私は!成人!しているっ!!! - 3/4

3.だから!私は!!成人している!!!(2時間ぶり3回目)

タイトルに特に意味はない。東のポリスで銀行強盗に巻き込まれた兄弟がその後にタバコを吸っているアポロニオを補導された話の続きです。パチンコ店編。もちろん、また補導されます(ネタバレ)
見どころはヴァッカリオの「やっべ!」。そして台はシンフォ2。


先ほどよりは早く解放された。早いと言っても、そもそも普通の人間はそんな頻繁に警察署に連行されたりしない。もはや東のポリスの観光地よりも警察署の内部に詳しくなってしまった二人である。

「……青少年の、健全な育成に、力を注ぐ、素晴らしき公僕であったな……!」
「お兄ちゃんもう迂闊な事しないでよマジで……」

元々行く予定だった場所には行く時間がなくなってしまったので、代わりに周辺を散策する。正直、都心であるため、いかにもな観光スポットは特になく、二人はただぶらぶらと街を散策した。

「おっ」

と、ヴァッカリオがとある建物の前で足を止める。アポロニオは不思議そうに首を傾けてヴァッカリオを見上げた。

「どうかしたのか?」
「ねえ、ここ寄ってってもいい? パチンコっていう、東のポリス独特のゲームセンターなんだけど」
「ゲームセンターか……まあ、いいぞ。特に予定があるわけでもないし」

やったね、と言いながらヴァッカリオはいそいそと自動ドアを潜り抜ける。アポロニオも、その後を追った。

一歩店内に入れば、そこは煌びやか、あるいは下品とも言えるほどに激しい照明が瞬き、隣に立つ人間の声も聞こえないほどの爆音がミックスされて耳を打った。アポロニオは思わず顔を顰める。

「なんだこの店は……」
「オリュンポリスにはこんなのないからね。一応、一部のゲームセンターで払い下げ品みたいなのは遊んだことあるけど、本場のパチンコをやってみたくてさ~」

そう言ってふらふらと歩くヴァッカリオの後ろをアポロニオもついて回った。何やら、客はそれぞれ一台ずつゲーム機の前に座って遊んでいるようだ。しかし、その誰もが特に楽しそうに笑い声を上げているわけでもなく、どちらかと言えば真剣な目つきをしている。

「お兄ちゃんもやってみる?」
「む……」

ヴァッカリオが何かお目当てを見つけたのか、とあるゲーム機の前に座った。振り返ってアポロニオに声をかけてくれる。さて、アポロニオと言う人間は特別ゲームをするようなタイプではなく……しかし、最愛の弟と一緒に遊ぶ、という貴重な時間は大切にしたい。

少しばかり葛藤した後に、ヴァッカリオの隣のゲーム機の前に座った。

財布を取り出したヴァッカリオが東のポリスの紙幣で一番高額なものをゲーム機に投入した。アポロニオはそれを見て、目を見開く。

「ゲ、ゲームにそんな高額な金を……!?」
「あ、大丈夫大丈夫、全部使うわけじゃないよ! ただ、お札しか対応してないからさ~」

すぐ当たれば投資金額少なくて済むから、と続けるヴァッカリオの様子を不審に思いながらアポロニオも財布から紙幣を取り出してゲーム機に投入する。給料のほとんどを貯金(もちろん、将来ヴァッカリオが結婚する時の費用として、だ!)しているアポロニオからしてみれば、はした金額ではあるが……それでも、一時の娯楽に投資するには大きすぎるのではないか、と苦い顔をする。

「ヴァッカリオ、ゲームで遊ぶこと自体を悪いとは言わないが――」
「まあまあ、ちょっと遊ぶだけだから! 東のポリスにしかないんだから今日だけだよ! お兄ちゃん、だめ??」

頭をかきながら、お願いするように眉尻を下げた可愛い弟の頼みに、アポロニオは仕方なく引き下がった。嘘。あっさり引き下がった。ヴァッカリオの頼みであればもはや無条件で受け入れるアポロニオが、迷う時間はコンマ1秒も無かったのであった。

「それで、そこのボタン押すと銀の玉が出てくるでしょ。それを右手のハンドルをひねって打ち出すんだ」
「こう、か?」
「あー強すぎ強すぎ!」

などと、ヴァッカリオにあれこれ教えてもらいながらアポロニオは「ぱちんこ」なるものと初めての異文化コミュニケーションを開始するのであった。

目の前のゲーム機は目が痛くなるほどカラフルに輝いていて、何かアニメの可愛らしい美少女が可愛らしい声で何かしゃべっている。いったい、こんなものの何が楽しいのだろう、とアポロニオは頭の上にクエスチョンマークを大量に浮かべた。

