Re:HalloweenNight - 6/9

 被害状況をまとめ終えたエウブレナはため息をついた。死者こそ出なかったものの、重傷者は多数、軽傷まで含めれば膨大な人数となっていた。それだけではない、市街地の建物や道路への被害は著しく、復興にはかなりの時間がかかることになるだろう。

「ハデスIV。もうすぐ会議のお時間ですが、準備はできましたか?」

 コーヒーカップを片手に持って声をかけたのはハデスIVの副官だった。額の包帯も痛々しいが、だらりと垂れ下がっていた左腕は今やギプスで固められて三角巾で吊られていた。やはり骨折していたらしい。

「はい、なんとか……あの、お加減は?」
「問題ありません。私より、重傷な方々がいるでしょう。……会議が終わったら、時間を作ります。一度、様子を見に行ったらいかがでしょうか」

 副官よりも重傷な人間。そう、門の前で初期に対応しようとした三人だ。エウブレナが離脱した後も戦い続けた彼らだが、特に室長の怪我が重く、意識不明の重体だとエウブレナは聞いている。
 副官の言葉に、エウブレナは暗い顔をして「そうですね」と頷いた。自分がしっかり神器を制御できていれば、あの場からすぐに退去することができていれば……。テーブルの上の、被害をまとめた資料を虚ろな目で見つめる。

「……ハデスIV。お時間です」
「……はい」

副官に渡されたコーヒーを一息に飲み切ってエウブレナは立ち上がった。
 エウブレナの手からカップを預かりながら、副官はエウブレナの目を見ずに、静かに告げる。

「ハデスIV。この度の事故は、あなただけのせいではありません。このような事態を想定できず、まだ就任して浅いあなたをあのようなセンシティブな場所に案内した私の落ち度でもあります」
「……それは」
「あなただけが、責任を感じる必要はありません」

 つ、と顔を上げた副官とエウブレナの視線が交わる。エウブレナは静かな色を湛える副官の瞳を覗き込んだ。そして、ひとつ、瞬きをしてから口を開く。

「そのとおりかもしれません。確かに、私は未熟者で、力も技術もない。他の方々の方がよほど優秀です。……ですが、私にもハデスIVとしてのプライドがあります。この後の会議で、どう糾弾されるかはわかりませんが……私は、逃げないし、ただ黙って謝るだけの人間にもならない」

エウブレナは力強く言い切った。続けて、少しだけ表情を緩めて言葉を紡ぐ。

「……ですが、一人で立ち向かうのも、本音は、とても怖いです。だから、その、背中を見守ってくれていると……」
「私の役目は、あなたを見守ることではありません」

 ぴしゃり、と副官の言葉がエウブレナの声を断ち切った。――しかし、ひゅ、と息を詰めたエウブレナに、副官はいつもの無表情を崩してニヤリと笑ってみせる。

「私の役目は、あなたの背中を支え、片腕となって動くことですよ、ハデスIV」
「!!!」

 エウブレナが思わず、彼女の名前を呼んだ時には、すでに副官はいつもの無表情に戻っていた。何事もなかったかのように、片手にマグカップを持ち、エウブレナを先導する。歩き始めたピンと伸びた背筋に、エウブレナは憧れめいた眼差しを思わず向けてしまった。動かないエウブレナを不審がるように、副官が振り返ってくる。

「なにか?」
「なっなんでもないです!!」
「そうですか」

 振り返った副官の顔はやはり無表情で、声音は冷たかった。

 臨時の作戦本部、ということであまり設備も整っていない会議室に主要メンバーはぎゅうぎゅうと押し込まれていた。特に作戦の中核を担うハデスIVとアポロンVI、それにアフロディテIXとヴァンガード司令のゾエル、それから重鎮であるポセイドンIIが座っているぐらいだ。後は、背後で立ったままの参加となっている。

