私は!成人!しているっ!!! - 4/4

4.……だから……私は……成人している……(1時間ぶり4回目)

タイトルに特に意味はない。東のポリスで銀行強盗に巻き込まれた兄弟がその後にタバコを吸っているアポロニオを補導された後にパチンコ店に迂闊に入店してまた補導された話の続きです。児童ポルノ編。海外の厳しいところだとこういうのでもダメらしいという話。実年齢じゃなくて見た目の問題だとか。

※本作における「児童ポルノ」はフィクション上のものであり、現実の法律等とは一切関係ありません。


ヴァッカリオとアポロニオは、とある公園のベンチで項垂れて座っていた。二人の間には沈黙が降りてしばらく経つ。

何しろ、ついに今日は3回も警察のお世話になったのだ。ゴッドナンバーズであり、正義を掲げる二人が、まさかの。まさかの、犯罪者扱いをされるという、屈辱。

「なあヴァッカリオ……」
「ん……なに……」
「これからは、ヴィランの取り調べをもう少し穏やかにしようと思う……」
「そうだね……ヴィランの言い訳もちゃんと聞いてあげるべきだね……」

二人は疲れていた。本当に疲れていた。

アポロニオは何回「成人している!」と叫んだことだろうか。ヴァッカリオは何回「せめて兄弟で!」と叫んだことだろうか。

はあ、と同時に重いため息をついた。一体、どこに地雷が隠れているかは今の二人にわかるわけもなく、こうして公園に座って大人しくしているのだ。東のポリスの法律や常識をある程度は事前勉強していたアポロニオであったが、「自分が子供に見られる」という視点はすっぽり抜けていた。

オリュンポリスであれば、知らない人はいないとも言われるほどのアポロンVIであり、アポロニオだ。それに、神話還りの特徴で見た目年齢があまり変わらないという人物もそれなりに存在している。

そう言った実例がほとんどない東のポリスでは――アポロニオは、正しくただの「少年」であった。

と、そんなどんよりとしたオーラを纏った二人の前に、キッチンカーが数台やってくる。なんだなんだ、と目を丸くする兄弟の前で、あっという間にキッチンカーの設営が終わり、そのうちどこからともなく人が集まってくる。

「何かイベントでも行われているようだな」
「あー……いい匂いがする……」

鼻をひくつかせたヴァッカリオは、その後にぐう、と腹の虫を鳴かせた。それにつられたのか、アポロニオも腹を鳴らす。そういえば、なんだかんだで昼ご飯を食べていなかった、と二人は顔を見合わせる。

「よし、何か見繕って食べるとするか」
「いいね。……とりあえず、酒はやめておこうかな」
「珍しいな、お前が酒を断るとは……」
「嫌な予感がするからね。年齢制限がありそうなものはもうパスだよパス」

ヴァッカリオが酒を諦めるぐらいには、今日の一連のアクシデントは二人のメンタルを大いに削っていたのであった。例え、酒に似合いそうなソースの匂いがしても、だ。

「オコノミヤキ、タコヤキ、ヤキソバ……」
「このヤキトリも良さそうだぞ。デザートはあちらのクレープにしようではないか」
「クレープ……ああ、なんか甘さ控えめのサラダクレープとかあるじゃん! いいね、それぞれで買って持ち寄ろうか」
「わかった」

そう言ってお互いに離れてイベント会場を散策する。ヴァッカリオはおかず類を、アポロニオは飲み物やデザート類を。特に決めるわけでもないが、自然な流れでそれぞれを入手して最初のベンチに戻ってきた。

「うっ、お兄ちゃん、クレープにドーナツにチュロスに……ちょっと買いすぎじゃない?」

糖尿病になるよ、と言いながらヴァッカリオは抱えてきたおかずをベンチに下そうとした。と、その時。

「あっ!」
「うおっ!?」
「ヴァッカリオ!?」

三者三様の声が重なる。そう、ここは公園。元気の良い子供が蹴ったサッカーボールが、見事にヴァッカリオの後頭部に直撃したのだ。

何しろ、これだけ平和な世界でヴァッカリオが背後の気配に気づくわけもなく。アポロニオもすっかり腕の中の食料に夢中になっていたわけで。

となると、完全に気を抜いてヤキソバやオコノミヤキを下ろそうとしてたヴァッカリオは――勢い余って、それらを全部目の前にぶちまけてしまった。目の前、アポロニオの方へ。

「いっ……あー! お兄ちゃん、ごめ、大丈夫!?」
「ぶふっ、だ、大丈夫だ、そこまで熱くはないから……」

すみません!!と駆け寄ってきた子供たちに、ヴァッカリオ達は気にしてないよ、とにこやかに笑って返した。子供やった事であるし、何より特にケガをしたわけではないから「次から気をつけろよ」の一言で終わりだ。健全な青少年の育成に熱心なゴッドナンバーズの二人でもある。