「ここの穴に入れば、数字が回り出して――」

ヴァッカリオが説明しているそばから、アポロニオが打ち出した銀の玉は穴にすぽん、とあっさり入った。

その瞬間。アポロニオの目の前のゲーム機が突然激しく振動し、さらにアポロニオの頭部部分にあった左右に開いた謎のパネルも音をけたたましく立ててぐるぐると回った。

「な、なんだ!? 何が起きてるんだ!?」
「赤レバブル! 激アツじゃん! えっうそオスイチ!?!?」
「ヴァッカリオ! 私は何だ何が起きているんだ!?」
「待って待ってプレミア!! ちょっ、嘘! 今のレインボーじゃなかった!?」

何やらヴァッカリオは興奮しているし、アポロニオの前のゲームはこれでもかという大音量で歌を流すわ振動するわ明滅するわ、挙句の果てには何やらゲーム機の変形まで始まった。アポロニオの頭上で、アニメのキャラクターを模した人形から羽がパカッと出現する。アポロニオはそれをまさにぽかーんと口を半開きにして眺めている。

一口で言って、ド派手だった。ふと気がづけば、周りのお客もほぼ全員がアポロニオの方を見ている。それはそうだろう、ふらふらやってきた外国人二人が座ったと思ったら、明らかに大当たりを引いているようなのだ。しかも片方は少年で――パチンコ店に入ってはいけない年齢に見える。

キュキュキュイーン!と劈くような音が鳴る。アポロニオは思わず首を竦めた。元から機械に弱い上に、こういった派手な演出も苦手なアポロニオだ。はるか昔、ヒーロー成り立ての頃に女子高生集団の補導に一人であたった時のアウェイ感を思い出す。あれはひどいトラウマになった。

「ヴァ、ヴァッカリオ、大丈夫なのか、私は何かゲーム機を壊して……」
「お兄ちゃん右打ち! 右打ちして!!」
「みぎ??? みぎをうつ????????」

ヴァッカリオの手が隣から伸びてきて、アポロニオのハンドルを握った手ごと、ハンドルを右へ回した。もはやアポロニオはされるがままだ。なにがどうなっているのかなにもわからない。わかっていることと言えば、とりあえずうるさいことと――ヴァッカリオが楽しそうなことだ。

なんかヴァッカリオが楽しそうならそれでいいかな、とアポロニオは思い直した。現実逃避である。さきほどから何かいろいろ解説してくれているようだが、あまりにもカタカナがカタカナでカタカナ過ぎたので、アラフォーのアポロニオの耳には馴染みにくい。左から右に流れていくヴァッカリオのウキウキ声だけが、今のアポロニオの癒しだった。

「お客さん、すみません」
「? 何か?」

申し訳なさそうに、声を掛けられて、アポロニオが振り返る。そこにはパチンコ店の制服を着た青年と、もはや見慣れに見慣れた東のポリスの警察制服を着た強面の男二人が立っていた。

嫌な予感がする。ヴァッカリオとアポロニオは顔を見合わせた。そして、目をぱちぱちした後に、ヴァッカリオが叫んだ。

「しまった!!! パチンコ店は未成年入店禁止だった!!」
「なっ……ヴァッカリオ! お前、私に『迂闊な事をするな』と言っておいて!!!」
「やっべ!」

こほん、と警察官が咳ばらいをする。パチンコ店のスタッフは、気づけば後ろの方で遠巻きに見守っていた。

「知らずに入店したわけじゃなくて、『未成年入店禁止』とわかっていて、子供を連れてきたのかい?」
「わ、私は子供ではない! もう41歳に――」
「そういう嘘はよくないからね? せめて、19歳、20歳ぐらいにしようね?」

警察官二人に畳みかけられて、アポロニオはぐぬ、と黙った後に隣のヴァッカリオを睨みつけた。このパターンは2時間前にやったばかりだ。知っている、オリュンポリスの身分証明書を出しても結局、警察署で照会が必要と言われて連れていかれるのだ。

「あのねえ、お父さん、いくら子供を車の中に放置しちゃダメって言われてるからって、店内で堂々パチンコやらせるのはどうかと思うよ?」
「ぶふっ! おいらそんな老けてないから! 兄弟! せめて兄弟!!」

立ち上がって抗議するヴァッカリオの高身長に、一瞬だけ警察官はたじろいだものの、すぐにうるさそうに手を振って話を続けた。

「まあ兄弟でもお父さんでも保護者であることには変わらないから。さあ、そっちの君も立って。詳しくはパトカーの中でお話を聞かせてもらうよ」
「あ゛~~~せっかく当てたのに!!!」
「パチンコの大当たりより子供の教育を心配したらどうだ」
「……私は、もうとっくに成人しているのだが……」

呆れたような警察官の言葉を受けた、アポロニオの力ない呟きはパチンコ店の轟音の中に消えていった。

当然、パトカーの中だけで話が収まるわけもなく、二人は結局警察署へと連れていかれたわけで。

ちなみに、所轄が変わったからか、お世話になった警察署とは違う建屋に到着したのであった。その点だけは目新しくて良かったな、とヴァッカリオとアポロニオは二人そろって遠い目をしながら警察官に挟まれて、玄関をくぐるのであった。