「なるほどね、じゃあ、あとはハデスフォースビル内のゾンビちゃん達を駆逐して、地下の門を閉めればオッケーってことネ」

 各自のもっている情報の擦り合わせが終わったところで、アフロディテIXが気だるげに髪をかき上げながら言葉を発した。その言葉に、アポロンVIも重々しく頷く。

「言葉にするのは簡単だが、地下の門を『誰が』『どうやって』閉めるか、が問題だ。ポセイドンII、以前の時はどうされたのですか?」

 アポロンVIに話を振られたポセイドンIIは少しばかり目を伏せて、まるで記憶の海を探る様にした後に徐に口を開いた。

「当時のハデスIVが神器でもって、門を閉じていたはずだ。記録はハデスフォースに残ってなかったか?」
「す、すみません、十年より前の資料はバックアップを取っておらず、また、門の担当者も現在治療中の為対応できず……」

 ハデスIVの言葉をアポロンVIは手を振って止めると、「ハデスフォースの不手際であるな」と厳かに告げた。その言葉に、室内に緊張が走る。同席していた英雄庁からの事務官がアポロンVIの言葉に同意するように大きく頷いた。
 それを視界の端で確認したアポロンVIはすぐにポセイドンIIに視線を走らせ、アイコンタクトを取った。その後に少し咳ばらいをする。英雄庁の事務官が何事か喋ろうと口を開いた瞬間に、被せるようにアポロンVIが言葉を重ねた。

「その不手際以外にも、根本的に、此度の事故については事前準備もせずに当日の思い付きで、不安定なエネルギー地場である門へとハデスIVを案内したという事が発端。さらに、ハデスIVは神器を制御できずに門を開いてしまった。その後は神器を使えなくなってしまったという大失態。どう責任を――」
「アポロンVI。その話はそれまでにしておいたらどうだ。今は、それより論ずべきことがあるだろう」
「しかし、ポセイドンII。ハデスIV及びハデスフォースが役目を果たしていればここまで被害は広がらなかったでしょう。原因を明らかにするのも大切では?」

言い募るアポロンVIを手で制し、ポセイドンIIは重鎮としての存在感を放つ。
 表舞台に立つことはほとんどなく、サポート役に徹していることが多くとも、やはりそのオーラはその辺の人間なら足が竦んでしまう程の重さを持っていた。

「それも正しい。しかし、ハデスフォースの内部事情や、ハデスIVの神器に関することをここで部外者が情報も持たずに喧々囂々と喚きたてても意味がなかろう」
「……ポセイドンIIがそうおっしゃるなら。責任追及は、事態収拾後、ということで。よろしいか?」

 アポロンVIの後半の言葉は会議室全体に、というよりも英雄庁から派遣されてきた事務官を含めた人間に向けられていた。

「……庇われましたね」
「えっ」

 副官に耳元で囁かれて、ハデスIVは目を見開いた。それに気づいたアフロディテIXが、ハデスIVにウインクをパチンと送ってくる。

「そうね~。それに、この後にハデスIVちゃんに名誉挽回してもらえばおけおけ!」
「アフロディテIX! そういう軽々しい話では……」
「落ち着け、アポロンVI。話が進まなくなる」

 ポセイドンIIに諫められて、アポロンVIは渋々と口を閉ざした。心なしか、普段の威厳が鳴りを潜めて、拗ねた子供の様な顔になっているように見える。思わずハデスIVは笑いそうになってしまい、慌てて太ももを抓って表情を引き締めた。

「まあ、とにかくだ。何にせよ、地下の門を閉じる実績があるのはハデスIVのその神器であることは間違いない」
「そう、ですね。これまでも、門自体に神力を流し込むことで封印してきました。今後は、私がその役目を担う様に準備を進めているところです」

 ハデスIVがポセイドンIIの話を受けて、緊張した面持ちで言葉を選びながら回答をした。厳密にいえば、エウブレナ自体は例の門にはほとんど関わっていない。それでも、他人事ではなく、ハデスIVとして、ハデスフォースの一員として、そういう言葉遣いになるように慎重に話をする。
 その様子を、ポセイドンIIは目を細めて優しく見守っていた。

