エウブレナと副官の女性は薄暗い通路を歩いていた。ここはハデスフォースの地下一階。一通りハデスフォース内の設備説明を受けたエウブレナでも知らない場所だ。
給湯室や宿直室と書かれたプレートが掲げられた部屋があり、一階以上の室内とは全く雰囲気も部屋の種類も異なる。何より、エレベーターを降りてからまだ一人も人間とすれ違っていない。ずっと、エウブレナと副官の二人きりだ。
こつこつ、靴の音だけが響く廊下の先、両開きの大掛かりな扉が見えてきた。副官が一歩先に出て扉を引き、エウブレナを中へと促す。
「ここは……」
「ようこそ、ハデスIV……エウブレナさん」
迎えてくれたのは、柔和な笑みを浮かべた一人の白髪交じりの男性と、まだ若そうな男女二人であった。エウブレナは記憶の中を掘り返して、就任時の挨拶で会った顔だと思い出した。逆に言えば、それ以降は見かけていないメンバーだ。
「……ハデスIVに説明をお願いできるかしら?」
「ええ、お任せください」
副官と男性のやり取りを、エウブレナは耳にしながら室内をぐるりと見渡す。男性の後ろに控えている男女二人は、ハデスフォースの制服に身を包み人造神器を腰に携帯している。緊急配備がされているわけでもないのに、今すぐにでも戦えそうな装備だ。
室内はかなり広く、天井も地下と聞いていた割には高く設計されているように感じる。白一面の無機質な壁や床はどことなく厳かな感じすらあった。その中で、異質なのは大きな黒い両開きの扉――門、と例えた方がふさわしいだろう――だった。その両側には、何やらパネル付きの機械が設置され、何かをモニタリングしているようだ。そこから、もう少し目をずらしていけば、三人が普段作業しているだろう椅子と作業用端末らしきものがある。
ハデスフォースのモニタリングルームは上階にあるし、指揮ルームも執務室の隣だ。となると、ここの部屋は一体何を……。
「エウブレナさん」
「は、はい!」
呼び掛けられて、キョロキョロしていたエウブレナは慌てて背筋を伸ばした。見れば、副官は後ろの男女二人と何かを打ち合わせしている。
にこやかな笑みと共に、男性がエウブレナを例の門の前に案内してくれた。エウブレナのことを「ハデスIV」と呼ぶメンバーが多い中、この男性は「エウブレナさん」と呼んだ。――つまり、エウブレナが先代ハデスIV、クリュメノスの娘であると知っている、古株ということになる。見た目からしても、エウブレナとは祖父と孫ほどに歳が離れていそうだ。
「ここは何をしている部屋か……エウブレナさん、何も聞いてきてないですよね?」
「はい……すみません、不勉強なもので……」
「いえいえ、気にすることはありませんよ。隠しているわけではありませんが、公にしているわけでもない。そして、できれば隠しておきたい。……ここはそんな、ちょっと不思議な場所なんです」
男性はパチリ、とエウブレナにウインクを送ると門へと向き直った。
「ここは、冥府と現世の境目。この門を開いたその先は、冥府となっています」
「!! そ、そのようなことが……?」
「ハハハハ、厳密に門の向こうが『冥府』というわけではないのですよ。この門とこちらにある機械。これらは、先々代のハデスIVの頃に作られたものです」
エウブレナが驚いた顔のまま、門を凝視する姿に男性は目を細めた。エウブレナにとって、ハデスIVと言えば父であるクリュメノスのことだろうし、今のハデスフォースも先代ハデスIVの色合いが濃い。その中で、こういったクリュメノスより前のハデスIVという存在に最近の若人が触れるのは、珍しかろう。
「先々代のハデスIVは、あまり戦闘向きの神話還りではありませんでした。当時、ゼウスIやポセイドンIIがヴィラン……いえ、まだその頃はただの犯罪者でしたが……まあ、とにかく。彼らが前線で活躍する中、ハデスIVは目立った活躍ができず悩んでいたのです。そこで目をつけたのが、冥府のエネルギー」
