそうな老人よりもそれなりの年齢の人間を。一人客より、連れ立ってきている客の片割れを。

「チッ、随分と落ち着いた銀行強盗だな」
「手慣れてるから常習犯なのかも……おっと」
「そこ! 静かにしろ!」

犯人の一人に銃口を向けられ、ヴァッカリオは肩を竦めた。と、銃口を向けた男が何かを思いついたように目を瞬かせる。目出し帽の下で、醜悪な笑みが浮かんでいるだろうことは誰から見てもすぐにわかった。

「ちょうどいい、金髪のクソガキ! こっちへ来い!」
「くっ、子供を人質に取るなど……!」
「……お兄ちゃん……」

男が銃を構えたまま二人に近づいてくる。

「聞こえてんのか! 立て!」
「ヴァッカリオ、もし子供が怖がって泣くようなら――」
「お兄ちゃん、クソガキってお兄ちゃんのことだよ」

犯人の男は、アポロニオの目の前に立ち、銃を突きつけ見下ろしながら「ガキ、手間かけさせんなよ」と吐き捨てた。

「……は?」
「おい、てめえもこの可愛い弟が死ぬ姿を見たくなかったら大人しくしてるんだな」
「あー、うん、はい、大人しくしてます……」

ヴァッカリオは、引き攣った笑いを浮かべながら、男の言葉に頷いた。対して、アポロニオは男の顔を見上げて、隣のヴァッカリオの顔を見て、もう一度、犯人の顔を見上げた。

「は??」
「立て! 大人しくしてりゃあ、無傷でオニイチャンのところに帰してやるからよぉ」

腕を掴まれ、アポロニオは男に引っ立てられた。目を丸くして、呆然としている顔に、ヴァッカリオ以外の一般客たちが痛々しそうな視線を向ける。ヴァッカリオは笑いを堪えるのに必死だ。必死に俯いて肩を震わせている姿は、まさに「弟の身を案じ、怒りに震える兄」の姿にしか見えなかった。

「ガキ……おにいちゃん……は???????????」

アポロニオは乱暴に引きずられて、犯人グループの足元に膝をついていた。頭には銃口が押し付けられている。それでもまだ、呆然としていた。

オリュンポリスで知らない人がいないだろうアポロンVIが、人質にされるどころか子供扱いされている。そうだったここは東のポリス。爆笑をかみ殺しきれない微妙な顔をしたヴァッカリオが、こちらを見てもう一度吹き出しそうになっているのを確認して、アポロニオはようやく事態を把握した。

「なっ……! わ、私はとっくに成人して――」
「余分な口を開くな! 動くな!」

犯人を振り仰いで反論をしようとしたアポロニオを遮った男は、銃口でアポロニオの頭を小突いた。さらに、アポロニオと同じく人質になった若い女性の頭も小突く。自分だけならとにかく、他の人間にも被害が及ぶかもしれない、とアポロニオは苦虫を噛み潰したような顔をして口を閉じたのだった。

そうして、場面は冒頭へと戻る。そう、そんな話があったから、アポロニオは絶賛不機嫌だった。最初は笑いが込み上げていたヴァッカリオも、さすがに兄の本気の怒りを感じ取って、今は大人しく縮こまっている。犯人たちはそれを「弟を人質にとった効果」だと勘違いしているが、当然そんなわけはない。いつ、アポロニオがブチギレて犯人たちを半殺しにしないかと戦々恐々しているだけだ。

そんなヴァッカリオに、アポロニオが目線だけで「どうにかしろ」と訴えてくる。悲しいことに、短い間とは言え共闘経験もある上にだいぶ血が濃い目の兄弟であったので、視線だけで余裕で会話ができてしまった。ヴァッカリオがスッ、と目を逸らしても、アポロニオの方からこっちを見ろ、とプレッシャーを感じる程度には、わかりあえるのだ。残念、ヴァッカリオは逃げられない!