「ですから、作戦の第一候補としては私が神器を用いて、門を閉ざせるか確認するために現地に赴くのが一番良いでしょう。第二候補としては、まだ効果のほどはわかりませんが、ハデスフォースの地下を丸ごと埋めてしまう計画も上がってきています」
「ハッ、派手にやるじゃねェか」

 ゾエルがハデスIVの作戦を鼻で笑って混ぜっ返した。副官がゾエルをギッ、と睨みつけたが、ゾエル本人はどこ吹く風で「思い切りがイイ、って褒めてんだよ」と肩を竦めて見せるだけだった。

「……では、ハデスIVが神器を持って地下へ向かう、という作戦をメインに据えるとしよう。ハデスIV、君は今、神器は使えないのだな? 人造神器は?」
「人造神器なら使えると思います」
「ふむ、後で試してみてくれ。ハデスIVを単独で向かわせるわけにはいかない、護衛についてはヴァンガードに丸投げで構わないな? 実力もあり、ハデスIV個人とも連携が取れるメンバーと言えば、ヴァンガードの面々で良いだろう」

 アポロンVIの提案に、ゾエルは異議なし、と回答した。同様に他の会議室の面々も問題なし、と同意を口にする。それをぐるり、と見渡したアポロンVIは静かに頷いた。

「現在、地下に溢れている化け物……アンデッド達は各フォースが常時対応している。戦力割り振りはヘラフォースに担当してもらっているが、ここはそのままで良いだろう。ポセイドンIIもこれまでと同じく、市民への対応や被害状況の把握などを行って頂きたい」

ポセイドンIIが黙って頷く。
 次に、アポロンVIはアフロディテIXへ目を向けた。

「アフロディテIXには突入するハデスIV達と連携を取って、有事の際に作戦指揮をとってもらいたい」
「りょ。あーたは?」
「私とハデスフォース、アポロンフォースはビル周辺にて、外に溢れてきたアンデッドの相手をする」
「VIちゃん、室内戦闘苦手だもんね~」
「……適材適所、と言ってくれ」

アフロディテIXの軽口に文句を言う事もなく、アポロンVIは少しだけ肩を落として投げやりに答えた。
 おおよそ、アポロンVIの示した方針が受け入れられ、細かいところは各自で詰めることになり、会議は解散となった。それぞれが役目を果たすべく、慌ただしく会議室から立ち去っていく。
 副官を連れて立ち去ろうとするエウブレナを、ゾエルが呼び止める。

「この後はウチとハデスフォースの合同作戦、ってことになるが……どうする、どっちが主導を取る? お前がやるか?」
「……いえ、ボスがやってください。私は前線に出なければならないので、後方に控えているボスが指揮を執った方がよいかと」
「あいよ。じゃあ突入作戦の詳細はこっちで詰めてそっちに出すから、それに合わせて人員を用意するようにしてくれ」

わかりました、とエウブレナが頷いた。
 ふと、ゾエルはエウブレナの傍らに控えている副官と目があった。その瞬間、二人の間に目に見えぬ火花がバチン、と走る。ゾエルは意味もなく姿勢を正し、もともと女性にしては長身の体をさらに大きく見せるように胸を張った。

「どーも。ウチのエウブレナがお世話になってるね」
「とんでもございません。こちらこそ、私共のハデスIVが常々お世話になっているようで」
「いやいや、どうだい、ウチのエウブレナ優秀だろう?」
「そうですね。お若くていらっしゃいますが、ハデスフォースのことをよく考え、ハデスフォースの顔として立派に勤めて下さっています。さすが、私たちのハデスIVは素晴らしい、と鼻高々でございます」

 副官とゾエルがなぜか急にエウブレナのことを褒め始めた。間に挟まれたエウブレナは、目を白黒させつつ、黙っていたが……あまりにも褒め殺しが過ぎるので、途中で副官の腕を引っ張って強引に会話を打ち切らせた。その後姿を見送ったゾエルはひとつ、ため息をつく。