「冥府の……」
「そうです。同じ世界でありながら、異なる軸上に存在する冥府。そこにあるエネルギーを直接取り出せれば、何かの役に立てるのではないかと」
懐かしそうに語る男性の言葉に、エウブレナは眉を顰めた。エウブレナが生まれる前、確か、冥府のエネルギーを使った一大計画が立てられたものの、途中で大きな事故が発生し頓挫していたはず。ハデスフォースに配属された当初の研修で習った歴史上の事故だ。
男性はくるり、と振り返って門からエウブレナへと視線を移す。
「しかし、冥府と言う存在も、エネルギーという存在もどちらも、あまりにも未知なものでありました。理論に理論を重ねてこのようにエネルギーを引き出す装置を製作、設置したのは良いものの……」
「制御に失敗し、計画は頓挫、ですか」
「よく勉強していらっしゃる。そのとおりです。そして、失敗作となったこの門ですが、中途半端に冥府と繋がっている状態になってしまいました。そのため、閉鎖をすることも、撤去をすることもできず……」
男性は門の前に立つと、大掛かりな錠前を手に取った。エウブレナが近づいてよく見ると、その錠前以外にも、様々な処置が門には施されている。まさに、封印された状態であった。
「この様に、封印状態を維持するのが手いっぱいで。先代のハデスIV……あなたのお父さんの時でも、それは同じでした」
「パパが……」
「ええ。そして、先々代の計画に携わっていた私が室長となり、一つの『冥府の門担当チーム』が作られました」
男性は副官から解放されて自席について作業を行う二人の男女に視線を向けた。そして、少しばかり照れ臭そうに笑って「お恥ずかしくも、将来有望なヒーローをお借りして自分がチームを作った次第です」と言った。彼らはとても優秀ですよ、と続ける男性の顔には成長著しい有望な若手を穏やかに見守る年長者の笑みが浮かんでいた。
「なるほど、おおよそこの設備についてはわかりました。あなた方は室内でありながらも戦闘装備を身に着けているのというのは……」
「我々の業務は、この門の監視と定期メンテナンス。そして有事の際の初期対応です。以前、エネルギーが暴走した時は冥府からゾンビやら骸骨やらが溢れてきましてね……」
顔を暗くして、おどろおどろしく言う男性にエウブレナはぶるりと肩を震わせた。
先日のハロウィンパーティーで見かけた本格的な市民の仮装の数々。やはり、冥府と縁の深いハデス区ではハロウィンは他の区よりも盛り上がるし、気合の入れようも違う。ハデスIVとして出席したエウブレナも、幼いころからその手の血みどろのゾンビや傷だらけの仮装には慣れ親しんできたのだ。
だが、その仮装と「本物」ではまたワケが違う。ゾンビや骸骨、と言えば、そもそも生前の姿があったはずで……恐ろしくなって、エウブレナは男性に尋ねた。
「ああ、ゾンビや骸骨と言っても、あれらはただのエネルギー体なんですよ。後日の事故調査でわかったことですがね」
「そうなんですか……でもどうしてわざわざゾンビの姿なんて……?」
「これもまた仮説なのですが、人々が思う『冥府から這い出てきそうなモノ』の形を反映したのではないか、と言われてましたね。いやあ、いかんせん、当時は門を閉じることに必死でして。門を閉じると同時にそれらも忽然と消えてしまったため、分析しようにも分析できず」
故に、冥府のエネルギーという存在はいまだに未知の存在なのだ、と男性は笑って言った。
話が終わったタイミングを見計らったのか、副官が声をかけてくる。男性の少しばかり昔話を挟んだ丁寧な説明をずっと隣で黙って聞いていたようだ。
「おおむね、どういう存在かご理解できたでしょうか」
「は、はい、よくわかりました」
「そして、ここからハデスIVにとって重要な事です」
私に? とエウブレナが首を傾げると同時に、副官の目配せを受けた男性が門の右側に立って手招きをした。疑問を感じつつも、大人しくその手招きに従う。
