Re:HalloweenNight - 2/9

 ハロウィンのお祭り騒ぎも落ち着いたある日。今日のエウブレナはヴァンガードの一員ではなく、ハデスIVとしてハデスフォース執務室で勤務にあたっていた。
 先日のハデス区とハデスフォースが合同で執り行った毎年恒例のハロウィンパーティーにて、エウブレナはついにハデスIVを正式に襲名した。もちろん、内々にはすでに決まっていた事であったが、市民の前で大々的に就任式を行うことでようやく、ハデスIVとして表舞台に立つことになったのだ。

「失礼します」
「はい、どうぞ」

 固い女性の声に、エウブレナは見ていた書類から顔を上げた。入ってきたのは、ハデスフォースのナンバーツーでもある、ハデスIVの片腕的存在の副官だ。先代のハデスIV、クリュメノスの時から副官として勤務している古株の女性である。エウブレナより一回り、あるいはそれ以上年上の頼りになる人生の先輩でもあった。

「書類仕事は……早いですね、もう終わりそうですか」
「はい、わかりやすいマニュアルと事前選別のおかげです。もうすぐ、片付くと思います」
「そうですか……確か、この後も急ぎの用事はありませんでしたね」

そう言いながら、副官の女性は持っていた端末でエウブレナのスケジュールをチェックした。エウブレナ自身も自分のスケジュールは把握しているが、どうしても慣れない仕事で漏れてしまうこともある。そう言った点も、この生真面目な副官は見事にフォローしてくれていた。
 立場上、エウブレナが上司と言うことにはなるが、年齢面でも仕事面でも、この女性には全くと言っていいほど頭が上がらない存在となっている。そんな女性が、しばらく黙って何かを考えている。エウブレナは、何か書類に間違いでもあったのかと戦々恐々と副官の言葉を待っていた。

「ハデスIV。ハデスフォースビルの内部説明はあらかた終わってますが――一か所、説明をしなかった場所があります」

 端末から顔を上げた副官は、エウブレナの顔をじっと見て固い声でそう言った。その言葉に、ただならぬ雰囲気を感じてエウブレナは思わずごくりと喉を鳴らす。

「そちらへの説明と『対応』を本日はして頂こうかと」
「わ、わかりました」
「では神器と……そうですね、万が一に備えて内勤ではなくパトロール時の装備を揃えてから行きましょう」
「……そんなに、危険な場所なんですか?」

おそるおそる、尋ねたエウブレナに副官は慇懃無礼ともとれる眼差しを向けた後に「場合によっては」とだけ短く答えた。