「やれやれ、ヴァンガードに来たのだって最近なのに、もう卒業かい。寂しいもんだねェ……」

 もう少しぐらい面倒見させてくれてもいいじゃないか、とゾエルは困ったような笑みを浮かべてから、気を取り直す様に頭を振った。エウブレナが卒業したとしても、まだヴァンガードには二人の雛鳥が残っている。それに、エウブレナもなんだかんだで、ヴァンガードにも居を構えてくれている現状、これ以上の不満は望みが高すぎるな、とゾエルは一人苦笑いをした。

 戦場の様に人が行きかう普段と様変わりしたハデス区の病院の一角に、エウブレナは副官と共に訪れていた。目的は怪我をした室長達への見舞い。聞けば、女性ヒーローの方も意識はあるものの、ベッドから起き上がることができないほどの重傷だと言う。
 残念ながら室長は集中治療室に入っており、現在は家族以外は面会謝絶状態であった。それを告げられた時のエウブレナは、今にも倒れそうなほどに顔を真っ青にして唇を震わせていた。その背中を副官が力強く叩くことで、ようやく自分を取り戻した感すらあった。
 次に訪れた女性ヒーローの病室では、もう一人の怪我人が椅子に座って何事かを話していた。部屋に入ってきたエウブレナと副官に気づき、慌てて立ち上がって敬礼しようとするのを、エウブレナが抑える。

「その、お加減は……」
「自分は大丈夫です」
「私も、怪我は確かに重いですが、命はありますので」

 そう言ってベッドの上の女性ヒーローは、暗い顔をしたエウブレナを元気づけるかのように明るく笑って見せた。その笑顔に、エウブレナもぎこちなく笑い返す。
 そんなエウブレナに、二人のヒーローは一旦顔を見合わせた後に、真面目な顔をして口を開いた。

「……作戦の概要を、聞かせて頂きました」

 驚いたエウブレナが副官を振り返る。副官は無表情のまま小さく頷いた。

「ハデスIV。彼らにはさきほどの会議終了後に私の方から彼らに連絡をしました。門のことについて、一番詳しいのは彼らです。何か情報を持っているのではないかと」
「そのことですが、これを」

男性ヒーローが複数枚の紙をエウブレナに差し出す。
 その紙には、門の構造やパーツの位置、さらに門内部の構成などが詳細に記されていた。エウブレナはそれにさっと目を通した後、すぐに副官に渡してチェックをしてもらう。

「覚えている限りで書き出しを行いました」
「資料、バックアップがなくてわからないんですよね? 少しでも、私達の知ってることが役に立てば、と思って……」
「僕たち、あまり絵心がないのでわかりにくいかもしれないですけど」

 副官が黙ってエウブレナの手元に紙の資料を戻す。エウブレナの顔を見ると、副官は力強く頷いた。エウブレナは両手に収まった、紙の束を大切そうに胸に抱える。

「とても助かるわ。本当にありがとう。これがあれば、きっと作戦の遂行率も上がるはず」
「そのこと、なんですけど」

 男性ヒーローが、強張った声でエウブレナの顔を見た。エウブレナと、彼はあまり年齢が変わらない程度だ。彼の方が、少し年上、ぐらいだろうか?

「ハデスIVは……神器が使えない状態、と聞きます。その状態で、爆心地に向かって問題ないのですか? 安全は担保されているのですか? 万が一が、あったら……」
「……大丈夫よ、そのことなら。神器は使えないけど、さっき試してみたら人造神器は問題なく使えたの。それに、アレス零がサポートに入ってくれることになってる。だから、生身一つで飛び込むわけじゃないわ」
「そう、ですか……」

 エウブレナがつとめて明るく言ったものの、二人のヒーローの顔色は晴れない。エウブレナは思案して、かける言葉を探す。きっと、彼らは専門チームとして組織されながらも、事態を防げなかったことに責任を感じているのだ。

「……あなた方が、しっかりとモニタリングをして、事前に異変に気付き。声を掛けてくれたから、私たちは不意打ちを免れたわ。それに、マニュアル通りに緊急警報も発してくれた。だから、前回の事故と違って今回は初動に遅れることなく、被害も考えられる最小限に留まっている。あなた達は自身の役目を立派に果たした。そう思っています」