「……実は、門の封印には我々の神力を注いでいるのです。この門自体が、一種の人造神器の様なもの、と思っていただければ早いかと」
男性の言葉に、改めて門を見上げたエウブレナは感嘆の声を上げた。高い天井まで届く巨大な門。それ自体が、人造神器だという。
以前、ちょっとした騒動があった時にアポロンフォースの備品で巨大な砲台タイプの人造神器を目にしたことがあったが、それと似たような驚きを胸に抱く。まさか、ハデスフォースにもこのような秘密があったとは。
「先々代の頃から、その役目はハデスIVが担ってきました。やはり、冥府そのもののエネルギーに対しては人造神器より、オリジナルの神器の方が相性が良いからです。しかしながら……先代の、ハデスIVが……」
男性は一度口を噤み、緩く目を伏せるとゆっくりと言葉を探して続きをエウブレナに語り掛けた。
「ご引退、なされてからは、約十年。十年もの間、ハデスフォースに所属する人間の中で、最も冥府のエネルギーへの適性が高かったヒーローが私のチームに配属され、日夜『メンテナンス』として門に神力を注いでいるのです」
「そして、ここに配属されたヒーローは門にかかりきりになるため、他の任務には当たれません」
副官が冷たい声で口を挟んだ。エウブレナに向ける視線は、ある種の挑発的な色を湛えていた。まるで、この状況にエウブレナがどういう対応をするのか見ものである、と言わんばかりの。
ヒーローを目指して厳しい研修を乗り越えた先が、ただ門に神力を注ぐだけの毎日。冥府のエネルギーとの適正だけで選抜されるため、本人の配属希望はすべて却下される。そして、このような常に代わり映えのない光景の、無機質な地下へと押し込められるのだ。
「まあまあ、そう言っても、ちゃんとここに配属されると『冥府手当』という特別手当をもらえますから。……なかなかの金額なんですよ、冥府手当」
副官の口調を仲裁するかのように、男性が苦笑しながら口を挟んできた。そして、後半はエウブレナにだけ聞こえるように、小さく呟く。
エウブレナは冥府手当、という言葉にそう言えば、と気づく。もちろん、そう言った給与形態や雇用に関する細かい人事などは人事部が一手に引き受けていて、エウブレナは以前からある規則を眺めたにすぎない。その中に冥府手当というものがあり、はて、これはなんだ? と思い副官に尋ねたが、「特別手当の一種です」と説明になっているようななっていないような、そういうはぐらかし方をされたことを思い出した。
この特別チームに対する手当であるから、きっと理由を説明するにもできなかったのだろう。エウブレナは相変わらず無表情、見方によっては怒りをはらんでるともとれるような顔つきの副官をチラリと見て、こっそり嘆息した。きっと、エウブレナがハデスIVとして慣れてくるのを待って、今日の説明ツアーとなったのだろう。
「……私の顔に何か?」
「いえ、何でもありません!」
じろ、と副官に睨まれてエウブレナは慌てて手を振った。嫌われている、わけではないが、エウブレナからすれば冷たくて怖い『部下』である副官でも、しっかりとハデスIVのことを考えていてくれている。やはり、認められるようにもっと努力しなければ、とエウブレナは心の中で改めて決心を固めた。
そんなエウブレナのきらめいた視線を居心地悪く感じたのか、副官は少し咳ばらいをすると、男性の方に向き直った。
「今年からはハデスIVがおられます。今後の業務内容やハデスIVの対応スケジュールは、後程、時間をとって協議するのがよろしいかと」
「そうですね、今日慌てて決めることもないでしょう。なあに、長くやってきましたが、十年も問題なく過ごせていたのです。今日、明日、慌ててハデスIVに対応いただかなくても――」
「室長!!」
男性の柔らかな言葉をかき消すように、モニターに向かっていた女性が声を上げた。振り返って、室長と呼ばれた男性を見る顔は強張っています。