「しかし、このままでは帰れんな……」
「お兄ちゃん、上脱げる? どうしよう、一旦脱いでタオルで体拭いた方が良くない?」
「そうするか。あっちの水道を借りるとしよう」

ソースでべたつくシャツを、ヴァッカリオに手伝ってもらいながらアポロニオは脱いだ。アポロニオが持っていたリュックからタオルを出して、ヴァッカリオはアポロニオの体を拭った。アポロニオは、自分のシャツにこびりついたヤキソバやオコノミヤキの破片を名残惜しそうに払っている。

「もったいないな……」
「また新しく買えばいい、とは言え、ねえ。手つかずでゴミ箱行きは良心が痛むなあ……」
「今日はつくづくついていない日だ、全く」
「ほんとだよ」

はあ、とヴァッカリオとアポロニオは同時にため息をついた。

ついていない、という事は二度あったから三度あったわけで、となると、四度目があっても全くおかしくはない。

「ちょっと! そこの君たち!!」
「はい? ってゲッ! 警察!!」
「警察を見てそんな声を上げるとは……」

ヴァッカリオが振り返ったところには、女性の警察官と男性の警察官が立っていた。カツカツと二人の警察官が近寄ってくると、ヴァッカリオとアポロニオの間に割り込むように入り込む。

「ボク、大丈夫かな? ……まあ、ボクって言う程の年齢でもないかな? 学校はどこ?」
「っ!! わ、私はすでに成人していて……!」
「ああ、いいのよ、気にしなくて……君は被害者の方なんだから、逮捕されたりはしないわ」
「被害者???」

何の話だ、とアポロニオが聞くより先に、女性の警察官が持っていた毛布でアポロニオの上半身を包み込む。ヴァッカリオは、と言えば向こうは向こうで男性の警察官に何やら事情聴取されているようだ。

警察官の頭を超えて、ヴァッカリオの頭が飛び出る。そして、アポロニオを見ると切羽詰まった顔をした。

「ちょ、お兄ちゃん! 誤解解いて誤解!! おいら、このままだとショタコンにされるんだけど!!」
「ショ、ショタコン??」
「まあ! ショタコンだなんて……あなたは児童ポルノの犯罪者でしょ!」
「児童ポルノ!?!?!?」

女性警察官がギッとヴァッカリオを見て放った言葉に、アポロニオは口をあんぐりと開けた。その後、しばらくしてからようやく、単語の言葉が脳に染み渡る。

児童ポルノ。児童。18歳未満の少年少女の裸体。裸体。

アポロニオは自分の体を見下ろした。特段、変哲のない男の体……と思っていたのは自分だけで……女性警察官が毛布を被せたのも、自分を被害者扱いするのも。

つまり。

「わっ……私は成人しているっっ!!! 児童ではない!!」
「そうだよ!! おいらの方が10歳年下の弟なの! そもそもただの兄弟でポルノなんてしてないし!!」

ヴァッカリオの言葉を、男性の警察官は首を振ってバッサリ切った。

「公園で、少年の服を脱がせて襲っていると通報があったぞ。こんな昼間から堂々と、全く……これだからケダモノは」
「違う!! 違うって!!! ちょ、待って!?!? ショタコンじゃないから! おいらの方が年下だから!!」
「はいはい、詳しくは署で聞くから」
「親子に間違えられてた方がまだマシだった~~~~!!!」

ヴァッカリオが連行されていくのを見て、アポロニオも慌てた。さすがに、ゴッドナンバーズが児童ポルノで逮捕されたなどと醜聞に他ならない。その様子を見た女性警察官が、助け舟(後で思えば、ただの泥船でしかなかった!)を出した。

「君も一旦、警察署でいろいろお話聞かせてね? 荷物とかがあれば、一緒に持って行くよ?」
「あ、ああ……」
「それで、あのオジサンとはどういう関係かな? お小遣いをもらってたりするかな?」
「いや、むしろお小遣いをあげる側で……」
「まあっ! 恐喝されていたの!?」
「い、いえ、そういうわけでは……」

女性警察官が、痛々しそうな視線を向けながらいろいろと話しかけてくる。そうやって二人でベンチの上を片付けながら、アポロニオは閉口した。お小遣いは上げる側だし、無理に迫ったわけでもない(むしろ自分がヴァッカリオの就寝前に忍び込んだことならある)、そもそも、自分達はただの兄弟である。

荷物を抱えて、パトカーに乗り込み、今回はまた長くなりそうだ……とアポロニオは遠い目をした。

そして、そんなアポロニオを女性警察官と応援に来た警察官が痛々しそうに見る。そう、いまやアポロニオは悪に正義の鉄槌を下すアポロンVIではなく、31歳男性に襲われていた児童ポルノの被害者少年Aなのだ。

今度から、児童ポルノの犯人たちにも言い訳の機会をしっかり与えることにしよう、とアポロニオは改めて心に誓うのであった。