 エウブレナの……ハデスIVの言葉を、二人のヒーローは頭を垂れて静かに聞き入る。自分達より年下でありながら、必死にハデスIVとして責務を全うしようとするその声に、胸を打たれながら。

「それに、この資料を作ってくれただけでもとてもありがたいわ。本来ならあるべき資料がなかったのも、あなた方の責任ではなくてハデスフォース全体の責任ですもの」
「……それで言えば、古くから所属しているにもかかわらず、バックアップを引き継ぎできなかった私や室長の責任が大きいということになりますね」
「そっ、そこまでは言ってません!」
「そうでしょうか。就任したばかりのハデスIVの関知できないことでありましたからね」
「そういう意味ではなくてですね……! もう!」

副官の言葉に、エウブレナは慌てた。エウブレナの慌てようとは大半的に、副官はいつもの無表情でツン、とすまし顔をしているだけだ。
 顔を上げて、エウブレナと副官のやり取りを見た二人のヒーローは顔を見合わせて、少しだけ笑い声をあげる。

「ハデスIV。お言葉、ありがとうございました。……私達は私達にできることで、作戦をサポートしようと思います」
「資料以外にも、気になる点などあったらすぐに連絡ください。こちらでも他に伝えた方が良いことがないか、改めて二人で話し合おうと思います」
「二人とも……ええ、期待しているわ」

 ベッドの上の女性も、椅子に座っていた男性も、ハデスIVに向かって痛む体を抑えて敬礼をする。

「ハデスIV。どうぞ、ご無事にお帰りください」
「……全力を尽くします」

エウブレナは返礼をしたものの、約束はしなかった。
 その言葉に、二人のヒーローは少しだけ眉を顰めたが、副官にそろそろ時間が、と割り込まれて何も言わずにエウブレナの後姿を見送ることとなった。
 エウブレナとて、生きて帰るのはヒーローとして大切な事だとわかっている。それでも約束はできなかったし――それに、彼らの前に再び立つとき、自分が「ハデスIV」でいられるかは、わからない。エウブレナとして帰ってこれても、ハデスIVとして帰ってこれるかはわからないのだ。
 そんなエウブレナの心情を察していたのか、副官も何も言わなかった。二人は黙ったまま病院の廊下を歩く。
 沈黙に耐え切れなくなったのか、それともただの事務的な発想なのか、何事もなかったかのように副官がエウブレナに例の資料について話しかけた。

「資料をヴァンガードに回します。よろしいですね?」
「え、あ、はい!」
「……一応、ハデスフォースの機密事項、という事になりますが。本当にヴァンガードに回してよろしいので?」

 即答したエウブレナに、副官は胡乱気な視線を向けた。その視線を受けて、エウブレナは思わず委縮する。今は咄嗟に答えてしまったが、よく考えなければいけない事柄であった。エウブレナは一人、心の中で反省する。
 歩きながらどういう対応が良いかをエウブレナは考える。副官は黙ってしまった若きハデスIVを催促することもなく、同じスピードで隣を歩きながら導き出される答えを待った。

「機密事項ではありますが、現地に同行するメンバーも知っておくべき情報でしょう。また、どのみち事態収拾後にはあの装置を含め全体的に見直しが必要になると思われます。その資料も正規のものではありませんし。ヴァンガードに渡して問題ないと考えます」
「了解しました」

短く答えた副官の態度に、自分の回答が満点正答だったのだろう、とエウブレナはほっと息をついた。
 やはり、副官にはなかなか頭も上がらないし、厳しく「指導してもらっている」気分になってしまう。いやしかし、これからの作戦はエウブレナ自身にすべてがかかっているのだ。頼りになる副官もいないし、同行してくれる予定のアレイシアだって、あくまでも道中まで。最終的な判断も、処置も、エウブレナが一人で下す必要がある。
 この後の作戦に不安と興奮を覚えながら、エウブレナはすたすたと歩く副官の後を追った。