「どうした?」
「すみません、ここのエネルギー量の波形が警戒レベル三に達しようと……」
慌てて、室長はモニターへと近づく。その後姿を見て、副官とエウブレナは思わず顔を見合わせた。
続いて、隣のモニターを監視していた男性ヒーローも中腰になって室長を呼ぶ。
「……今日、明日、慌てる必要はない、と言ったそばからきな臭いですね。ハデスIV、有事に備えて神器の準備を」
そう言って、副官も持ってきた人造神器を取り出し、静かに構えた。どきり、と心臓を跳ねさせながら、エウブレナも神器を手に取る――しかし、手に取った瞬間、神器の異常に気付き、思わず声を上げた。
「どうしました?」
「神器が……か、勝手に起動しようとしています……っ!」
「!? 室長! ハデスIVの神器が門と共鳴しているようです!」
副官の叫び声にモニターをチェックして対応を進めていた特別チームの三人が振り返る。そして、ハデスIVが両手で抑え込むように持っている神器が淡く輝き始めているのを確認して、顔を青ざめた。
「これは……! いけません、警戒レベルを最大まであげなさい! ハデスIVはただちに退去を――」
室長の指令を遮るように、ドン、と強く部屋全体が揺れた。室内にいたメンバーがいずれも、軽く悲鳴や呻き声を上げながらバランスを崩す。
そのような状態の中でも、モニタリング端末にかじりつくようにしてバランスを取っていた男性ヒーローが、端末に存在する緊急コール用の真っ赤なボタンに手を伸ばす。常時は迂闊に触れないよう、クラッカープレートに包まれているボタンに拳を叩きつけ、ガラスを割り砕いた勢いそのままにボタンを拳で殴り押した。
室内が赤色灯の明りに染まり、重々しいサイレンが鳴りだす。自動音声のアナウンスが、ハデスフォース全体への警告と所属するヒーロー達への臨時戦闘配備を指示していた。
「ハデスIV! 神器の制御はできないのですか!?」
「すみません! 力を抑えるので手いっぱいで……! どうしたの、なんで言う事を聞いてくれないの!?」
副官の声に、エウブレナは半ば泣きそうな声で応えた。手の中の神器は、ますます明るい光を放ち、もはや眩しいぐらいだ。それだけではなく、どこかへ行こうとしているかのように、エウブレナの手から逃れようとするように、小刻みに振動していた。
副官は舌打ちをすると、エウブレナの腕を取って引きずるように駆け出そうとする。とにかく、神器が門と共鳴しているのは確かであり、室長の指示に従って一刻も早く神器をここから離すべきだ。そう判断した副官は実に正しかった。ただ、現実がそれを許さない。
「!! 門内部の防御壁三層すべて破壊されました!」
その女性ヒーローの悲鳴ともとれる叫びと同時に、門が叩かれる。トントン、とまるで訪問を告げるノックのように、『向こう側』から叩かれたその場違いなほどの軽やかな音に、一瞬だけ全員の視線が門に集まった。まるで、門の向こう側に誰かがいるような……。
そう思った次の瞬間、ノックなどという言葉では生ぬるい程の打撃音が門から響く。大量の『何か』がここから出してくれ、と訴えるかのように、激しく門を叩いている。
「人造神器起動!」
室長の声に、部下の二人が我に返ったように慌てて人造神器を起動した。そして、門より這い出るモノ達へと対処しようと、エウブレナと副官の前に出る。
「ハデスIVの退去を! 早く!」
「っ! ハデスIV! 行きますよ!!」
「……駄目です、神器が門へと行きたがっている!」
門を叩き続ける騒音の合間に、叫んだエウブレナの声。副官が「なんですって」と問い返した声は、残念ながら門の破壊音にかき消された。
巨大な錠前も、金属製の分厚い封印板も、それらすべてを弾き飛ばして冥府の門が開く。数十年の時を経て、ここに現世と冥府は再び交わることとなってしまった。