仕方ない、とこっそり息をつくと、ヴァッカリオはアポロニオの方に顔を向けた。見えている範囲で、人質の数と犯人の人数、持っている武器を確認する。そして、頭の上で組んだ手をバレない程度に小さく動かしてアポロニオにハンドサインを送った。アポロニオからも、向こうが見えている範囲内の情報を送り返される。

アポロニオを含め、人質を跪かせて銃口を当てている人間が三人。つまり、人質も三人。そして、店内で巡回しながら他の客を監視している犯人たちが三人。行員を脅して金庫から札束を運んでいるのが四人。合計十人、いずれも銃で武装済み。

ふむ、とアポロニオは考え込むように目を伏せ――次に目を開いた時は、すでにアポロニオではなく、悪を断罪するアポロンVIとしての冷徹な目つきになっていた。思わずヴァッカリオもぶるりと身を震わせ、そして自身の体に流れるディオニソスXIIの血潮が沸き立つのを感じた。無意識のうちに、口角が上がる。

合図は、瞬き一つで。

アポロニオは突き付けられた銃口を気にせずに、男の手首を掴む。アポロン神譲りの怪力でその手首を締め上げ、男が反射で手を引っこめるよりも早く座ったままの姿勢で男を投げ飛ばした。

「うおっ!?」

男が情けない悲鳴を上げる頃には、すでに壁沿いを歩いていた監視の男にぶつかり、そのまま二人セットで壁に叩きつけられた。

同時に、ヴァッカリオも動く。立ち上がると同時に足のバネを使い、後ろへとジャンプ。派手に音を立てて総合受付のカウンターに着地することで、店内の目を一斉に惹きつけた。サッと犯人たちを見下ろし、にやりと挑発するような笑みを浮かべ、銃弾が降り注ぐ前にカウンターの後ろ側へと身をひっこめた。

「てめえ!」
「こいつらっ!」

ヴァッカリオに一瞬気を取られた隙をついて、アポロニオは人質を取っていた二人を無力化した。簡単だ、重い拳を鳩尾にそれぞれ一発。身体に見合わぬ予想以上の重い一撃に、男二人は体をくの字に曲げて悶絶した。……多少、吐瀉物が銀行の床を汚してしまったのは不可抗力だ、とアポロニオは何も見なかったことにする。長くヒーローをやっていれば、時に人命を優先するために物損を甘んじて受け入れることもあるのだ。

断じて、良くも子供扱いしたなこの野郎、などと私怨を交えてはいない。正義の拳に私怨は混じっていないのだ、断じて。

瞬く間に人質を解放したアポロニオをカウンターの影から確認したヴァッカリオは、頭の上を通過する銃弾の嵐をやり過ごした。犯人たちの射線上に、誰もいないことは事前に確認済みだ。ちょうど良いところにカウンターがあってラッキーだったな、とヴァッカリオは一人ほくそ笑む。

「ほーらお返しだ!」

荒々しい炸裂音が止んだ直後、ヴァッカリオは椅子を片手で持ち、そのままどこぞの兄のように監視の男へと投げつけた。壁と椅子に挟まれる男。

そして、その反対側の壁ではもう一人の監視役が観葉植物を叩きつけられていた。ヴァッカリオの椅子よりも目立つ、店内に響く植木鉢の割れる甲高い音。札束の山の前でヴァッカリオを憎々しげに見ていた残り四人の犯人は、音の方向を咄嗟に振り返った。視界に映るのは、悠々とこちらに歩みを進める小柄な少年。

その少年は可愛らしいとも言える幼い顔つきで小首を傾げた。そして、涼やかな声が口から紡ぎ出される。

「お前たち、敵から視線を外すなど、戦場では論外だぞ?」

その言葉を男たちが理解するよりも早く、ヴァッカリオの飛び蹴りが男の一人を吹き飛ばした。慌てて、銃を構えるも、連続して回し蹴りを繰り出されて銃を弾かれ、さらに飛ぶように一回転したもう片方の足でこめかみを打ち抜かれた。

「チッ!」
「敵から視線を外すな、ってお兄ちゃんは言ったんだけどな~?」

ヴァッカリオと対峙した男が振り返ると、仲間の二人はすでに床に伸びていた。少年、アポロニオが何事もなかったかのように静かに残った一人の男を見返す。そして、怒りに瞳を燃やして、体を屈ませた状態から大きく一歩踏み出すと、下から伸びあがるように男の顎を殴りつけた。

「さきほど言いかけたことだが……私は、とっくに、成人している!」

……後に、ヴァッカリオは「あれほど綺麗なアッパーは見たことがないかもしれない」と警察からの事情聴取に答えたという。