弾け飛んだ門の向こうからは、冷たく、生臭い暴風が噴き出す。それと共に、亡者達が一斉に溢れ出してきた。その勢いは、ハロウィンパーティーの仮装やフィクションで見ていたゾンビ、アンデッドの動きとは程遠く――まるで、弾丸の様であった。
「ぐふっ!」
「室長!!」
最前線に立って、人造神器を構えていた男性が抑えきれずにその波に飛ばされる。慌てて、男性ヒーローの部下が救いに走るが、亡者の勢いはおさまらない。すぐに、男性ヒーローも、もう一人の人造神器で必死にゾンビを打ち払っていた女性ヒーローもアンデッドの波に飲み込まれていった。
「助けないと!」
「ハデスIV! 神器が使えない今! あなたはただの少女です!! 下がりなさい!」
「でも!!」
「早く!」
副官が突き飛ばす様にエウブレナの肩を押した。彼女の振りかざした人造神器でエウブレナ達に迫りつつあった亡者の群れは一度、払われる。しかし、それでできた空間を埋めるように次から次へと、門の向こうからは亡者が押し寄せてきていた。
ぎり、とエウブレナは悔しそうに唇を噛み締めるが、副官に背を向けた。今の自分では、戦力になるどころか足を引っ張ることしかできない。邪魔者であることは確かだ。背後で副官の戦う音がするが、それを耳に入れないようにして、意識を切り替える。
エウブレナは熱く、光ったままの神器を必死に押さえつけて、ようやく走り出した。門が開かれたことで、神器の『思考』も多少は戻ったのかもしれない。先ほどよりはかろうじてエウブレナの言う事を聞いてくれるようになったおかげで、エウブレナは何とか神器を胸に抱えたまま、廊下に飛び出すことができた。そのまま、真っ直ぐエレベーターへと向かう。妙に冷静な頭の片隅で、「非常階段の位置を聞いておくべきだったわ」ともう一人のエウブレナが頭を抱えていた。
「ハデスIV!」
「!! みんな!」
「ご無事でしたか!」
エレベーターから降りてきたのは、エウブレナも顔なじみが深いハデスフォースの中でも荒事専門の戦闘部隊のメンバーだった。何度も手合わせをしてもらって扱いてもらっている。見知った顔の数々に、エウブレナは無意識に安堵の息を吐いていた。しかし、すぐに顔を強張らせる。
「向こうの、冥府の門が開いて、ゾンビ達が……何人か、取り残されていて……」
「わかりました! どのみち、緊急警報で制圧に来たのです、すぐに向かいます!」
と、隊長が軽く敬礼をすると同時に、破壊音が響く。まさか、とエウブレナが振り返ったその先では、重々しい扉が形を失くして、代わりに無数のアンデッドが廊下を走ってくる悪夢のような光景だった。
「全員、迎撃態勢を!! ハデスIVは……」
「すみません! 私! 神器が使えないんです!!」
「なんと……!」
隊長は目を見開くと、人造神器を持ってゾンビを打ち払う自分の部下の背中と、エウブレナを一度見比べた。その後、エウブレナを見返して重々しく頷く。
「わかりました、でしたら至急避難を! 大丈夫です、我々以外にも後詰めの部隊が随時続きますし、上階でも全力でヒーロー達が配備を進めています」
「……ごめんなさい……っ!」
「なに、調子が悪い時は誰にだってありますよ。……さあ、どうぞ避難を!」
大丈夫、後詰めの部隊にも連絡を入れておきます! と隊長は朗らかにエウブレナに言った後、一転、鋭い眼差しで迫りくる亡者を見つめた。背後で、エウブレナが走り去る足音に、息を吐く。まさか、ハデスIVが戦力にならないとは……。目の前では、部下達が必死に戦っている。しかし、アンデッド達の物量に押されつつあった。
この地下が一本道の廊下になっているのは、このような事態を想定して作られているからだ。だからこそ、今はまだ何とか進行を遅らせていることができている。しかし、それも時間の問題かもしれない。
「状況はかなり深刻だな……」
そう呟いた隊長は、後詰めの部隊にエウブレナの保護を頼むと共に、冷静に状況を報告するのだった。